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サンドロックがデュボスに制圧されて数日。私はビルダーとして彼らの仕事を手伝わされていた。町のみんなが人質だ。逆らうことなど許されない。

レフ司令官の依頼を聞いて、あれこれ作ったり組み立てたりと、こんなことをしている場合ではないのに、やらざるをえない。

裏切り者のヤンが、レフ司令官に「ジャグジーを作ったらどうだろう」と提案して、それを作ることになった。お風呂はなかなか入れるものではないのに!

どこに設置するのか聞いたら、マチルダ司祭の家だという。ああ、彼女も元々サンドロックのために動いていた人ではなかった。立場が上の人だから、あまり交流もなかったなと今さら思っても遅いな。

家の大きさなどを知るために、私の監視役であるスティーブに行くと告げたら、一緒に来るという。いつでもどこでもついてくるから、兵士も大変だねと言ったら、彼は苦笑していたっけ。

マチルダ司祭の家は、サンドロックの高台にある。眺めがとてもいいけれど、こんな素敵な家で、どうしてあんな計画を建てたのだろうか。

「さて、ドアはこれくらい・・・あれ、鍵って開いてるのかな?」

「施錠はされていないと報告を受けている。好きに入って早くジャグジーを設置しろと言っていた」

「そうなんだ、じゃ入るね」

まあ、重要なものなんて、もう運び出してるだろうし、そもそもが置いておくわけがないなと自分の考えを打ち消した。

中は見た目の割に狭く感じる・・・それもそうか、かなり大きなソファとテーブルがかなり幅を取っているし、さらに左にはキッチンも備え付けてある。うーん、ここにジャグジーを設置するのか?部屋の一番奥に、ベッドが置いてある。その横になら置けなくもないか・・・おや?

ベッドのすぐ横の壁に、マチルダ司祭の写真が飾ってある。彼女の髪は今と違って少し黒い気がする。それに子どもと写っている・・・一人は金髪か赤髪の男の子だろうか。もう一人は司祭が抱っこしてにっこり笑っているように見える。

「この写真・・・」

「ビルダー、気になるのは解るが、あまりモタモタしていても印象が悪くなるだけだ」

「・・・スティーブは、デュボスの兵士にしてはずいぶん捌けた人だよね。帝国のためにとか、そういうのが無いというか・・・あ、ごめん、余計なお世話だったね」

「・・・・・・」

「よし、ワークショップに帰ろう、ちゃんと作るから心配しないで」

ワークショップに戻って、さっそく製作に取りかかる。町のみんなのために作ったものを使って、敵の自己満足のためにものを作らなければならないのは、意外と悲しくなるものなんだなと組み立てながら考える。

「・・・ビルダーってすごいんだな。自らが採取した素材からものを作り出したかと思えば、更にそれを使ってまた違う何かを作り出す・・・ものを作るというのは、本来こうなのだろうな」

「国によって違うのは当たり前なことだけれど、きっとビルダーの本質はどの国でも変わらないと思うよ、いやこれは私個人の考えだけど。レフ司令官のあの言葉からしたら、ビルダーと鉱石を採ってくれる人の扱いは違うだろうことはよくわかったけどね」

「・・・・・・」

スティーブと会話をしながらも、ジャグジー作りは手を止めず続けて、やっと完成した。

「さて、取り付けに行きましょうかね・・・あ」

ワークショップの柵の向こう側。見知った生き物がポツンと立っている。

「貴様!何者だ!?この町はいま包囲されている!」

スティーブが生き物・・・あれはゲドだ。ブロンコという賞金稼ぎの情報提供者として、そしてルミというネズミのお姫様を助けるためにいろいろしてもらった?いやしてあげた?・・・まあいいか。ゲドにサーベルを突きつけて名を聞くも、ゲドはショナシュブリッジの方へと走っていってしまった。

「ビルダー!おまえはそこで待て!」

「あ!ちょっと!私だけでジャグジーつけてきたらダメかい・・・って行っちゃった」

「大丈夫か、ビルダー」

あー、ヒーローは遅れて登場ってやつかあ。

「やあ、ローガン。大丈夫に見えるかい?」

ローガンが来て、せっかく作ったジャグジーにハル特製の時限式爆弾をつけて、マチルダ司祭の家に設置することになった。彼が姿を消した後、陽動してくれたゲドも無事に逃げたらしい。スティーブも戻ってきた。

「なんだったんだ、あの生き物は・・・」

「さあ?じゃ行こうか」

一つ気がかりなのは、マチルダ司祭の写真だ。裏切り者のことなど気にしなくていいだろうと誰もが言うだろう。でも、あそこに写る彼女の大切な人に、その罪は一つもないのだ。

しかし、ジャグジーを設置するときに変な動きは出来ない・・・が、スティーブなら解ってくれるかもしれないと設置して話しかけようとしたときだ。

「完成したか!」

レフ司令官が部屋に入ってきた。もう私にはなにも出来ない。

その後は、いろいろありすぎて・・・結局のところ、今回の戦争を企んだ者は全て報いを受けた。

サンドロックを救った人たちは表彰され、この町は平和になった。

平和になった町の、高台にあった眺めのとてもいい家は、いま学校になろうとしている。

建て替える計画をしているハイジに、家の中はどうなっていたか聞いたら、入り口は辛うじてあったけれど、爆発で火事になったらしく入り口から一番奥が特に燃えていたそうだ。

・・・・・・マチルダの大切な人は、彼女が命令を守れなかったことでどうなっているのか解らない。あなたたちに罪はない。願わくは、あの国にも誰かを助けることの出来る誰かがいることを。

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen