砂漠の中にある町、サンドロックにもちゃんと四季がある。
今は、冬。夜はとても寒くなる。昨日は随分と冷えたから、もしかしたらと思って外に出たら、やはり・・・
「雪だあ」
ちらちらと白い雪が舞っている。日の当たらないところにあっただけの雪が、今日はかなり積もったままになっている。去年は確か降らなかったから、小さな森を作ったのが影響しているのかな?
町へ行くと、たくさん積もったままになっている。
あれ?広場に小さな雪だるまがある・・・誰が作ったのかな?それなら私も作っていいよね?
さすがに広場では人の目があるから、作りたくはないなあ。そうだ、教会の方なら人もいないだろう。
「あ」
町の一番高い場所に建っている教会。その裏に、最近学校が建ったのを忘れていた。子供たちが遊んで雪だるまを作ったらしい。
大きな雪だるまと中くらいの雪だるま、とても小さい雪だるま・・・先生と子供たち三人で作ったのだろうか。とてもかわいい。塀にまで小さな雪だるまを拵えてある。
それだけ遊んだ訳だから、雪はひとつも残っていなかった。仕方ない、ゲームセンターの方に行ったら残っているかな?
ゲームセンターの方にはまだたくさん雪が残っていた。が、人が多くておちおち雪だるまなんて作ってられないな・・・いや、何か聞かれたらこれもビルダーの仕事とか言って乗り切ろうかな。
うん、作っちゃおう。
小さな雪玉を作って、コロコロ転がしていく。
あまり大きくすると重くなって動かしにくくなるから、適度に転がして完成位置に置く。
さて、頭の方は・・・こんなものかな?
・・・・・・よし、とりあえず三つ作れた。もう一つはすごく大きく作って中身をくりぬいておいた。即席のかまくらだ。雪だるまの帽子や顔はどうしようかなと、ポーチを探っていた時だった。
「ビルダー、手が冷たそうだけど、大丈夫かい?」
「!?」
振り返るとそこにいたのは、ゲームセンターと博物館のオーナー、カトリだった。
そりゃここはゲームセンターの近くだからいるとは思ったけれど、この時間は博物館で仕事をしていると思ってたのに・・・
「楽しそうにしているから、声を掛けるか迷ったんだけど。でもね、手が真っ赤なんだよ。いい加減にしておかないと霜焼けになってしまうよ」
カトリは、私の手を指差して心配そうにしている。あ、確かに真っ赤だ。夢中で気がつかなかった。
「ビルダーさえ良ければゲームセンターの中で休憩していきな。温かい飲み物くらいならだしてあげるよ」
「んんん、その飲み物はトークン何枚ですかね?」
私の冗談に大笑いして、これは親切だからとカトリが言うので、お言葉に甘えることにした。
ゲームセンターに入ると、暖かくてほっとする。ちょうど誰もいなかったみたいで、機械の音が電子音を奏でている。
自分が手伝ったからどうなっているかはわかっているけれど、来てみるとあの当時のことが蘇る。
パンチングマシンを作ったり、麻雀テーブルを直したり、食品を並べる棚を作ったりと、なんだかんだカトリのビジネスに貢献しているなと改めて思う。
「ビルダー、はいこれ」
カトリが温かいお茶を出してくれた。カップを持ったら、ちょうどいい熱さで手が暖まる。
「ありがとう、あったかいな~」
カトリがすぐ近くのグリーンのソファーをすすめてくれたので、遠慮無く座る。その隣にカトリも座ってくれた。
「ビルダーはあまり自分の体調を心配しないんだね」
「あー、ちょっと夢中になりすぎたよ、作ってたら変にこだわりがでちゃってさ」
「雪だるまにも職人業がいるのかい?あはは!」
カトリとはビジネスの話が多くて、こんなに「普通」の会話をしたことがなかった。意外と笑う人なんだなあ。いれてくれたお茶もおいしい。素直に言ったら、今日はおいしかっただけだって答えてたけれど。
私のビルダー業について話してほしいとお願いされて会話をしていたら、ゲームセンターのドアが開いた。
「こんにちは、カトリおばさん!」
「おや、ジャスミンじゃないか!どうしたんだい?」
入ってきたのは町長の娘のジャスミンだった。カトリをおばさんって呼ぶのかあといつも思うんだけど、本人が気にしてなさそうだから、なにも言わない。いいたいけどいわない。
「あのね、外にある雪だるま・・・あっ!ビルダーもいる!もしかして、外の雪だるま作ったのはビルダー!?」
あらら、ばれちゃった。嘘をついても仕方ないので頷いたら、外にアンディもペブルスもいるから、一緒にもっと作って欲しいと頼まれてしまった。待ってるねとジャスミンは元気よく外へ出ていった。
「ふふ、ビルダーに依頼だね。もう手も温まったかな?」
カトリは私が持っていたカップを取って、いってらっしゃいといってくれた。
「うん、ありがとう。お茶ごちそうさま、またね」
ゲームセンターの外へでると、アンディが私の作った雪だるまに顔を描こうとしていた所だった。
「あ!ビルダー!ねえ、これ君が作ったの?ぼくが顔描いてもいい!?」
私を見るなりそういうアンディの後ろで、ペブルスがじっと雪だるまを見ているのに気が付いた。描きたいのかな?
「ちょっと待って、アンディ。学校のところに雪だるまがあったけれど、あれの顔は誰が描いたの?」
「え?ぼくとジャスミンだけど・・・」
「じゃあ今回はペブルスに譲ってあげてくれる?まだ一度も描いてないからね?」
私がそう言うと、ペブルスがぴょんぴょん跳ねてよろこんでいた。
それをみたアンディとジャスミンも納得したのか、ペブルスに持っていた黒い土を渡してくれた。
「わあい、ぼく、描く!」
雪だるまの前でピョコピョコ跳ねるペブルス・・・あ、高さが足りないな。よし、私が抱っこして描いてもらおう。
「おおー!高い!」
「これなら描けるね。好きに描いて良いからね」
雪だるまの顔をペブルスなりに描いていく。丸い頭に目が二つ、鼻一つ、口はにっこり笑ってる。
「できた!これビルダーだよ!」
「お、そうなんだ!うれしいなー」
ペブルスから見たら私はにっこりしている人に見えているのだろうか。怖いと思われている訳じゃないようでひと安心だ。
「まだ描く?」
「ううん、みっつあるから、ぼくはひとつだけ」
あらら、この子は一人一つって考えがちゃんとあるのか・・・ペブルスの母であるクリスタルは、自分のことを「出来た親じゃない」なんて言ってたけれど、ちゃんと教えているじゃないかと感動してしまった。
「そう、じゃあ次は誰が描く?」
アンディとジャスミンを見たら、二人とも手をあげた。そんなに描きたいのだろうか。まあ良いけど。仕方ないので、持っていた紙とペンで即席のくじを作って引いてもらうと、当たりを引いたのはジャスミンだった。それを見たアンディがちょっとぶすくれてる。
雪だるまは大人が作ったサイズだから、結局全員抱っこすることになるなあ。
「じゃあ、ジャスミンも抱っこしていいかな?」
「はーい、お願いします!」
ジャスミンの絵は一度見たことがある。結構特徴をとらえていて上手だったななんて考えていたら終わったようだ。
「できました!あたしのお母さんです!」
ジャスミンのお母さんは、町長のトルーディだ。結構似ている。
「さすが、うまいね」
「えへへ」
「さて、それじゃ最後はアンディだ。抱っこしていいかな?」
「届かないから、仕方ないよね!いいよ!」
恥ずかしいの誤魔化してるのかな?拒否されないだけいいか。ちょっとショックだけど。
そういえば、アンディは賞金稼ぎ騒ぎの時も、学校の発表の時もイラストを描いていたっけ。研究所の局長には、もっと誰が見ても解るように形式を守ってなんて言ってたけど、今はまだ自由に描いて欲しいと思うんだな。
「できた!」
おお、これは聞くまでもない。
「ローガンだよね」
「そう!かっこいいでしょ?」
「そうだね、ローガンの特徴がででるよ」
そう言ったら、アンディが嬉しそうにジャンプした。大人みたいに振る舞ってるから、こういうところはちゃんと子供なんだと笑えてしまう。
「さて、これが私とトルーディとローガンだと言うなら、もう少し何かを着けようか。ただそれには、私のワークショップに戻って物を持ってこないといけない。私が戻るまでちゃんと待っていられるかな?」
「「「待ってる!」」」
三人の声がハモった。しかしまだ雪が降っている。こんな寒い中待たせるのはと思ったとき、横に作ったかまくらを思い出した。手持ちに防水布もあるし、木材もあるから火もおこせる。
「寒いから、ここに入って待っていて。大人になにか聞かれたら、ビルダーと雪だるまを作ってるって言うんだよ。それと、アンディ。君は火の扱いと怖さをローガンから多少は教わってるね?ここでは君がリーダーだよ、二人になにも無いように守ってあげるんだよ」
「わかった」
力強く頷いたアンディに私も頷いて、ワークショップに戻る。
必要なのは帽子と私が使っていたもの、あとはキャンバス地かな。帽子はアンスールにあげた副官の帽子に、持ってた角つきカチューシャから拝借してくっつける。即席のローガンぽい帽子の完成だ。カチューシャはあとでなにか加工しよう。そうだ、マスクとマントもつけようか。それっぽいのがどちらもある。
私っぽいもの・・・あ、このカジュアルな帽子でいいかな?ここに来たばかりのときにずっとかぶっていたし。あとはキャンバス地だ。これは顔料を使ってちょっと色を返る。これで雪をくるんで特徴的なヘアスタイルにするのだ。
「よし、これでいいかな、もどろう」
子供たちの所へ戻ると、かまくらから出て、雪合戦をしていた。うーん、元気だなあ。
「あ!ビルダー!おかえりなさい!」
雪玉を持ってこっちを振り返ったジャスミンの表情はとてもにこにこだった。楽しそうで何よりだ。その瞬間、雪玉が私に当たった。
「ぶっ」
「わーい!あたったー!」
おおう、今のはペブルスだったか・・・
「ナイススロー・・・」
私はパタリと倒れることにした。
「ビルダー?」
三人とも心配してこっちに近づいてくる。目をつぶっていても気配は解る、これでも戦闘経験は豊富なのでね。私を覗き込んだ瞬間を狙って・・・三人を一気に腕に納める。
「「「わあ!?」」」
「引っ掛かったー!雪合戦はおしまい、雪だるまの仕上げをするよ」
持ってきた物を見せると、三人は目を輝かせてそれを見ていた。
まずは町長の髪を改めて作る。髷のように結んだ髪に持ってきた布を巻いて、その先についている丸い髪をつける。そしてそれをジャスミンが描いた雪だるまにつけていく。
「わあ!お母さんそっくり!」
おお、ジャスミンがそう言ってくれるならなによりだ。さて次だ。
アンディが描いた雪だるまに、マスクとマントをつけて、最後に作った帽子をのせる。あ、マスクをつけたら、せっかく描いた口が見えないな・・・
「ギャングのローガンだ!わー!かっこいい!」
あら、好感触。じゃあこれでいいか。
さて、それじゃ最後だ。ペブルスの描いた私の雪だるまに帽子をのせる。
「あ!それビルダーの、かぶってたぼうし!」
「おぼえててくれたのか、それはよかった」
これで雪だるまは完成だ。こんなところに作っちゃったけれど、カトリはなにも言わなかったし、きっと大丈夫だろう。うんうんと頷いていたら、どこかから拍手が聞こえてきた。私の横にいる子供たちを見たが、みんな雪だるまに夢中で誰一人拍手はしていない。
「はい?」
まだ続く拍手の音は、博物館の方から聞こえる。油の切れたロボットのようにぎこちない動きでそちらへ向くと、そこには町長とクリスタルとローガンと、ニコニコしているカトリが立っていた。
「あ・・・えっ・・・な、うあ・・・?」
みんなを指差して、今度は壊れたロボットのようになってしまった。いつからいたんだ、というかなんでいるんだ!
「悪いね、ビルダー。私が呼んだんだよ。子供たちが遊んでいる姿なんてなかなかみられないだろう?なにより君が一緒に遊んでくれてるんだから、更に珍しいことだよ」
「だっ、いや、それは・・・」
カトリが言うには、私がゲームセンターの外に出てすぐに、子供たちの親を呼びに行ったらしい。
博物館のドアを開けて見えるようにしていたのだと言う。声は聞こえたり聞こえなかったりだったみたいだ。
一番早く来たクリスタルは、ペブルスが私に抱っこされている所から見ていたらしい。ほぼ初めの方じゃないか!一番最後だったのはローガンで、子供たちをかまくらで待たせるところから見ていたらしい。
「アアア、大人ノ目ガアッタノハイイコトデスネ、アハハハ」
トルーディは困った顔をしているから、きっと悪いと思っているけれど見たい好奇心には勝てなかったのだろう。それは彼女の事情を知っているからよく解る。
親の気持ちはよく解るけれど、もう私は壊れたロボットになってしまったかのようだ。穴があったら入りたい!よしここに私の墓をたてよう!死因は羞恥心だ!
「ビルダーがこんなに面倒見いいとはね。ペブルスちゃんもとても楽しそうだったわ!」
「そうだな。アンディに重要な仕事を任せてくれてありがとうな、あいつすごい張り切ってたぞ」
「ジャスミンにいい思い出が出来たわね」
「あー、うん、それならいいんだけど・・・」
「ビルダーがとても楽しそうにしていたから、子供たちも楽しんだのよ。遊びを本気になってやってくれる大人はなかなかいないから・・・」
「だからこそ好かれるんだろうな、あんたは」
「本当だね、ペブルスちゃんと遊んでくれてありがとう」
親たちも喜んでくれたならいいかと思ったら、三人とも私の事を意味深な目で見てくる。三人の事を交互に見ていたら、真っ先にふきだしたのはローガンだった。
「いや、悪い。普段あまり感情を出さないおまえさんが、あんなに楽しんでるのを見たらな」
それにつられて他の二人も笑いだしていた。笑うといっても、バカにするような笑いではない。微笑ましく思っているようなものだ。
「そうね、ずっと町のために気を張っていたのが解るわね」
「また子供たちと遊んであげて。先生と勉強して遊ぶのも良いことだけど、ビルダーもこの町のもう一人の先生だよ」
「・・・・・・うん」
恥ずかしかったけれど、子供も親も楽しんだなら、私は家族の思い出をビルドしたのかもしれない。
なんだかんだもう遅い時間だ。そのままそれぞれが家に返っていった。
残されたのは、私とカトリ。親と話していたとき、全く口を挟まなかったけれど、今も何か考えているようだ。
「カトリ?」
「・・・・・・ビルダーの作った雪だるま・・・」
あ、これ、何か使おうとしてるな・・・
私がヤクメルバスのゲームセンター駅近くに作った雪だるまは、冬の間しばらく観光地になったのだった。
終わり