二の月の最終日は、どの地域でも「思い出の日」というイベントをやっている。
私のいるサンドロックでは、ここを町にしたマートルが考案した、町じゅうを明るくして、私たちはここにいるよと思い出になった人たちに呼び掛けるイベントで、町中にいろんな種類のランタンが置かれている。とてもきれいだ。
まあ、これはイベントの一つで、メインはお化け退治だ。
お化けと捕まえる側に別れて、町中の決められたエリアに仮装をして隠れるのがお化け、それを見破ったらお化けライトを照らして見つけたことをお化け側に知らせるのが捕まえる側。
たくさん見破るか、最後まで隠れきると、そのイベントでしかもらえない家具を交換できるバッジがもらえるから、みんな全力で取り組んでいるのだ。
イベントに参加した私は、お化けとなって隠れ場所を探しているのだけど・・・
「・・・・・・」
ずっとカウボーイのかかしの格好をした人がついてきているのだ。仮装したまま歩いたら動きにくいだろうに、なんでだろう?
それに、いままで他の参加者も居た筈なのに、みんなどこにもいない。すでに隠れてしまったのだろうか。
「ねえ、誰だかわからないけど、一緒に隠れる?見つかりにくいところ知ってるんだ」
私がそう言うと、そのかかしはワサワサと音を立てながら頷いたように見えた。もうすぐ捕まえる側が動く時間だ。かかしの手を取って、隠れ場所に急ぐ。
私が見つけた場所は、バイ・ザ・ステアーズの横にある階段の踊り場だ。ドラム缶に変装すればほぼ見つからない。今回はかかしの誰かさんも一緒だから、見つかってしまうかもしれないけれど・・・。
「あれ?」
いつもの隠れ場所のもう少し先に、普段はいないはずのマダムのかかしがいた。あの場所は隠れるところではないはずだ。
「おーい、そこのマダムのかかしの誰かさん!そこは隠れるところじゃないよー」
話しかけたら、そのマダムかかしもこっちへそのまま動き出した。変身解いて動いた方が楽なのにな。
ワサワサと音立てながら、カウボーイのかかしも私の元へ来たと同時に、両側から聞こえていたうるさいくらいの音がピタッと止まった。
「ん?」
カウボーイのかかしとマダムのかかしが見つめあっているように見える。知り合い・・・いや、サンドロックの住人に、お互いを知らない人はいないはずだ。そもそも今日の参加者は、この町の有名人ばかりだ。
二人のかかしを見ていたら、階段の上にいたカウボーイかかしに突き飛ばされてしまった。ワサワサと音を立てて、マダムの方へ向かっていく。
「だから、そっちは隠れるところじゃ無い・・・」
二人がハグをしたのと同時に、子供がクスクス笑うような声が辺りに響いた。サンドロックに子供は一人しかいない。郵便配達を手伝っているジャスミンだ。彼女は人を怖がらせるようないたずらはしない。それじゃあ、この声は何なんだ?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人のかかしが私の方を向いた。そして、器用にもお辞儀をしてみせた。なんとなく釣られてお辞儀をして、顔をあげたら、もうそこにかかしたちはいなかった。
「ええ・・・?」
キョロキョロしていたら、イベントの時に流れる音楽が聞こえてきた。今まで聞こえていなかったのに今気がついた。そして、捕まえる役のオーウェンにライトを当てられる間もなく捕まってしまった。
「どうしたんだい、ビルダー?仮装もしないで立ってるなんて。一回目はちゃんと仮装していたよね?」
「変なこと言っても笑いません?」
仮装する側と捕まえる側を交代するため、準備をするというのでその間オーウェンに話を聞いてもらうことにした。
「と、いうわけなんですよね」
「うーん・・・」
なにがあったか説明したら、オーウェンは腕を組んで考えこんでしまった。
「僕はサンドロックで育ってきたけど、思い出の日にお化けが出たって聞いたことないな・・・」
そりゃそうだろう、私も故郷のハイウィンドで見たことなんて一度もない。
「でも、そのマダムのかかしはね、かつての恋人を待っているって言われているんだよ」
「え・・・」
「だから、ビルダーが隠れ場所を一緒に探してあげたカウボーイかかしが、マダムの待ち人だったのかもしれないね」
「・・・オーウェンって、結構ロマンチックなこと考えるよね」
「まあ、これでもブルームーンで物語を披露しているからね。君にも一度くらいは来て欲しいけど・・・無理強いは出来ないからね」
『お化け退治イベント、後半戦が始まります。参加者は広場に戻ってください』
「お、準備が出来たみたいだね。行こうか」
「うん」
オーウェンは、バカにすることもなく真剣に考えて答えてくれた。いつも仲良くしてくれるミアンやエルシーに言ったら、二人に大笑いされていた気がする。
いや、大人だからこそ、あの対応が出来るのかもしれない。少しだけ、オーウェンのことをしりたくなった。
おわり