○真ん中の日

バーナロックの伝統である、誕生日をなんとかしてなんちゃら・・・の話を、彼とお付き合いするときに聞いた。お姉さんであるアミラにも確認したら、それは本当だと言っていたので、多分嘘じゃないんだろう。アミラは嘘をつくような人じゃないし。

しかし彼・・・アルビオはサプライズが好きだよなって思う。あの告白のサプライズもそうだけど、彼と付き合う前は、自分の誕生日すら祝うのを忘れているくらいだったのに、朝外に出たら彼が待っていて、アルビオの家まで連れていかれてパーティをした。準備するのに大変だっただろうなという飾り付けが・・・これ、告白されたときの余りでは・・・いや何も言うまい。

と、まあサプライズ好きの彼のことだから、きっとサプライズされるのは慣れていないだろう。

旧世界では、恋人に花を贈ったり、甘いもの、アクセサリー、ぬいぐるみ、それに愛のメッセージを書いたカードをつけて渡したりする日があると遺跡から出た本で見たので、それをしようと思ったのだけど、肝心のその日がいつなのかは汚れていて読めなかった。

それならばと、カレンダーを取り出して、彼の誕生日と私の誕生日の真ん中を調べていく。

「・・・・・・三日後か」

三日あれば本のものは全部用意出来るだろう。しかしそれをアルビオに悟られないようにするには、周りの協力か必要不可欠だ。彼はなんだかんだ私の周りをうろうろしているので、準備は多分ばれてしまうだろう。ばれたときに、知らないふりが出来るような大人でもないから・・・ってかなり失礼なこと考えてるな、私は。

「儚い青春のお茶会のみんなに協力してもらおうかな・・・」

儚い青春のお茶会とは、アミラ、ハイジ、パブロが忙しい合間をぬって、時折開くお喋り会だ。アミラの手伝いをしたことによって、私もそこに参加させてもらっている。この三人なら、多分手伝ってくれるだろう。三人にそれぞれ声をかけたら、それとなくアルビオを忙しい状況にしてくれるというので、お願いしておいた。それとなく、だよね?大丈夫だよね?

まあ、アルビオは最近私とよく遊んでいたから、多分仕事は溜まっているだろうけれど。

「さてと、それじゃあ作るとしますか」

ワークショップに戻って、再び本を開く。これに書いてあったプレゼントの品物で、アルビオが喜びそうなものといえば、アクセサリーだろうか。私が作れるものといえば、鉱石を加工して作るものくらいなのだけど、前にあげたらあまり喜ばなかったんだよなあ。これは、三日間で素材集めをしておかないとな。

あとは、花束だろうか。サンドロックの花といえば、マウンテンローズだ。そこにサンドライスを加えると、丸い実が可愛らしくて見映えがよくなる。まあ、これはバージェスとダンビのフラワーゲート作戦で教えてもらった植え方だけど、花束にも応用が効く。いくつか作って、樽の中にいれて部屋の中へ置いておこう。

あとは・・・メッセージカードか。メッセージカード、アルビオの所にしかないじゃないか・・・

結局顔を合わせる事になってしまうな。さりげなく出来るだろうか?これも後でいいか・・・とにかく今は素材集めに行かなくては。

貝殻を取りに死海へ来てみたら、なにやらギーグラーが揉めている。シャーシャーと言い合っているけれど、トカゲ語は翻訳が難しいんだよな。サンドロック語通じるかな?そもそもこのギーグラー達はラリーの息がかかっているだろうか・・・。いや、きにしても仕方あるまい。

「おーい、そこのギーグラーさんたちー」

「?」

声をかけたら一人だけこちらを向いた。

「なにかあったの?」

こっちを見たそのギーグラーはサンドロック語が通じるらしく、私に説明をしてくれた。

ラリーがギーグラーを解散した後に、行くところのないものは、ここに残って生活しているらしい。その中で人間が残した箱を見つけて、誰がそれをもらうかで喧嘩していたのだという。ありがちな喧嘩だけど、止めてよかった。たぶんこのままだと戦闘になってただろう。

「これ、開けてもいいかな?」

そう聞いたら、何人かからはラリーに教わった「汚いギーグラー語」を言った気がするが、まあ、聞こえなかったふりをするのが一流のサンドロッカーだろう・・・わからないと思って言われてるのがイラッとするけど、我慢我慢・・・

「おまえ達は黙っていろ!元は人が残したものだ、人にしか使えない物かもしれないだろう。コイツが開けるのが一番だ」

よく見たらこのギーグラー、結構体格がいい。もしかして以前はマネージャーとかやってたのかな。なんだかんだリーダーのようなギーグラーが出るんだな。

許可をもらったので、箱を開ける。そこには・・・

「ペンダント、だね」

「ペンダント・・・?」

どういうものか説明したら、みんな興味がないらしく、私に譲ってくれるというので、遠慮なくもらうことにした。ギーグラーたちは、また箱を見つけたらヤクメルバスの駅前に置いておいてくれると言って死海の奥に戻っていった。

宝箱に入っていたのは、琥珀のペンダントだった。私には作れないものだけど、たまに遺跡に残されていたりすると聞いたことがある。琥珀の中には、なにか虫が取り残されているようで、見ているととても不思議な感覚になる。

「このペンダントは、あげたことなかったよなあ・・・好きかなあ」

よし、一度町に戻ろう。

ヤクメルバスで町に戻ると、アルビオが忙しそうに牧場の方へ駆けていくのが見えた。いつもなら立っている私をすぐに見つけるけれど、今日は気がつかないようだ。相当忙しいんだろうな。今ならメッセージカード、買えるかもしれないな・・・

彼が牧場のゲートを通ったのを見てから、私はアルビオの雑貨屋へ向かった。

「あれ、アミラじゃないか」

「アルビオが配達を溜めていたので、その間店番を頼まれたんです」

またお姉さんに頼ってるのか・・・仕事を溜めるほど遊んでたってことか。そしたらこれは私のせいでもあるじゃないか・・・

「アミラ」

「謝る必要はありません。私がここにいるのは、あの子のせいです。あなたと遊んでいても、ちゃんと配達をこなしていれば良かっただけのことです。その証拠に、あなたはちゃんと引き受けた仕事はこなせていますよね?だから、遊んで疲れてなにもしなかった弟が悪いのです」

おお、辛辣。でも、確かに私は遊んだ後も依頼はこなしているから、正論ではあるんだけどね。ちょっとかわいそうかなと思ってしまうところが、アルビオにはよくないのかもと反省したりして。

「ふふ、それならいいか」

「はい、今日も明日も町を走り回ることになると思いますよ。だから、あなたはゆっくり準備してください」

儚い青春のお茶会メンバーに頼んだのは正解だったようだ。アルビオには悪いけれど。

アミラにメッセージカードがほしいと言ったら、とても素敵なものを出してくれた。よし、これでメッセージを書くぞ!

「じゃあ、店番頑張ってね!」

「はい、あなたも気を付けて」

アミラに挨拶をして、サンドロックのメインストリートを駆け降りていく。後は、部屋の片付けと飾り付けだな。

部屋の片付けをしていたら、いつのまにか寝ていたらしい。敷いていたカーペットを身体にかけて寝ていたから、砂ぼこりだらけになってしまった。夜に書いたメッセージカードはちゃんとしまってあったからよかった。汚れていたらどうしようかと・・・

「おわー・・・」

外で自分をはらうついでに、カーペットもはたかないとだめだな・・・

ばさばさとカーペットを降ると、かなり砂ぼこりがたつ。敷きっぱなしだったから仕方ないよね、うん。

「よし、これで干しておけばいいだろう」

ワークショップの塀にカーペットをかけて、天日干し。本当は洗いたいけれど、汚れているわけではないし、水は大事だからね。

部屋の掃除と言っても、私はほぼ眠るために帰ってきているようなものだから、家具といえばベッドぐらいしかない。収納箱はたくさん置いてあるから、それを外に出しておこう。それと、パーティをするのだから、テーブルと椅子を準備しないといけない・・・作るか。

作業台でラタンの机と椅子を作った。作れるのはこれくらいしかないから作ったけれど・・・パーティのための大きさじゃないな・・・。あと二つくらい作って料理はそっちに並べようか。

そうだ、料理も作るんだったなあ。頼んじゃえば簡単なんだけど、今は観光客も増えたし、ブルームーンのオーナーであるオーウェンも忙しいだろう。いや、頼めば喜んで作ってくれそうだけど・・・自分でも作れるから、パーティの前にさっと作ろう。

作ったテーブルを部屋に並べて、部屋の飾り付けをして外に出たら、庭先にパブロが立っていた。こっちに来るのはとても珍しい。もしかして小言だろうかと思ったら、今日アルビオはまた配達をするらしい。忙しいのは今日までで、明日は雑貨屋にいるということだった。

「わざわざありがとう」

「ああ、それと。君、昨日徹夜しただろう?目の下にクマが出来ているよ。さすがにそのクマは、恋人にプレゼントするには良いものではないからね。これあげるからつかっておいたらいい」

パブロが私にくれたのは、クマを隠せるコンシーラーだった。

「町でアルビオに会ったとき、その顔だと心配されるだろう?準備で忙しいのは解るけれど、そういうところも気にしないとね」

「そうでした・・・ありがとうパブロ」

そのまま町に戻っていった。アルビオの行動をどうやって聞いたのか気になるけれど、そういう情報や噂を誰よりも早く入手する彼を、改めてすごいなと思った。

もらったコンシーラーを顔に塗って、いい香りにすこしこころが安らいだ。

よし、準備頑張るぞ・・・!

まずはギフトボックスを作らなければいけない。以前アルビオがムサに見せるために作ったものを・・・いや、あれは彼にとっていい思い出ではなかったからやめておこうか。収納箱を改造した方がいいだろう。小さめに作って、更に色を変えて、紫と青にしてみた。なんとなく、彼にはその色が似合う気がする。そのままだと動いてしまうから、ローズウィローを小さく切ってクッション代わりにする。その上に布をひいて、そこへギーグラーに譲ってもらった琥珀のペンダントを入れる。ついでに、死海で見つけた綺麗な石、サンストーンもいくつかいれておいた。

このメッセージカードを入れて、プレゼントは完成だ。

「うん、よさげ」

それと、昨日作った花束だ。樽の中で綺麗に咲いている。このまま置いておけば、当日まで咲いているだろう。

よし、パーティの準備はこれで・・・いや、料理の素材を忘れてた!

アルビオって、なにが好きだったかなあ・・・デートをした時、なんて言ってたかなあ・・・よくしゃべるから、重要なことを聞き逃すというか。たしか酸っぱいものを好むようになったとか言ってた気がする。辛くて酸っぱい魚の料理があったなあ。それとポテトのやつも。魚はかなりあるし、ポテトもある。調味料も在庫はあると。よし、これなら大丈夫だろう。

今日はもう寝よう。明日はアルビオにパーティのことを伝えなきゃ。

次の日。

家の外に出ると、アルビオが立っていた。まさかの本人登場に少し焦ったけれど、普段通り振る舞えていたと思う。

「やあ、ビルダー!ここのところ会えなくてごめんね、ずっと忙しくて」

「最近ずっと私と遊んでたから、仕事が溜まっていたんじゃないの?いつか誰かに、私と付き合ってるから駄目になるんだなんて言われないようにね?」

「あ・・・」

言われたことあるような反応だなあ・・・全くもう。朝早くからここに立って待っているということは、かなり寝不足のはずだ。一昨日と昨日が配達で忙しくしていたのなら、尚更つかれているだろう。断られるかもしれないと思いつつ、聞くことにした。

「アルビオ、明日って私の為に時間を作れそう?」

「え?君のために?君のためならいくらでも」

「本当?それじゃあ、私の家へ十九時に来てくれる?」

「ええ、君の家に!?わかった、必ず行くね」

「待ってるね。で、今日は何の用だったの?」

「話したくて来たんだけど・・・明日会えるなら今日は我慢しておこうかな。やることも少しあるし。じゃあ、明日ね!」

アルビオはそう言って町に戻っていった。私も今日は商業ギルドの依頼を片付けないといけない。二日間、準備のために休んでいたからだ。

「さて、頑張りますかね」

依頼をこなし、家に戻る頃にはもう夜だった。明日に備えて寝ないといけない。でも、なぜかそわそわしてなかなか寝付けなかった。

サプライズに喜んでくれるのか、それともあの仮面舞踏会のときの私のように、驚いて戸惑って、アルビオの告白に答えないまま逃げてしまうかもしれないと、不安にもなる。今では二人で笑える話になっているし、彼のサプライズには慣れたから、逃げることはなくなった。

自分がその立場になってから、あの時の彼の不安も解ったかもしれない。

「ううう、楽しみだけど不安だ・・・」

パーティ当日。いつも通り、マシンの調整や依頼をこなしてから、準備に取りかかる。アルビオの好物だと思う料理と、私の好きなものを準備して、飾り付けを終わらせたら、もう約束の時間だ。

いつもは庭先で立っているだけだけれど。誘った時はドアをノックしてくれる。

「はい、どうぞ」

「おじゃましま・・・」

口をポカンと開けて、私と部屋を交互に見るアルビオの顔が、とても面白くて思わず笑ってしまった。

「サプライズ大成功だね」

キョロキョロしながらも、エスコートする私の手を取って椅子に座ってくれた。

「え、なん、どして・・・」

あちこちを見ながら、言葉にならない声を出して戸惑いを隠せないみたい。やはり、サプライズするのは慣れてるけど、されるのは慣れていないんだな。

私は、椅子に座ったアルビオの向かいに用意した椅子へ座った。

「あのね、今日は、アルビオと私の誕生日の真ん中の日なんだ。旧世界の本に、愛する人へ贈り物をする日っていうのがあってね。その日がいつなのかは解らなかったから、二人の誕生日の真ん中でいいじゃんと思ったら、それがちょうど今日だったんだ。だから、少し前から準備してた。なにも言わなくてごめん」

「・・・・・・」

いつもはたくさん喋るアルビオが、私を見つめたまま微動だにしない。怒ってしまったかと不安になったけれど、そのまま話続けることにした。

「これが、その贈り物。花束と、この箱を受け取ってほしい」

「・・・・・・ビルダー」

「ん?」

「仮面舞踏会の時、君が逃げ出してしまった気持ちがよく解ったよ。あ、嫌な意味じゃなくて。嬉しさと恥ずかしさとなんだかよく解らない感情が入り雑じってる。うん、すごいね、これ。どうしよう」

おや?この反応・・・あ。どうしよう、もしかして?あっ、もしかしなくても、サプライズプロポーズと思ってる?

んんん、そうだとしたら違うんだ、ただのプレゼントなんだ。気がつかなかったことにしよう。そうしよう。

「アルビオの好きなものを入れたんだ。喜んでくれるといいんだけど」

「琥珀のペンダントじゃないか!これ、手に入れるの大変だっただろう?いいのかい、こんなすごいものを・・・この石は・・・サンストーンじゃないか、これ・・・よく見つけたね、こんなに」

「運良く見つかったんだ。アルビオ、私のことを太陽って例えるから、太陽の名を冠したこれも好きかなって」

アルビオが立ち上がって、私の手を取った。そのまま、ハグをしてくれた。

「たくさんサプライズしてきたけれど、君はいつもこんな風にドキドキしていたのかな」

「そうだね、今回はする側のワクワクとソワソワと、不安を味わったよ。いつもこんな感じなのかな?それに今回は料理もあるんだ。アルビオの好きなものだと思うんだけど」

私の後ろにあるテーブルにいくつか料理を並べておいた。それを見て、全部好物だと言ってくれたので、安心した。

「・・・・・・パーティの主催ってしたことないから、どうして良いかわからないんだよね・・・」

「ふふ、僕たちだけのパーティなんだから、好きにしたらいいのさ。君が作ってくれた料理、食べて良いかな?」

「私もお腹減ってたから、そう言ってくれるのはありがたい」

二人で料理を食べて、たくさん話して、もう一度ハグをして、キスもして。パーティはお開きになった。

次の日、儚い青春のお茶会の召集がかかった。そうだ、みんなにお礼を言わないといけないんだった。

三人に言われたのは「プロポーズじゃなかったの!?」だった。

あっ・・・三人の中ではそうなってたのか・・・

「えっ、もしかしてアルビオもそう思ってたのかな・・・」

私がそう言ったら、三人は深く頷いたのだった。

おわり

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