○イカロスの翼8(ネタバレ注意)

ローガンに、ペンの連行が明日だと言われ、さらには「今日はなにもせず、家でゆっくりするか、町にいろ」と命じられてしまった。

ゆっくりと言われても・・・仕方ないので、ワークショップに戻って、最近ほったらかし気味だった畑の手入れをすることにした。

サンドロックでは、時間はかかるものの、季節問わず大抵の食物は育ってくれる。畑では、唐辛子とサツマイモが一緒に実るハイブリッド作物が収穫を迎えている。他にもポマトというポテトとトマトが一緒に実るものや、ジュートカンタロープというジュートとメロンが実るもの、更にはコーヒーとお茶の葉が一緒に収穫できるコーヒーティなんかもある。

砂漠の環境でうまく実るように改良したのかな・・・?そこまで聞いてなかったから、解らないけれど。

収穫できるものはすべて収穫し、新たな種を植える。依頼に料理を頼む人もいるから、人気の料理に使うものがいいだろう・・・砂漠キノコとポマトにしようかな。バイオクラストの数も増えてきたけれど、いくつあっても困らないから、一度剥がして栽培セットの中へしまっておこう。

代わりにわらの囲いを作ってキノコとポマトと植える。ここから段々栄養のある土になっていくのが楽しみでもある。

なんだかんだ作業をしていたら、いつのまにかお昼をすこし過ぎていた。

「ふむ、焼き芋でも作ろう」

今収穫したサツマイモをオーブンにいれるだけでできる簡単なおやつだ。

故郷では、焚き火を囲んでそこにサツマイモを入れて焼けるのを待っていたこともあったな。サンドロックだとやったことないけれど、夜ならいいか。ああ、年末の焚き火躍りの会場でやってもいいかもしれない・・・。でもバーベキューでサツマイモ焼いてたっけな。じゃあだめか?

「あ」

考え事をしていたら、オーブンに入るだけサツマイモを詰めていたことに気が付いた。扉が閉まらないじゃないか。何本か出して扉を閉める。焼ける間にバターでも作ろう。

ドクターファンの診療所に売っている薬瓶にヤクメルミルクを詰めて、一心不乱にふる。腕が疲れてもふる。

「ぬわああああ」

変な声が出てもふる。しばらくすると、液体だったミルクが固形になる。それがバターだ。ちょうどサツマイモも焼けたから、やけどしないように取り出し、半分に割って、そこにバターをのせる。バターが焼き芋の熱で溶けて、いい香りだ。すこしだけバターの上に海塩をふって、できあがりだ。

「ふむ、我ながらいい出来だ」

完ぺきとはいかないものの、素晴らしい出来だと自画自賛する。庭に置いているラタンの机に座って焼き芋を頬張る。行儀悪いけど、誰も見ていないからいいだろう。机とセットの椅子は、八つ当たりして壊してしまった。

壊したからといって、気持ちがすっきりするわけでもないし、悲しいことを忘れられる訳じゃない。でもその時はそれをしないといられなかったんだ。

「壊したものは仕方ないからね・・・端材として燃料だ」

焼き芋を食べ終わって、椅子を持ち上げる。かなりひどく壊したから、直すのも難しい。だから有効活用だ。細かくして、火力発電機に入れていく。

ごうごうと勢い良く燃える炎をみていると、まるで自分の心を砕いているような気になってくる。砕けて使い物にならなくなった心を取り出せるものなら取り出して、火にくべて、何色の煙があがるのか見てみたい。

心を失くしたら、どうなるんだろう。少なくとも私のこの状態は、失ってはいない。悲しくて辛いのだから。

そのうちこの胸の痛みも消えてなくなるのだろうか。それはそれで悲しく思うのは、やはり私はあの人を、ペンを心の底から好いていたということだろう。悔しいけれど。

「悔しい、悔しいなあ」

涙が自然と出てくるのは、これで何度目だ?自分でもいい加減にしろと言いたくなるが、もう仕方ない。止まるまでこのままだ。

夜は焼き芋を潰して、濃い目のヤクメルミルクと砂糖を混ぜて楕円形に形作って、卵黄を塗って再びオーブンへ。焼けたらスイートポテトだ。・・・・・・ちょっと焦げた。これはこれでなかなかである。

あれだけ泣いて、お腹が減らない訳はなかった。結構体調も戻っているのかもしれない。ストックしている保存食も食べて、明日に備えて寝ることにした。

続く

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen