○帰らないで

ハイウィンドから同じような年齢の、同じ新米ビルダーがやってくると聞いて、私はとても心待ちにしていた。サンドロック駅でボードを掲げて待っていたら、目をキラキラと輝かせてホームに降り立ったあなたを見て、これならこのサンドロックを一緒に建て直せると思えた。

あまり感情を表に出さない人だけれど、誰にでも優しくて、知識も豊富で、更にはモンスターとも互角に戦えるすごい人だった。

一緒に町の依頼をこなしていく中で、ビルダーとしての仕事以外にも、民兵団の仕事も引き受けて大変そうにしているのを見た。いつも私に「休みなよ」と声をかけてくれるけれど、どちらかというと、あなたの方が大変だと思っていた。

サンドロックに現れた盗賊のせいで、列車にトラブルが起きて停止しているのを、私はエルシーから聞いて、駅に向かった。

「・・・・・・本当にいいの?」

「ああ、もちろん。きれいさっぱり忘れてやろう」

「約束だからね」

ビルダーと商業ギルドを仕切っているヤンが、何かを話しているのが聞こえた。忘れる?何をだろう?不思議に思って、ホームへ行くと、ビルダーが私を見て少しばつの悪そうな表情をした。

「ビルダー?どうしたの?」

「いや、なんでもないよ、ミアンこそどうしてここに?」

「私は、エルシーから列車の窓が壊されたって聞いて、なにか手伝えないかなって来てみたんだけど・・・」

「そうなんだ、これは私が全部やるから、ミアンは自分の仕事をして」

なんだかそっけない言い方に少し引っ掛かったけれど、すぐ修理に取りかかってしまったビルダーに声をかけることも出来ず、私は仕方なく素材集めに向かった。

夕方になっても、まだビルダーは列車の修理をしているようだった。窓ガラスはきちんと元通りになっているのに、まだ何かしているみたいだ。

「おや、ミアン。こんばんは」

声の方を振り返ると、ジェンセンがいた。

「こんばんは、ジェンセン。ビルダーはまだ何かしているの?」

「ああ、細々したところを直しておくと言ってくれたから頼んでしまったんだ」

依頼じゃないのに直すなんて、ビルダーも気になるところは勝手に直しちゃうタイプなのねと親近感がわいた。私も気になっているところはあるから、今度一緒にやらないか提案してみよう。

「まだかかるのかな、修理」

「ビルダーは朝までかかると言っていたが・・・無理はしないように言ってあるぞ」

「そう、それじゃあ大丈夫かしら・・・」

心配だけど、私も仕事を抱えている。落ち着いたらまた見に来てみようか。

つぎの日の早朝に駅へ行くと、ビルダーとヤンがホームにたっていた。

「あー、よし、これでお前は自由だ」

「・・・・・・誰にも言わない約束は守ってくださいよ」

「あーはいはい」

そう言ってヤンはこちらに向かってくる。さっと隠れた私に気づかすに商業ギルドに戻っていった。ヤクメルバスの近くにある階段を上り、ビルダーのいるホームに向かったら、その足元に大きなカバンがあった。

「ビルダー?」

「ミアン」

思わず声をかけてしまったけれど、なにも声が出てこない。何かあったのかという労りの言葉より、よくない言葉の方が先に出てしまいそうになる。私の戸惑いに気がついているのか、ビルダーがこちらに向かって来ている。来ないで欲しい、なにも言わないで欲しい。

「帰ってしまうの・・・?」

「ミアン」

「ここの暮らしは嫌になった?辛かったら助け合おうって言ったでしょう、遠慮なんて要らないのに・・・私は頼りなかった?一緒にサンドロックを盛り上げていこうって言ったのに・・・あなたが帰ってしまったら私はどうしたら・・・でも、あなたの決断を邪魔したら・・・」

「ミアン!」

強く両肩をつかまれて、ハッとなってビルダーの顔を見れば、苦笑している。

「故郷に帰るなんて一言も言ってないよ。このカバンは私の母からの荷物。ミアンには知られたくなかったんだけど、もう話しておこうか」

ビルダー曰く、幼馴染みが送ってくれた故郷の料理に刺激されて、軽いホームシックにかかっていたらしい。その様子をヤンに見られてしまい、言いふらさない代わりに大変なわりに実入りの少ない仕事を引き受けていたのだそうだ。今回の列車の窓修理もそれだったようだ。

「じゃあ、その荷物は?」

「あー、これは・・・故郷で使ってた毛布・・・言いたくなかったんだけど、最近寝付きが悪くてね。すっと使ってた毛布があったら安心できるかなと思って送ってもらったんだ・・・」

「ああ、なるほどね」

全く表情も変わらずいろんな仕事をこなしているから、しっかりしているのかと思っていた。だけど、この人もちゃんと心のある人なのね。

「うう・・・しっかり者のミアンにこれは知られたくなかったな・・・」

「あら、どうして?」

「だって、ミアンはホームシックにならないくらいしっかりしてるじゃないか。私は故郷を離れるまで自立した人じゃなかったから・・・」

「私も寂しくは感じるわ。でもそれ以上に、この町を良くしたい気持ちの方が大きいからだとおもうの。町を見ていると、ここはこう直したらいいかも、こっちにはこれがあれば、あっちには・・・って無限にアイデアが湧いてくる。きっとそのうち、ビルダーにもサンドロッカーとして目覚めるときが来ると思う。だからそれまで、帰らないで欲しいっていうのが、私の気持ち」

「ミアンって、すごいね。話してたらホームシックも馬鹿馬鹿しくなってきたよ。初めて君に会ったときの事を思い出せた。私もサンドロックで頑張るんだって」

ビルダーが、胸の前で小さくガッツポーズをした。きっとこれで大丈夫でしょう。

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen