故郷を離れるときに唐突に告白されて、別に好きな人もいなかったし、文通でお付き合いみたいな清い関係をずっとしていた。ずっとしていたけれど、どうしても本人と触れ合いたいし、声も聞きたい。そう思ってしまうのは行けないことなのだろうか。
こんな考えになるのは、たぶんサンドロックが危機に陥って、それが全て解決したからかもしれない。町の人たちは仲間や家族とハグしあったり、泣きあったり、そこに私も入っているのだけれど、なんとなく虚しさを覚えてしまう。
しばらく経ってから、ハイウィンドの相手からこっちに来ると手紙があった。やっと会えると心が踊った。でもそれも彼と会うまでだった。彼の第一声は「ここは危ないから一緒に故郷へ帰ろう」だった。
私も彼も、ビルダーをしている。それならば、ビルダーの仕事がどれだけ町にとって大事なのか解っているはずだ。そう言っても聞く耳を持たない彼が次に放った言葉は指輪を取り出して「故郷で僕と幸せになってください」だった。
ああ、どうして、きみと幸せになれると思うんだい!?
彼には突然過ぎて頭が混乱しているけれど、嬉しくはあるから、指輪は一応受け取っておくけれど、返事は手紙で送っても良いかと答えた。彼もすぐに返事がもらえるとは思っていなかったようで、ビルダー業が忙しいからとサンドロックの観光もせずにそのまま帰ってしまった。
・・・・・・駅のホームでプロポーズなんて、ロマンスの欠片もないなと乾いた笑いが込み上げる。
「ハハッ」
ワークショップに帰ろうと後ろの階段の方を振り返ると、そこにローガンが立っていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あーあ、見られてしまったか。朝早かったから、誰もいないと思ったんだけど。そう言えばローガンはこの時間、前哨基地に行く時間か・・・
大きなため息をついたら、明らかに慌てているローガンがおかしくて、問い詰める気も失せたので、彼に近寄った。
「見たな、見られちゃ仕方ない」
「故郷に帰るのか?」
「・・・・・・それは、ないとおもう」
「そうか」
ローガンが一瞬ニヤッと笑った気がした。疑問に思う前にいつもの表情だったから、気のせいだろう。
ローガンは背が高いから、近くで話していると首が痛くなるんだよな。このまま話すならどこか座りたい・・・
「ローガン、もう少し話に付き合ってくれないかな、そこのベンチでいいかな」
「ああ、いいとも」
宇宙船に乗り込んだ時に、文通相手から何も来ないのが悲しい、でも戦争中なのだから仕方ないと解っているがなんて言っていた。あれからしばらく経って、町も落ち着いたころに、駅のホームでプロポーズをうけているビルダーに遭遇した。
***
宇宙船でビルダーの表情を見て、オレならあんな顔をさせないと思った。ビルダーの反応からすると、これならあちこちに罠を張り巡らせれば、なんて頭の隅に浮かんだ。そう思ったのがバレたのかと思うほどタイミングよく、ビルダーがこっちを振り返ってため息をついたものだから柄にもなく慌ててしまった。
そんなオレにまたため息をついてこっちへ近寄ってきた。
故郷に帰るのか聞いたら、迷っているようだったが、あの感じならばもう迷う必要もないだろう。