○時の花を挿頭にせよ

時の花を挿頭にせよ

さっき放り投げてしまったサンドギアを拾って、まだ残っていた花びらを燃料入れに全て放り込んだ。

料理ステーションを見ると、焼きルタバガが完成するまでまだ時間がかかるようだ。それならと私はニアへ返事を書くことにした。

『ニアへ

手紙ありがとう。

前回書くの忘れちゃった。アンディには移っていないよ、大丈夫。心配かけてごめんね。

さっき、ひまわりを吐いたんだけど、今までこんなに大きな花出てきたことなかったから驚いたよ。私も、誰に恋したのか理解してしまったし、きっと隠せないところまで来ているんだと思う。ひまわりは、きちんと燃やしたから。

こんなこと書いてたら、心配しない方が無理かもしれないけれど、私は大丈夫。ニアは身体に気をつけて、勉強頑張ってね!』

封筒に封をして、ポストへ投函しに行くくらいなら大丈夫だろう・・・いや、念には念を。改造したサンドギア掃除機を身に付けて町まで行くことにした。咳をすると花びらが出たり出なかったりしているのだ。

手紙をポストへ投函して、すぐに帰ろうとしのだが、予感は当たるものだ。

「細腕っ子か?」

そんな呼び方をするのは一人しかいない。声の方を振り向くと、やはりペンだった。しかも腕組をして、訝しげな表情で私を見ている。

「砂嵐でもないのに、何故そんなものをかぶっているんだ?しかも背中のそれは、掃除機じゃないか?」

普段とぼけたような態度をしている割に、こういうところは気がつくのがこの人の怖いところだ。

声をかけられたと同時に掃除機の電源は切ったから、改造しているのは気がつかれない筈だが、今まで以上に彼の纏う空気がピリついている気がして何だか背筋が寒くなる。

「最近忙しくて、部屋の掃除をサボってて。埃がすごくて、くしゃみと咳が止まらなくなってさ。サンドギアかぶって掃除をしていたんだ。それでそのまま来たからこんな格好なんだよね」

掃除はサンドギアの中にあった花びらをだったけれど、やっていたことは本当だし、咳は本当に出ている。いくらペンが町を守る為にあちこち回っていると言っても、私のワークショップ迄は目が届くわけではないのだ。それくらいの嘘はついても平気だろう。

「そうだったか、悪かったな細腕っ子。もっと前にブロンコを解雇しておくべきだったな。そうすればあんたの手を煩わせることもなかったよな?」

「ええ?だってブロンコは町で雇ってる賞金稼ぎでしょう?なんでペンがそんなこと言うのさ?」

「あんな役に立たない奴をクビにするのに、いちいち誰の権限とか言ってられないだろう?」

「いや、まあ、そうだけど・・・役に立たない訳じゃないとは・・・うーん、どうなんだろうね?」

一応、ローガンの手がかりはブロンコのおかげで見つかってはいるけれど、それをペンに言うのは何故か躊躇われた。彼はサンドロックの守り手で、一緒に行ってもらえばローガンなど一捻りのはずだ。だけど、ペンを連れていけば、私にとっての万が一、いや、億が一あるかないかの完治も吹っ飛ばしてしまうだろう。それだけではない、病気もばれる。

「手紙を入れていたが、この前のアレの・・・」

「ああ、そうだよ、故郷の幼馴染に返事書いたんだ」

「・・・・・・人間関係は自分を重くするだけだぞ」

ペンが珍しく聞こえるか聞こえないかの声で何か言った。いつもは必要以上に大きな声で自信満々に喋っているというのに。何を言ったか聞こうとしたら、彼はいつものように「じゃあな」と言って教会へ続く階段を登っていってしまった。

「・・・・・・」

ペンの様子も気になるが、そろそろ焼きルタバガが出来る頃だ。ワークショップに戻らなければ。

ついでにブレンダーに入れていた薬も出来ているだろう。

焼きルタバガが完成したことを鍛冶屋の前にいたジャスティスに報告したら、薬の準備だけでなく、武器の手入れをしたのか聞かれてしまった。

「薬は準備していたけれど、武器の事は忘れてた・・・」

「砥石はあるか?それで研ぐだけでもかなり使えるようになるぞ。ここで売ってるが、まあ、今日は買ってやろう。俺はヤギを追うための馬を調達してくるから、その間にやっておくといい」

「馬?ジャスティスもアンスールも持って・・・」

「おまえさんのだよ。持ってないだろ?あいつのヤギは列車と並走するくらいだったぞ?走って追い付けるなら馬は調達しなくていいか?」

「無理です、ごめんなさい、お願いします」

あきれたようなため息と共に笑いながらジャスティスは、買ってくれた砥石を私に渡して役場の厩舎にいる馬を借りに行った。

鍛冶屋の隣にあるブルームーンの舞台に座って、武器の手入れを始めた。

私の使う武器も、ローガンと同じ短剣だ。ペンと初めて会ったときにやったスパーリングで選んだ武器が短剣で、剣と盾で攻めと守りをするよりも手数で押す方が性に合っている気がしたからだった。因みに、大剣は重くて、振った瞬間につんのめって前に倒れてしまった。その様子にペンに大笑いされたんだった。笑われたから、槍は試していない。

ユフォーラ奥地で、ローガンの強さを目の当たりにして、何も出来ずに倒れているようではこの先、生き残れないだろうと短剣に絞って鍛練してきたつもりだけれど、通用するだろうか。

「ビルダー、武器の手入れですか?」

舞台に座って手入れをしていたら、アンスールが馬に乗っていた。いつも町中では馬に乗らずパトロールしているから驚いてしまった。

「私も同行しますので。さすがに徒歩ではヤギに置いていかれます」

「さっきジャスティスにも言われたよ・・・」

「ビルダーは走って行くつもりだったのですか?それはすごい」

「いや、さすがに走っては無理だよ・・・ジャスティスが私の分の馬を借りに行ってる」

「そうですか、では待っていましょう」

馬から降りて、私のとなりに腰かけたアンスールが、砥石の効率的な使い方を教えてくれた。そういえばアンスールは石に詳しかったな・・・砥石も石カテゴリーなのかはわからないけど。

彼の指導のおかげで、武器の手入れはすんなり終わってしまった。ジャスティスはまだ戻りそうもないので、少し話をすることにした。

「そういえば・・・サンドギア付けてるのによく私って解ったね」

「サンドギアを使っている人は、あなたしかいないので」

「ああ、確かに・・・って言うか、そこは「何故砂嵐でも無いのにサンドギアを?」って聞くところだと思うけど」

「晴れていても、身に付けたい時があると思ったので聞きませんでした」

誰かが違和感のあることをしていても、アンスールのように気にしない人が増えたらいいなと思う。

焼きルタバガが完成してから、本当に咳が止まらない。咳き込んだら花びらが出たり出なかったりしている。サンドギア掃除機をもう一度改造して、サンドギアの口側の布部分に袋をつけて、そこへ花びらが溜まるようにしたのだ。袋は服の中に仕舞えるようにしたから、いくら吐いても平気だ。

「そうなんだよ。家が埃だらけでね。咳とくしゃみが止まらなくなってしまったんだよ。まだでてるから、止まるまでつけておこうかと思って」

「おや、大変ですね、お大事に」

「うん、ありがとう」

そんなことを話していたら、ジャスティスが戻ってきた。自分の馬に乗って、もう一頭を引っ張ってきている。器用だなあ。

「すまん、待たせた。ゲドに言われたところまで急ぐぞ」

三人で指定された位置まで向かって、焼きルタバガを置いて物陰に隠れて待つ。本当に来るのかと疑い始めた頃、奥からゴーグルをつけた暗色のヤギが現れた。ローガンのヤギだ。

「本当に来た・・・」

疑っていた訳ではないが、こんな簡単なもので釣られて出てくるとは、随分と不用心だとは思うのだが・・・あのヤギはこれがそれだけ好きなのだろう、きっと。

「あいつが食い終わるまで待つぞ・・・」

焼きルタバガを完食して、来た方向へ戻るヤギを馬に乗って追いかける。やはり速いが、民兵団の二人は馬を操り慣れているからかなり余裕をもって追っているが、私は離されないように必死で馬を操るのが精一杯だ。さすが民兵団だと尊敬してしまった。

そんなことを考えていたら、ヤギの身に付けている鞄のようなものから、何かがこぼれ落ち、すぐに軽い爆発を起こして、ジャスティスとアンスールの乗る馬が驚いて棹立ちをしてしまった。

「「うわ!?」」

突然の事に二人は馬から振り落とされ、地面に落ちてしまった。私は彼らの後ろを走っていたから巻き込まれることはなかったけれど・・・

「っ!」

「俺たちのことは心配するな!ヤギを追え!」

馬をおりようとしたのが解ったのか、ジャスティスが倒れたまま私に指示した。馬の腹に軽く蹴りを入れ、ヤギに追い付けるようにスピードを上げた。後ろを振り返ったら二人は立ち上がって馬に乗ろうとしていた。このままならきっと追い付いてくるだろうと私が前を向いたのと同時にヤギは崖の淵で急停止してこちらを振り返って、さらには自分より大きな馬に威嚇をしてきたのだ。

私の乗る馬は、ヤギの行動に驚いてビタッとその場で止まってしまった。

「えっ」

猛スピードで私を乗せて走っていたものが、急に止まるとどうなるか。

「ああああああ!」

上に乗っていた私が、前に吹っ飛ぶのだ。

「「ビルダー!」」

ジャスティスとアンスールの叫び声にも近い私を呼ぶ声がする。ああ、ジャスティスの言う通り、一度でも失敗したらここでは終わりと言っていたのは本当だった。

崖の下に一本、木が植わっているけれど、そこに落ちたとしてもこの落下スピードではきっと、私は助からないだろう。

死にたくないけれど、私が患う花吐き病が私だけで終わるならいいかなと覚悟を決めた時だった。崖をものすごい勢いでくだる何かがいる。私が崖下に叩きつけられる寸前に、それは私の身体を受け止め、建物の中へと入って行き、私が状況を理解する前に、私をおろして目の前から消えてしまった。

「・・・・・・生きてるなあ・・・」

あれは、さっき追いかけていたヤギだったな・・・あんな風に崖をくだれるのかと感心してしまった。

ということは、ここがローガンのアジトなのだろう。

「誰かいますかー?」

声をかけて返事をする奴がいるわけないだろうと充分解っているが・・・一人なのだ。今まで、民兵団の二人のサポートがあったから、多少の無茶も出来た。一人で、あのローガンを倒さなければいけないのだ。私に出来るだろうか。好きになっている人に、刃を向けられるだろうか。

悩んでいても仕方ない。ここから生きて出る術は、勝つこと以外にないのだから。

アジトの中は、以前旧世界のことについて書かれていた本の「遊園地」にあるような遊具がたくさんある。乗り物はショートしているものもあったりして危険だが、慣れればどうにか別の足場に渡れた。

回転する乗り物を乗り継いで、かなり高いところから下へ降りると、次は広場のような場所に出た。回転草に包まれた爆弾が、侵入者である私を阻むようにあちこちに置かれている。それだけでなく、侵入者を見つけると自律でこちらを追いかけて爆発するロボットまで配置されていた。

民兵団よりいいものを盗賊が使っているなんて・・・相棒のハルは相当な頭脳の持ち主なのだろうな。

乗ると上に跳ね上げるギミック、バンパーも、こんな時でなければとても楽しかっただろうな。それを使って行く方向を確かめる。

今いるところから少し上がった場所に、お城のようなものが見えた。何度も跳ね上げられて見ていたら、その先がどこかに繋がっていそうだった。

「よし、あっちに行ってみるか・・・」

緊張のためか、アジトに入ってから不思議と咳と共に花は出ることがなくなっていた。サンドギアも外せて、視界も確保できている。これならもし戦闘が起きたとしても、ターゲットを見失うこともないだろう。視界が狭く、動く爆弾を見失って何度か危ない目にあった。

先に進もうとしているのだが、ブロックのようなものがあちこちに積まれていて、迷路のようになっている。その迷路の中を行ってみても、行き止まり。バンパーでブロックの上に乗って上から見てみても、どこをどう行けば城のような場所に行けるか解らない。

「あ、そうか。これ、迷路の中通るんじゃなくて、上を通らないと行けないのか」

やっと気がついて、バンパーのバネを利用してどんどん上へと上っていく。

先程見えたお城のようなものは、本当にお城の形をしていた。そこに向かうと、その先は洞窟に繋がっているようだった。

「・・・・・・」

洞窟の中は、まるでワークショップだ。音を立てて機械が動いていた。作っているのは、爆弾のようだ。しかも機械には投石器のようなものまでついている。作った爆弾をすぐに投げられるようにしているのか・・・こんなものを量産されたら、サンドロックは対応できるのだろうか。

カラフルな坂をのぼった先に、かなり進んだ技術の化学セットが大きな机と共に置かれていた。

「ん・・・?」

そのすぐ横に、見覚えのあるロゴが見えた。

「これは・・・」

そのバックパックを取ろうとしたら、肩を叩かれた。肩・・・!?

腰に着けていた短剣を引き抜き、振り向くと同時にそいつの腹を狙って切りつけた・・・はずだったが、飛び上がって避けられてしまった。飛び退いた先を見ると、茶色のヤクボーイハットとオーバーオールを身に付けた青年がこちらを睨んでいた。町のお尋ね者の絵と同じ人物だ。

「・・・ハル?」

「本当に来たんだね。君の強さは解ったよ・・・」

よく見たら、お腹をおさえた場所に血が滲んでいる。さっきの一撃はきちんと入っていたようだ。

「俺では敵う筈もない・・・」

そう言って、さらに奥へ行ってしまった。洞窟の中なのに、ハルが向かった方はこっちよりも明るくなっているようだ。きっと、向こうに私が倒さなければいけない人が待っているのだろう。ユフォーラ奥地の洞窟で戦った時の強さを、今一度思い出す。あの時は、なにも出来ずに倒れていただけだ。でも、あの時よりは経験を積んでいる。何より勝たなければ、私に「この先」は無いのだ。この洞窟で、私の物語は終わる。そうはなりたくない。

「・・・・・・」

意を決して、ハルの向かった方へ進んでいく。

「うわ・・・」

明るいわけだ。洞窟の壁が崩れたのか、そこから峡谷が一望できるようになっていた。きれいな景色だけれど、見ている暇など無い。視線の端に、ハルがソファーに腰かけた人物に近寄っていくのが見えた。

「・・・・・・ローガン」

盗賊の親玉らしく、厳ついソファーに腰かけたローガンが、私に気がついた。

「っ・・・」

ここに来て、吐き気だ。私の命がかかっているこの大事な場面で、私の身体の中の花がまた咲こうとしている。まだ、大丈夫だ、戦える。

目の前の坂を下り、ソファーに座るローガンと対峙する。改めて対峙すると足がすくんでしまう。そんな私に気がついているのかは解らないが、彼は短剣を取り出して、柄を指の間へ器用に通していく。最後にそれを宙に放りなげ、見事にキャッチした。

「・・・盗賊から曲芸師にでも転職するのかい?」

「ハッ、ビルダー、ジョークがうまいな。あんたこそビルダーを辞めて別の道があるんじゃないか?」

雑談をして隙を窺うものの、こんな時でも全く隙は見えない。さすが死線をくぐり抜けてきた戦士だ。ただの盗賊というには、この人は強すぎる。

「職人に、口の上手さは必要ないよ、むしろ敬遠されてしまうからね。ローガン、君だって、ペラペラしゃべる人は苦手なんじゃないの?」

「今まさにその状態だな、ビルダー?」

「おっと、確かに」

吐き気と緊張感で、どうしても口が回る。回すのは口じゃない、頭と身体だ。

「ようやく会えて嬉しいが、あんたは民兵団に入ったんだってな。オレの首を取りに来たんだろうが、そうやすやすと殺られる気は無いぜ」

「それは痛い程理解しているよ、君がとても強いことはね」

でも、もう、洞窟で助けられたなにも出来ない私では無い。あれからなにもしていなかった訳じゃない。いくつもの経験を積んできた。

「ローガン、気を付けろ、ビルダーは強いぞ、油断は・・・」

ハルがお腹を押さえながらローガンに忠告するも、彼は気にしていないようだった。

「問題ない、おまえは傷のことだけ気にしていればいい、こいつはオレに任せろ」

「・・・わかった」

私から視線を外さずに、ハルと会話している・・・一応警戒しているんだな。ハルはローガンの一言で安全な所に動いたようだった。

「構えろ!」

「言われなくても!」

短剣を構えて、ソファーから立ち上がったローガン目掛けて駆け出す。もうすぐに彼に一撃を食らわせるというところで、私の短剣が弾き飛ばされた。咄嗟にそこから飛び退いて、飛んできた方を見ると、見覚えのある顔がそこに立っていた。

「グレース!?」

「全く、どうしてすぐに武器を振り回すのかしら。もう充分でしょう、ビルダーがここに来た。それだけで充分よ」

「そうだな・・・」

さっき見つけたロゴ入りのバックパック。彼女の顔を見て思い出した。あれはブルームーンのロゴだ。あのバックパックは、確かサンドロック周辺の村へ、温かい美味しい食事を持っていくために作ったものだったはずだ。それを使って、食料を運んでいたのか・・・

「ごめんなさい、ビルダー」

「グレースがどうしてここに?」

「そうね、それを話すには初めからになるわね」

ローガンが盗賊と呼ばれるようになった原因は、聖堂の爆破事件だ。

彼の父であるハウレットは、何日も旅に出ていたらしい。帰ってきた時にはウイルスにかかり、聖堂に隔離された。それを診察したドクターファンに「ハウレットの後頭部にアザがある」と教わり、モンスターにやられたかもしれないからと別の医者に見せたいとミゲルに言ったものの却下され、連れ出したくて聖堂を襲撃したのだと言う。

父親を救うために行ったのだが、量を間違えたのか聖堂は崩れ、父親は瓦礫に挟まれて動けなくなってしまったのだ。その時、ハウレットは「サンドロックを守れ・・・デュボスだ・・・」と言い残して眠りについたようだ。聖堂が崩壊したとき、ローガンも足を折っていて、それが治って町に戻ると、指名手配されていたのだ。

まあ、聖堂を壊しているのだから、指名手配はされるだろうとは思ったけれど、黙っていた。

「もうわかっていると思うけれど、私は考古学の学生ではないわ。これが証拠」

グレースが私に見せたのは、同盟中央情報局の工作員がもつバッジ付きの手帳だった。彼女はデュボスのスパイがサンドロックで邪悪な計画をたてているから調査しているのだという。そして少し前に「タイガーが計画を進めている」という電報を傍受し、デュボスの諜報員の痕跡は見つかっているものの、タイガーという人物の手がかりが全くわからないという。そして、ローガンが「盗賊のような行為」をした時に、本部からデュボスとローガンの関係を探れと命じられ、出会った時に、お互いが追うものがデュボスということが解り、行動を共することになったようだ。

給水塔の襲撃は、ローガンの仕業ではなかったらしい。ペンが遺物の武器を使って壊したという。いくら古くても、手を抜くビルダーはそうそういないはずだ。それだけ強力な遺物を使っているのか・・・。でも、どうして、壊したのをローガンのせいにしたのだろう。ペンが防衛のために壊してしまったと言えば、誰も責めなかったはずだ。

・・・ローガンのせいにしておく方が、都合がよかったのだろうか。

ペンについては、要注意人物として考えておけばいいとグレースとローガンのなかで意見が一致しているようだけど、あの人は・・・思っている以上に注意しないといけないきがする。

「何で私が・・・選ばれた?選ばれたって自分で言うのも変だけど」

「あなたは、モイスチャーファーム、ショナシュ・ブリッジ、給水塔を直して見せた。他にも色々なものを作ったりしている。優れた人物であることは明らかなの。才能があって、信頼できる人、そんな人が、私たちには必要なのよ」

「ワークショップに協力をしてもらおうと向かった時、偶然ルミに会ったんだ。彼女はあんたたちとモグラが計画していることを全て教えてくれた」

「やっぱり全部聞いてたんだな・・・」

「ん?」

グレースとローガンが聞きたそうにしているから、ルミとモグラに何があったのか、簡単に説明した。

「・・・で、洞窟にローガンの手配書を何枚も貼っていたんだ・・・だから、聞いたことを全部話しただろうなと思ってさ」

「ああ、そのおかげでチャンスがやってきたわけだ。ルミの話したその計画を利用して、ランボに案内をさせた。多少手荒だったが」

「多少・・・?死ぬかと思ったけど・・・」

「それは悪かったな、ははは」

たいして悪いと思ってなさそうな言い方に少しムッとしたが、まあ、無事だったからなにも言うまい。ランボのすごさも見られたことだし。

「それで、ビルダー。あなたの疑問には全て答えたと思うけれど」

「待って、アンディについて聞いてもいい?」

アンディの名前を出したら、ローガンとハルが深いため息をついた。

二人が逃亡生活を送っている時に、砂嵐に遭遇してキャラバンからはぐれ、一人で生活しているのを見つけて、一緒に行動することになったと言った。

砂嵐のせいで、元々残りにくい手がかりも全て吹き飛んでしまったのだろう。追われる身で、何の罪もない子供を「盗賊」の一員にしたくはなかったと後悔していたからこそ、サンドロックに残したのだと理解できた。

「もう、聞きたいことはない?これからはデュボスという強大な帝国を相手にする事になる。それには危険が伴うということは覚えておいて。それでも、私たちを手伝ってくれる?」

「・・・・・・サンドロックは、私にとってもうひとつの故郷だから。協力するよ」

「そう、それならよかった。あなたに協力して欲しいことは、水の保管庫にある秘密の扉の解除キーなの」

サンドロックの水の保管庫の設計と建築は、ヤンが担当したのだという。その為、水を盗んでいるのはヤンだろうと考えて家に侵入し、設計図を手に入れたグレースは、その保管庫に秘密の扉があり、自分の持つ知識では何をしても開かなかったのだという。

「アンチロックの設計図は、水の保管庫の設計図と一緒に保管してあったの。きっと何か自分の身に起きた時の切り札にするつもりだったのでしょうね。これがアンチロックの設計図」

「・・・・・・」

設計図は、ヤンが本当に技術を持ったビルダーだということが解るものだった。こんなすごいロックを設計できるなら、何にでもなれただろうに、なぜ悪事に手を染めてしまったのだろうか。

「出来たら私に教えてくれる?言うまでもないと思うけれど、これは私たちの間の秘密だからね?」

「わかってる。アンチロック自体の構造は理解できたけれど・・・」

「あー、悩むのはここから出てからの方が良いと思うわ。あなたは生きているわけだから、あまり時間をかけるとよくないし」

「確かに・・・」

「ビルダー、ちょっと悪いんだが、オレと少しだけ話してくれないか?」

ローガンが、峡谷を一望できる場所に私を呼んだ。グレースは軽くため息をついて、ハルのいるベッドの方へ向かって行った。

「・・・何か用?」

ローガンに呼ばれてから、治まっていた吐き気がぶり返してきた。急に来たから止められない。

「ゲホッ」

出てきたのは、一輪のバラ。すぐに拾おうとしたら、ローガンがそれを拾ってしまった。

「っ!」

「なんだ、あんたも花を・・・ぐっ・・・」

持っていたバラを落として、ローガンが前屈みになってえづきだした。着けていたマスクを外し、吐き出したのは赤いバラ五本と白い花びらだった。白い花びらは、いままで見たことのない花だけど・・・どうしよう、ローガンにうつしてしまった。それに、花を吐くということは・・・花を吐くということは・・・・・・彼も誰かに恋をしているということだ。

「っ・・・悪い、見苦しいところを見せたな。あんたも花を吐くんだな・・・ワークショップに行こうとしたときに、遠くから何か吐いているのを見たが、信じられなくてな・・・」

「もしかして、前から吐いている・・・?」

「咳と共に花びらは出ていたようだが・・・花を吐くのは初めてだな」

今感染したわけではないのか・・・もう仕方ない、私と彼が何という病にかかっているのか説明した。恋をすると発病するということだけは、言えなかった。いや、言いたくなかったんだ。私は貴方に惹かれているのに、貴方は誰に恋しているのか聞くことになる。それだけは嫌だった。

「・・・ずいぶん前に、花びらが風に乗ってここへ運ばれてきた。それは、サンドロックにはない花のものだった。もしかして、あんたが吐いたものだったのか?」

「今感染したんじゃないなら、きっとそうだね。確かに一枚飛ばしてしまった。その時は、こっちに人が住んでいるとは思わなかったから。ごめん、もう少し注意していれば・・・」

「いや、迂闊に拾ったオレが悪いんだ、気にするな、大丈夫だから。さっき言ったが、ワークショップで花を吐いていたのを見て、あんたも花を吐くのか聞きたかったんだ。まさか目の前で吐くとは思わなかったけどな・・・」

「・・・・・・花を吐くようになってしまったのなら、ハルとグレースに触らせないようにしないと。彼らが苦しむだけだよ」

「わかってる、引き留めて悪かったな。気を付けて帰れよ」

アンディが使っていた部屋、というかエリアにバンパーが設置されていた。さっきここまで来るのに使ったものより高く弾むので、結構楽しんでいる私がいる。

元々この遊園地にあったものなのか、それともハルが改良したものなのか、聞くのを忘れてしまったけれど、このままうまく事が運べば、ゆっくり話すことも出来るだろう。上まで昇ると、私が入ってきた場所で、そこにランボが待っていた。

「やあ、ランボ。さっきは助けてくれてありがとう」

私がそう言うと、ランボは頭を上下に振って頷いたように見えた。ハルが世話をしていると言っていたから、賢くなったんだろうな。いや、飼い主がどうとかいうつもりはないけれど・・・

ランボは私を乗せてあっという間に町まで連れていってくれた。ランボは町の皆がローガンのヤギということは知っている。町の皆が見ないところで止まって私を下ろすと、そのまま元来た道を風のように駆けていった。

民兵団の二人と一緒に行動していたのだから、崖から落ちたことは町の皆が知っているだろう。生きてるとは思われていないだろう・・・さてどうしようと、とりあえず自分のワークショップへ向かったら、 ブルームーンの屋外ステージの方から悲しい音楽が聞こえてきた。

ステージの上で、マチルダ司祭がなにかスピーチしているようなので、そっとそちらに近づいた。

「・・・ビルダーがワークショップを登録するために市役所で私に会ったのがつい昨日のことのようです。そんな短い間に、私たちはビルダーの残したものをいくつも見ることが出来ます。この世から去っても、私たちの友人であるビルダーの精神は、永遠にここに残ります」

ああ。私の葬式か。ちょうど良い。町の皆は祈るために下を向いていたし、マチルダ司祭は涙をためて話しているから、私が近づいても気がつかないだろう。

足音を立てないように、ステージにたって

「生きてるよー」

と言ったら、祈っていた皆の視線が私に注がれ、みんなの目が飛び出さんばかりにまん丸くなった。ちょっと笑いそうになってしまったが、なんとかこらえた。

「ビルダー!?無事だったのね!」

ステージの下にトルーディ町長がいて、またしてもマチルダ司祭がトルーディの仕事を奪っているのかと思ったものの、彼女の泣き顔になにも言えなくなってしまった。

「おばけじゃないから、安心して」

「おい、それを冗談にするのは無理があるぞ、ビルダー!」

「あー、ごめん、ジャスティス。和ませようと思ったんだけど・・・」

「ビルダーは生きてたんだ、グレースの作った葬列オムレツはお祝いオムレツに変更するよ!」

オーウェンがグレースの作った・・・え、グレースが作った?彼女、私と一緒にアジトにいたよな・・・?オムレツの置かれたテーブルの近くにいたグレースを見たら、ウインクされてしまった。はい、なにも言いません。

司祭が解散を指示して、みんなが私に寄ってきた。そこまで心配されるとは思っていなかったから、ちょっとびっくりだ。

「細腕っ子」

この呼び方をするのは、一人しかいない。声の方を見ると、ペンが腕組みをして私を呼んでいる。アジトで彼が給水塔を壊した犯人だと知って、すこし怖いけれど、態度を変えることは出来ないのだ。

彼の元に向かうと、頭から爪先まで見られてしまった。

「死から蘇るとは、よくやったな!知らせを聞いてからあちこち探し回ったんだぞ?見つからなかったけどな。そもそも迷ったなら、そこから動かないはずだろ?まあ、ともかく、戻ってきたんだ、よかったなビルダー」

珍しく私の名前を呼んだな。いつもはあだ名でしか呼ばないのに。

「ありがと・・・」

「それとな?盗賊だとかアジトだとか、そういう妙な連中の居場所を突き止めたら、オレに教えてくれよ?それに、妙な病とかな?他の奴らに移ったら大変だからな?」

息をのんだ音がペンに聞こえなかっただろうか。

「そうだね、突き止めたら教えるよ」

「はは!当然だな!じゃあ、また後でな?」

そう言ってペンは教会へ戻っていった。

この人は、私がどこにいたのか知っている。そして、私が病にかかっていることもわかっているのだ。それを解った上で、警告しているのだ。教えなければ、病を理由に隔離するぞと。

ゲドに会いに行く前に、ニアの手紙を読んでいた時、声をかける前に全てを読んでいたのだろう。その返事を出すときに被っていたサンドギアのことも、掃除機と繋がっていることに気がついていたのだろう。今までの認識からは、かけ離れた人物だ・・・

グレースの頼み事、アンチロックを早急に作らなければならないようだ・・・。

続く

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen