砂嵐の日
仕事が休みになったので、最近話題のサンドロックに遊びに来たのだが、運悪く天気が砂嵐だった。天気が砂嵐ってどういうこと?と思ったら、真っ暗で風が強く、更には砂が音を立てて身体のあちこちに当たってくる。地元を出たときは、サンドロックは晴れだと言っていたのに。
これじゃ駅舎から出られない。どうしようと途方に暮れていたら、駅舎のドアが開いた。
「こんな日に観光客?」
声の方を見ると、この地方独特の被り物を身に付けた人が立っていた。でもこれは見たことがない。頭から首まですっぽりと覆った青い布と、目の部分だけが見えている。性別が解らない。
「朝は晴れていたから、列車が来たんだね。滞在は何日間?」
布が顔を覆っているからか、声で性別の判断も出来ないけれど、こちらを心配してくれているのは解る。一通り説明して、理解してもらえたみたいだ。
「砂嵐は今日の夜まで続くから、このままじゃブルームーンにも行けないね」
そう言いながら持っていたジャーキーと水を渡してくれた。
「それ食べて、ちょっと待っててくれるかな?すぐそこのワークショップに必要なもの取りに行ってくるから。」
返事をする間もなく、その人は駅舎を出ていってしまった。砂が駅舎のあちこちに激しく当たる音がする。ちらりと窓の外を見たら、向こうの方に薄ぼんやりと建物の明かりが見えるが、何か高い壁のようなものに囲まれているように見える。
そういえば、ワークショップと言っていたけれど、もしかしてあの人はビルダーなのだろうか。
砂嵐のなかでは、時間の経過が全く分からない。もらったジャーキーを食べ、水を飲んだらちょっと眠くなってしまった。肩を揺さぶられる感覚で、自分が寝ていたことに気がついた。
「おまたせ」
目を擦って声の方を見ると、さっきの被り物の人がたっていた。眠ってしまったことを詫びると、その人は笑って何かを差し出してきた。
「あはは、こちらこそだよ、待たせちゃってごめんね。これ作ってきたから、被るといいよ。身に付ければ、砂嵐も怖くないからブルームーンまで行けるよ。」
やはり、作ってきたということはこの町のビルダーなのだろう。今思い出したがサンドロックの町の外れに住んでいるビルダーは、他の町でも有名になりつつある。そんな人直々にものを作ってもらったとなれば、いくら払えばいいのかわからない!手持ちで足りるかな。財布をごそごそしていたら、目の前の人がすっとしゃがんだ。
「お金はいらないよ、大丈夫。ワークショップで仕事してたら、駅舎の窓に人影が見えてね。この天気だから、誰もいないだろうからきっと困ってるだろうって勝手にお節介しただけ。・・・・・・もし気にするなら、ブルームーンでたくさん食べて飲んでくれる方が嬉しい。」
顔を覆う被り物のせいで表情は全く分からないが、聞こえる声はとても優しい。その言葉に甘えて財布を仕舞った。それを見て、ビルダーは何度も頷いて手を振って駅舎を後にした。
そういえば、この被り物の名前を聞き忘れたな。あのビルダーの被っていたものの名前も。ブルームーンに行けば名前を教えてくれるだろうか。ああ、そうだ、いいことを思い付いた。喜ぶかは分からないけれど、自分もお節介をすることにした。さて、ブルームーンへ向かおうか。