○イカロスの翼3

いつの間にか寝ていたらしく、起きたときは月が空のてっぺんにあった。

「あのまま起きなくてもよかったな・・・起きたなら仕方ない。帰ろう」

こんな夜中だが、ヤクメルバスは運行中だ。呼べばくるという親切設計。砂漠の中だから、道に迷った人の目印も兼ねてはいるわけだけど。さすがに遅すぎるから、通常の運賃に上乗せしてゴルを多めに払った。

明日からは、またビルダー業に戻る、戻らなければいけない。デュボスに侵略されて受けられなかった自由都市の依頼などもあるだろう・・・きっと現実を考える暇もないくらい忙しくなってくれるだろう。そうならないと困る。

帰ってすぐにベッドに入ってそのまま眠ったようで、いつもと同じ時間に起きた。こんな状態でも、身体に染み付いた癖は抜けないようだ。

「さて、ギルドに行くか」

依頼ボードには、案の定大量の依頼が張り出してあった。品物と日付を確認して、期限のはやいものから引き受けていく。

何があってもいいように、素材やよく依頼に出るものはかなりの数をストックしているから、すぐに終わる。終わらせたら遺跡にダイブしてこようかな。

そうでもしないと、どうしていいかわからなくなる。

「ビルダー」

商業ギルドを出ると、町長のトルーディが待っていた。

「忙しいのにごめんなさい、もしよければ役場に来て欲しいのだけれど・・・無理にとは言わないわ」

「・・・・・・ごめんなさい、町長・・・」

「ええ、そうね。あなたはこんなもの欲しくはないでしょう、でも、渡さないわけにはいかなくて。どう扱おうとあなたの自由よ」

「・・・勲章?」

トルーディ町長が渡してくれたのは、名誉勲章だった。エイブリー司令官が贈ってくれたもので、本当はこの後授与式らしいが、勲章を授与されるみんなが私の事情を知っているために町長に託したそうだ。

「ごめんなさい。でも、この町を守ってくれてありがとう」

「・・・・・・はい」

町長はそう言ってメインストリートを上がっていく。最後に私を見ていた顔は、少し故郷の母を思い出した。私も、この町を守れてよかったけれど、私の心は守れなかった。壊れて元に戻らない。その壊れた部分を、なにで埋めれば良い?

もらった勲章を地面に叩きつけたい衝動にかられたが、さすがにそれはやめた。そこまで子どもじゃない。

「・・・依頼、終わらせなきゃな」

なにも考えなくて済むように。私はいつも以上に依頼をこなしていく。庭の機械もフル稼働だ。今まで使っていた数だけでは追い付かず、炉とリサイクルマシンを幾つか増やした。そのせいで燃料も水も使う量は増えたけれど、依頼は待たせることなく引き受けた当日中に渡すことができている。

「はい、依頼のお茶の葉ね、ヴィヴィおばあちゃん」

「いつも悪いね、ビルダー。これでおいしいお茶をいれてあげられるわ」

「いいね、おばあちゃんの作る料理もおいしいから、家族みんな嬉しいよね」

「おや、ビルダー、お世辞まで言えるのかい、ふふふ。今度なにか作ってあげようね」

「やったー!じゃ、他のところもいかないといけないから、またね!」

ヴィヴィおばあちゃんの家を出て、次の依頼人のところへ。町の人たちは、私は立ち直っていると思ってくれているのか、ひどく優しくするわけでも、同情するわけでもなくいつも通りに接してくれている。そのおかげか、自分も今まで通りやれているとは思う。

「さて次は・・・と」

依頼書を見たら、忘れ物に気がついた。全て確認したと思っていたけれど、注意が足りてなかったなとワークショップにもどることにした。

ワークショップではまだリサイクルマシンが大きな音をたてて稼働していた。もう少し消音設計にならないものかと思ってしまうが・・・まあ、いいか。

炉に延べ棒が溜まっていた。取り出してすぐ近くに置いている収納箱へと入れていく。そのとなりにある仕立て機用の収納箱からキャンバス地を取り出して立った瞬間に、視界がグニャリと歪んだ。これはまずいとおもったものの、近くに掴まれるものなどない。そのまま庭に倒れた。

「ビルダー!」

誰かが私を呼んでいる。誰かかまた誰かを呼んでいる。これは大事になりそうだなんて、冷静に分析している自分がおかしくて、声はでなかったけれど、顔は笑っていたと思う。

続く

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen