「はああ・・・」
またしても見つけてしまった。遺跡に眠るおもしろおもちゃを。見つけたくて見つけているわけではない。断じて。
今回は、パーツではなく完全な形で、しかも箱入り。旧世界が滅んでから数百年も経っているというのに、何故無傷なんだ?箱にプラスチックがかぶせてあるからだろうか。
そういうのは深く考えると思考の渦から抜け出せなくなる。やめておこう。とりあえず書いてある文字は私たちの使うものと同じだから、読んでみよう。
「なになに・・・」
『これは、魔法のステッキ!とってもすてっきなステッキだよ!』
初っぱなから駄洒落・・・続きを読むのが嫌になってきたな。
『一振りすると、あら不思議!誰かが子どもになっちゃうよ!(効果が現れる人はランダムです)』
は?子どもに戻る?そんなあり得ないことが起きるわけが・・・あっ、だめだ、この類いは興味をもったらいけないんだった。遺跡の探索は終わりにして、町に戻らなくては・・・!
町に戻って、持っていくと約束したチーホン局長のところへ向かう。慌てたのがよくなかったのか、それとも、おもちゃの制作者のいたずらか。私は道に落ちていたくずのビンを踏んづけて盛大にスッ転んでしまった。
手に持っていたおもちゃの箱をぶん投げて。
「あっ!」
私の手から飛んでいった箱は、ブルームーンの野外ステージに当たってパッケージが開いてステッキが落ちてしまった。誰もいないから、拾われることはないのは幸いだ。しかしこれ、どうしたものか・・・民兵団の二人を呼ぼうにも、放置したままでは無理だ。うーん。
「ビルダー?何してるんだい?」
「!?」
しゃがんでステッキを見ていた私に声をかけてきたのは、ブルームーンのオーナー、オーウェンだった。
「おや、ずいぶんと面白いパッケージだね」
「あー、遺跡でこの箱に入ったまま発掘したんです。あの、以前、えっと・・・」
この前の「ジャパニーズサムライソード事件」のことを自ら口にしたくなくて、ゴニョゴニョと口ごもってしまった。
「ああ、そういえばそんなこともあったね。で、これがあの事件の別シリーズってことかな?」
オーウェンは事件の話をさらっと流してくれた。さすがとしか言いようがない。
「そうみたいですね。さっき転んで、ここにぶつけたらパッケージが開いてしまって。拾おうにもどうしようかと・・・」
「そうだね、なにか起きても困るから、僕がジャスティスを呼んでこようか」
「お願いできますか?」
「お安いご用さ、触らないで待っていてくれ」
そう言って、オーウェンはメインストリートの坂を駆け上がっていった。頼もしい人だな。
「はあ、今回は何も起こらなくてよかった」
なんて口に出した瞬間、突然の突風が吹いた。ステッキが少し高い音をたてながら、からころと転がっていく。あれを拾われたらマズイ!咄嗟に手を出してステッキを掴んだ。
「あっ」
咄嗟に掴んだ拍子に、ステッキを振ってしまった・・・しまった・・・!ってシャレを言ってる暇は・・・
ステッキからキラキラと光る粉のようなものが出てきた。それは金色でとてもきれいだ。そのきれいな粉が私を包んでいく。私を!?いやちょっと待って、待って!
「ビルダー!?」
「何で触ってるんだ!?」
「発動してそうですね」
オーウェン、ジャスティス、アンスールの声が聞こえる。
「ごめん、不可抗力なんだ。やりたくてやったわけじゃないんだよ。後はよろしく!」
私を包んでいた光がおさまると、なんだか視線が低くなった気がする。気がするんじゃなくて、おもちゃの説明にあった「子どもになる」という効果で子どもになっているんだろう。都合のいいことに、服も一緒に小さくなっているようで一安心だ。着けていたポーチが落ちているけれど、ジャスティスが拾ってくれた。
しかしピンポイントで私か。サンドロックの人の小さい頃を見たかったなあ。
「・・・ビルダー?」
「・・・・・・」
「大丈夫か?」
「ふ」
「「「ふ?」」」
「ふえええええん!」
おっとぉ?なんで涙が出てくるんだろうなあ?私は全く出したくないんですけどねえ?意識はそのままなのに精神だけ子どもになってる?
「あー、これは中身まで子どもになってるか?」
「大人の男三人が取り囲んだら怖いですよね、きっと」
「確かに」
「えええん!ニアあああ!どこおおおお」
そういえばこれくらいの時はニアといつも一緒だったっけ。
「ニア?」
「ああ、確か、給水塔事件の後に、ビルダーの無事を確かめに来てた女の子だよ。ブルームーンに泊まってた。ビルダーと幼馴染って話だけど・・・」
「ニアさんは、今ここに居ないんです。あなたはビルダーさんですよね」
「ひっく、ひっく、うん、わたしビルダーだよ。どうしておじちゃんはわたしのなまえをしってるの?」
アンスールがしゃがんで話しかけてくれている。子どもに慣れてるのかなんなのかわからないけれど、子どもの私がなんとなく落ち着いたみたいだ。しかしアンスールをおじちゃん呼びとか・・・子どもって怖いな。いや小さくなってるのも私なんだけど。
「ニアさんは、ちょっとやらなきゃいけないことがあるからと、あなたのことを私たちに預けていったんですよ」
「やらなきゃいけないこと?しょくぶつのおせわかな、ワンコとアヒルのおせわかな」
ワンコとアヒルってのは、私が名前をつけたニワトリのワンコとネコのアヒルのことだ。ニアには名付けのセンスが無いって笑われたっけ。
「そうです。だから、ニアさんが戻るまで私たちと一緒にいてくれますか?」
「うん!おじちゃんたちと、まってる!」
あー、やめなさい私。しゃがんでいるアンスールの足に抱きつくのは。あー嫌だこんな見てるの嫌だよおおおお誰か殴って意識を失わせてくださいあーーーー!
「アンスール、お前さんそんなに子供の扱いうまかったのか」
「いえ、そういうわけでは・・・アンディのときは全くうまくいきませんでしたし」
「まあ、確かに」
「ビルダーなのは解ってましたから、言って聞かない子どもではないだろうなと」
「何にせよ泣き止んでくれたのはいいことだよ。しかし・・・このおもちゃ。治し方は書いてあるかな」
オーウェンがパッケージを拾って読み始めた。
『子どもになっちゃったら、治るまでは楽しみましょう!だいたい三日~一週間でなおります。治るのに時間がかかった場合はこちら→0141-4021-7272373(おいしいてんかいもくもくします)までどうぞ!』
「三日から一週間!?」
「ふぇ!?ふええええん」
ジャスティスが大声を出したからか、また私が泣き始めた。やめろっ!やめろっ!
「あ、悪い。ビルダー、ごめんなあ」
しゃがんだままのアンスールの足にすがり付いて泣き出した私の頭をジャスティスが撫でる。ああ、キャプテンを飼ってるからか、なで方がとても優しい。
「ん、ひっく、ひっく・・・だいじょぶ」
「そうか、それならよかった。驚かせてごめんな?」
「・・・うん」
見上げると、ジャスティスはいつも以上に優しい顔をしていた。子ども相手だからこうなるんだろうなあ。よくよく見れば、みんなこわい印象を与えないように努めているようにも見える。精神は子どもだけど、意識はそのままだと知ったら、みんなどうなるんだろうか。私も含めてだけど。
「・・・治し方は書いてないな」
パッケージをくるくると回したあと、オーウェンは私が落としたままのステッキを拾った。拾っちゃった!?大丈夫かな?
「おいおい、オーウェン!触って大丈夫かよ!」
「振れば発動と書いてあるから、触る分には平気だろうと思ってね。とにかく、チーホンの所へこれを持っていこう。調べてもらえば解ることもあるだろうし」
「ビルダーはどうしましょうか」
「そうだな。研究所に連れていくのもかわいそうだ。まだ目に涙が溜まってるしなあ。お前さんにひっつき虫だし」
確かに。いまひっついているアンスールから剥がそうとすると多分泣くだろうと私も思う。
「アンスールとビルダーはブルームーンで待っててもらおうか。これを渡してきたら僕はすぐに戻るから」
「解りました。ビルダー、今からすぐそこのお店に入りましょう。おいしいものもありますから、飲んだり食べたりしながら、ニアさんをまっていましょう」
「おいしいもの!?わあい!」
私はやっとずっとひっついていたアンスールの足を離して、その場でくるっと回って見せた。それを見た大人たちがくすくすと笑った。あんまり笑わないアンスールまでもが、少し口の端を動かしたように見えた。
「中にグレースがいたはずだ。彼女に飲み物を頼んで飲ませてやってくれるかい?」
「はい、わかりました」
そう言って、ジャスティスとオーウェンは研究所に向かった。あ、私のポーチ持っていってしまったな。研究にデータディスクが必要だろうから、そこから取って使ってほしいなんて気がつくだろうか。
ブルームーンに入ると、カウンターにいたグレースが迎えてくれた。
「いらっしゃい・・・あら、珍しい・・・って、その子は?」
「おねえさん、こんにちは!わたし、ビルダー!」
「はっ?」
さすがのグレースも素頓狂な声を出した。そりゃそうだ。大人だった私が子どもでここにいるのだから。詳しいことをアンスールが説明してくれたが、なんだか考え込んでしまったようだ。
「不思議すぎるわね、旧世界の遺物って・・・」
「私も信じられませんが、こうなっているので」
「まあ、そうよね。そういうものとして割り切らないと、頭がおかしくなりそう」
そうです、私も訳がわからない状態ですよ。
子どもの頃はいい子だったと両親から聞いてはいるけれど、なんだかんだニアといたずらはしているから、放っておくとろくなことしないと思いますけどねえ。ほらほら、アンスールの足から離れましたよ、お二人さん大丈夫ですか?
「ん、しょ。おじちゃん、ここすわりたい」
ああ、カウンターに座りたいのか・・・ソファーよりこっちの方が子どもの頃って好きだったよなあ。大人な気分だったんだ。
「おじ・・・っふふ」
私のおじちゃん呼びに、グレースが笑ってしまっている。そういえばグレースのことはおねえさんと呼んでいたけれど、その辺の線引きはどこなんですかね、子どもの私?
「そこでいいですか?」
「うん!」
アンスールが私を抱え上げて、カウンター席に座らせてくれた。扱いになれているというより、ただ私のしたいようにさせてくれているのだが、それが子どもの私のテンポに合っているんだろう。
「ビルダーは、何か飲みたいものあるかしら・・・というか、飲めるかしら?」
確かに。この頃はハイウィンドのものしか飲んでいない。牛乳じゃなくて、こっちだとヤクメルミルクだ。観光客も合う人と合わない人がいるくらいだ。飲んで泣くとか嫌だあ。
「サンドティーなら何とかなるのでは?基本的に茶葉はどこでも同じですから」
「確かにそうだけど、あなた、これくらいの頃にお茶飲んでた?」
「私は飲んでましたよ」
「あ、そうよね、あなたかなり落ち着いてる人だもんね」
私もお茶は飲んでいた。かなり小さい頃から好んで飲んでいたけれど、これくらいの頃からだったかは覚えていない。
「ビルダー、お茶は好き?」
「うん、おかあさんにいれてもらってのんでる!みどりいろのおちゃ!」
飲んでたか。
「それじゃあ、お茶いれてくるから、アンスールおじさんと待っていてくれる?」
「うん!いっしょにまってようね!」
私がアンスールに手を差し出した。え、なに、繋いで待ってるつもりなのか私は。というか私が待っているのであって、アンスールは待っている必要はないわけで、わあああ。
「はい、そうしましょう」
素直に手を繋いで、そばで待っていてくれるアンスールは優しいなあ。優しいけど私が耐えられない!恥ずか死ぬ!
なんてやってたら、ブルームーンの扉が開いた。誰ですか、もう。私のHPという名の恥ずかしいポイントは満タンです!これ以上増えたら戻ってからサンドロックにいられません!
「ただいま。大丈夫かい、アンスール」
「はい、問題はありません」
オーウェンだった。よかった。本当に置いてくるだけで戻ってきた感じだな。
「やあ、ビルダー。ただいま」
「おかえりなさい!あのね、おねえさんがおちゃいれてくれるから、アンスールおじちゃんとまってるの。えっと・・・?」
オーウェンの名前、聞いてなかったっけ?
「ああ、僕はオーウェンだよ」
「オーウェンおじちゃん!」
元気がよろしい!でも、おじちゃんはやめて・・・もう耐えられん!
「そう。よろしくね、ビルダー」
「うん!オーウェンおじちゃんも、いっしょにまつ?」
「そうしたいんだけど、僕はここの店長さんなんだ。お店番をしないといけないし、料理も作らないといけないんだ。ビルダーは何か好きなもの、あるかい?」
「あのね、わたしハイウィンドチャーハンがすき!」
それをきいたオーウェンとアンスールが顔を見合わせた。そう、私の好物は小さい頃から変わっていないのだ。
「そうなんだね。じゃあ、それを作ってくるから、待っていてくれるかな?」
「わあ、たのしみだね、アンスールおじちゃん!」
違う、それはあんたのために作ってくれるんだよ、そうじゃないんだよ。
「はい、楽しみですね」
「あのね、ここにすわったけど、むこうのおいすにもすわってみたい!」
おおう、唐突な席替え。私が指差したのは、友達と食事する時に使う多人数掛けのソファー席だ。我が儘に文句もいわず、アンスールはカウンターに腰かける私をだっこしてソファー席に座らせてくれた。
「えへへー、ふかふかだ」
「そうですね、ふかふかですね」
「よかったわね、ビルダー」
「あ、おねえさん!」
ソファーのふかふか具合を確かめていたら、グレースがサンドティーを運んできてくれた。
「冷たいうちに飲んでね」
「ありがとう、おねえさん!」
ごくごくと一気に飲んでいく私に、二人とも少し驚いたようだけれど、よくみればかなり汗をかいている。身体が子どもになっているからか、サンドロックの暑さに負けているのかもしれない。グレースが、持っていたハンカチで私の頭や顔を拭いてくれた。
「わあ、このおちゃおいしいよ!おかあさんのおちゃにまけないくらい!」
私の一言に、グレースが目を丸くした。そういえば、グレースはなんでもそつなくこなすのに、何故か料理だけは苦手なのだ。ブルームーンで働きながら料理の勉強をしているみたいだけど、そこそこらしい。そんな人だから、おいしいと言われるのには慣れていないのかもしれない。
「え、あ、本当?それなら嬉しいわ」
「うん!おいしいおちゃをありがとう!」
あら、珍しいグレースの照れた顔なんて滅多に見られるものじゃないよなあ。これ、私が見たってわかったら、何されるか・・・想像しただけでこわい。
「ビルダー、お待たせ。ハイウィンドチャーハンができたよ」
さすがオーウェン、仕事が速い。運ばれてきたチャーハンは本当にいい香りだ。ここに来ると、大抵頼んでしまう。
「わあ、おいしそう!」
向かい側に座っているアンスールの分もオーウェンは作ったようだ。アンスールがちょっと戸惑っている。確かに、彼に嫌いな食べ物はないようだけど、いつも同じメニューしか食べてないと聞いた覚えがある。
「アンスールおじちゃんも、いっしょにたべよう!」
「え?ああ、はい。そうですね」
ごめんよ、アンスール。無理矢理たべさせることになってしまった。でも、口に運ぶ様子を見てると、違うメニューを食べるのは嫌ではないようにも見えるが・・・大丈夫だろうか。
「んー!おいしいなあ、とってもおいしい!」
にこにこしながら食べているのが丸分かりの、感想だだ漏れ状態。カウンターにいるオーウェンとグレースがくすくすと笑っているのが聞こえる。ああ、もう。本当に今すぐ私を殴ってを意識を飛ばして欲しい!いや、でも、子どもを殴る人はこのサンドロックにいないよなと訳の分からないことを考えていたら、私もアンスールも食べ終わったようだ。
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした」
私たちの挨拶を聞いてグレースが食器を下げに来て、にこにことおいしかった、ありがとうと言う私の頭を優しく撫でてくれた。その温もりに、子どもの私のエネルギーが切れるような感覚がした。お腹いっぱいになって、眠くなったか・・・。
「あら、ビルダー、眠い?」
「うん、ねむい・・・」
「きっとまだかかるから、そこで寝ていていいわよ」
「うん、おやすみ・・・」
ベッドに入って一瞬で眠れるのは、昔から同じだったんだな。精神は眠ったけれど、意識ははっきりしている。うーん、これは非常にマズイ気がする。目を閉じているから、見ることは出来なくても、耳ははっきりきこえているのだ。なにも喋らないでと願うけれど、そんな願いは通じるわけがないのだ。
「ビルダーって、小さい頃からあまり変わらないのね」
「そうですね。いつでも明るくて、気遣いができる人です」
「僕たちが本来見ることができない筈の子ども時代だからね。ちょっと楽しんでしまったかもしれないね」
「それにしても・・・二人ともおじさん呼びされるとは思わなかったでしょう?」
「あれくらいの子どもなら、私のような大人はおじさんですよ」
「アンスールがおじさんなら、僕も確実におじさんだよね」
意外とおじさん呼びに関しては気にしてないのか。でも、ジャスミンは二人のことをおじさん呼びはしてなかった気がするけどな。あ、でも、ペブルズは・・・たしかローガンのことをおじさん呼びしてたか・・・?私、年齢的にはそれくらいなのか。
カチャカチャと食器を下げる音が聞こえ、すぐに水の音、そして食器を拭く音、更にしまうような音がした。向かい側からソファーの軋む音がした。アンスールが席を立ったのだろうか。
「ビルダーに何かかけてあげた方がいいのでは?」
「あ、そうだね。それじゃあ二階の棚にあるんだ・・・」
私にかけるものを聞きに行ってくれたのか。気遣いのできる人って、貴方の事を言うんだよアンスール。オーウェンと二階に行ったようだ。
それと同時にブルームーンのドアが開いた。開いたのは、カウンターの方じゃない。ソファー席の近くのドアだ。
「・・・・・・ん?」
この声は誰だろう?
「おい、局長。ビルダーは眠ってるぞ?大丈夫なのか?」
「ああ、この子どもがビルダーか。眠っているようだが、意識は起きているな?」
あ。チーホン局長だ。ステッキの調べはついたのかな?・・・ってちょっと待って、今なんて言った?
「意識が起きていて、子どもの精神が眠っているなら、多少身体を動かせる筈だ。手の甲を触ってやるから、意識を働かせて動かしてみなさい」
局長が私の手の甲を軽く触る。あ、触られる感覚がある。今までほぼ感じなかったのに。それなら動かせるかな・・・お、動いた。
「見立て通りだ。ならば・・・」
「・・・?」
私が起きたようだ。はっきりとチーホン局長が見える。さっきのステッキを取り出して、ステッキの下部分の飾りを押した。ステッキから私が子どもになった時とは別の色、銀色のキラキラしたものが現れて、私を包んでいく。
「ああ、銀色・・・」
あ、銀色?局長が少し気になる発言をしたな・・・?きらきらが消えて、私は・・・ん?視線が変わらないな?
「直ってないの?」
「一応直った。見た目は子どものまま、意識は大人だ」
「なんですと?」
「局長?どうしたんだい?」
オーウェンとアンスールが二階から戻ってきたようだ。オーウェンの局長という言葉に反応してか、グレースがキッチンから出てきてこちらに近寄ってきた。ジャスティスは訳が解らないらしく、頭の上にはてなマークが見えるようだ。
「ああ、ステッキの解析が終わったんだ。解析によると、見た目と精神は子どもだが、意識までは変わっていないことが解ったのさ。それと、世話が大変になるようならリセット機能もついていることが解ったんだが・・・どうやらビルダーには子どもの身体のまま、意識が大人になる珍しい方のリセットになったようだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。じゃあ、ビルダーはあの大泣きしたときから、全てわかっていたのかい?」
「そうなるね。行動は子どもそのものだっただろうが、意識は大人のままだった筈だ。行動と意識とが別離していたんだ」
そこにいる全員の視線が私に注がれる。
「はい・・・全部みてました・・・きこえてました・・・で、でも、私も精神状態は子どもだったから!おあいこ!おあいこで何卒!!!!」
そしてみんな笑ってくれた。でも、それだけで許してはくれなかった。町の住民を全員呼んで、子どもの私を一目見よう会となってしまった。それは精神が子どもの時に・・・いやそれはそれで地獄だ。いまも地獄だけど。
チーホン局長曰く、この状態は朝になれば解消されるだろうということだ。ステッキはどうしたのか聞いたら、研究所で絶対に誰も触れないところに、振れないようにしまってあるという。それなら一安心だ。
「効果がランダムってのがな。ステッキを向けて振った人が子どもにもどるならいいのにね」
「ビルダー、それ本気で言っているのか?」
あ。すぐ近くにジャスティスがいるって気がつかなかった。
「いや、えーっと、あはは」
「はあ・・・全く・・・。今回も何とかなったが、次も無事とは限らないんだぞ?」
「いつもジャスティスが言っている、一度の油断が死に繋がる、だよね。解っているんだけど、遺物のおもしろさに負けてしまうんだよね」
「解っているなら、徹底してくれ・・・俺の気が休まらん・・・」
「ごめんね、ジャスティスおじちゃん」
「反省してないな?」
珍しくジャスティスが眉をひそめた。あ、やらかしたなこれ。
「今日の飯代と飲み物代は、迷惑料でビルダーの奢りだって言ってるぞー!」
「あああちょっとまって」
町民全員分!?カウンタにいるオーウェンの顔を思わず見てしまった。
「ビルダーなら、ツケにしておくから。いつでもいいよ」
ウインクされた。もう決定事項だ。
「あああああもうヤケだあああ!好きなだけ食べて飲めばいいよおおおお!」
身体がまだ子どもの私は、いつの間にか眠ってしまったから、どうなったかは解らない。身体が元にもどった次の日、オーウェンに金額を確認しに行って、大いに盛り上がったことを悟った。
おわり