獲物4
最近、ローガンは基地に行く前にワークショップへ寄ってくれるようになった。正確には、私のアレを見てからだ。どうしたら良いかなんて、軽々しく相談したのがいけなかったんだ。
ポストに八つ当たりしたのを見られてしまった。文通相手が、プロポーズの催促の手紙を寄越した。私の気持ちも知らないで、いや、こんな感情を持っていることすら知らないまま、ハイウィンドで私ではない誰かと幸せになって欲しい。
「足、大丈夫か?」
ランボからわざわざ降りて、私の足をみてくれようとする。
「え、ああ大丈夫。いつもサボテン蹴ってるくらいだからねえ。棘、刺さったことある?あれ痛いよね」
「そうだなあ、靴底一面に刺さったことあったな・・・あれには参った」
「うわあ・・・」
「そういえば、ビルダー。お前さん、ザ・ベンドに行くんだって?」
ああ・・・広場でミアンと内緒話をしていたときに聞いたのだろうか。あの時はどうしたらいいかわからなくてそわそわしてしまったのだった。あまり思い出したくないのに思い出させてくれてありがとう。
「マウンテンローズが自生してるから、足りない分だけ取ってくる予定。ローズは、ランボと一緒ってことは、遠出かな?」
「素材集めを頼まれてな。まあ、そこまで危険じゃないはずだが・・・一応な」
「気をつけてね」
「お前もな」
基地へと向かう二人に手を振って、咄嗟に隠した手紙を持って途方に暮れる。もうどうにもならないところまできている。この思いを秘めておくのはもう無理だろう。いっそのこと、あなたが私を拐ってくれたらいいのになんて考えてしまう。
・・・・・・やっとの思いで町に戻れたあの人を、またしても悪い人にするのかと、その考えを打ち消した。
やることが山積みだったんだ。さて、私もザ・ベンドに向かうとしよう。
ヤクメルバスに乗って、ザ・ベンドの入り口に降り立った。すぐ近くにマウンテンローズも自生しているから、さっさと収集してしまおう。
おお、同じところにめのうも転がっている。これは武器を鍛えるときに使うものだからきっちり回収しておこう。
所々に繊維のくずも落ちている。これをリサイクルして、使えるところを取り出すのがこのサンドロックでのやり方だ。ビルダーに必須のツルハシでくずを砕くと、ごろごろと端材と繊維が出てくる。
「よし、結構いいのが出たな」
出てきたものをポーチに仕舞うと、特徴的な音が聞こえてきた。ボヨンボヨンとバネが弾むような音だ。これが聞こえたということは・・・短剣を構えて後ろを向くと、やはり間近にデザートホッパーが迫っていた。それに、デザートホッパーの親玉であるデザートヴァイパーまで出てきている。しかし、親玉の方は、まだこちらに気が付いていない。まずはデザートホッパーを叩けば大丈夫だろう。
ボヨンボヨンと弾みながらゆっくりこちらに近付く蛇へ、すばやく回避行動で近付き一撃を喰らわせる。これが決まれば大体の敵には二撃も、更にはそれ以上も決まる。私の使う短剣術は連続攻撃が特徴の戦い方だ。一撃一撃のダメージは少ないけれど、手数で勝負の戦闘術だ。うまく動けば複数の敵も攻撃できるが、敵には囲まれる形になるため危険と隣り合わせだが、今回はうまくいった。
「よし、ヴァイパーはこっちに気づいてないな、このまま離れようかな」
別のデザートホッパーがいないか左右を確認して、そこを離れた。ポルティアへ向かうトンネルの近くならホイッスルのお陰で敵も寄ってこないから、ポーチの中身を確認しながら休もう。
*****
ランボに乗りながら、さっきのことを思い出していた。
ビルダーがポストを蹴っていた時、ちらりと見えたピンク色の封筒。こちらと同じ使い方なら、あの封筒はプロポーズが終わった後、プレゼントを贈る時に使うものだ。ビルダーは答えていないと言っていたから、あれは返事の催促の手紙ではないだろうか。
それに、広場でのあの出来事だ。オレがミアンの腕に触った瞬間にハッと息を飲んだのがはっきり解った。触れたまま居たら、そわそわ落ち着きがなくなって、ずっとオレが触れている所をみていた。あれは嫉妬だ。
「ん?」
ランボが止まった。考え事をしていたから気が付かなかったが、基地に着いたのだった。
「少し休むか?今日はここから少し先の砂漠中央あたりまでいくんだが」
ランボは首を振ってそのまま砂漠の中央に進み始めた。
砂漠に生息しているサソリ型のモンスター、トリピオンとその上位種のパニッシュド・トリピオンの落とす素材である、ヘリコニアネイルが大量に必要だと依頼されたのだが・・・トリピオンはそこら辺に生息しているが、パニッシュド・トリピオンは砂漠の奥に行かないといない。そこまで大変な仕事ではないが、そいつらの生息地は厄介なモンスターがいるのだ。ランボなら、そいつの気配に気が付くのが早いから一緒に来てもらったわけだ。
「おお、いるいる」
ユフォーラ砂漠の奥の方、旧世界ではこの辺りは海だったという。その時代に生きていた巨大な生き物の骨が転がる場所に、パニッシュド・トリピオンが数匹まとまって生息している。
そいつらから見つかりにくい高台にランボを待たせ、オレは砂の山を降りていく。
あいつらは近付くと尾の針を刺そうとするし、遠距離から銃を放てば体内で作り出した電気を放ってくる厄介なモンスターだが、今回は多少楽が出来そうだ。
まずはあいつらに気付かれないようにこれを・・・ハルからもらった重力爆弾を仕掛けていく。ハルが言うには、というか宇宙船で何度かビルダーとジャスティスが引っ掛かってたのを見ているから、どうなるかは解っている。この爆弾を踏んだ者を、着弾ゾーンの中心に引き寄せる爆弾だ。そのゾーン近くにいる奴も、敵味方関係なく引き寄せるから、便利な反面、厄介な物でもある。引き寄せに重きを置いているから、他の爆弾より火薬が少ないとハルは言っていたが、今回のように何体も引き寄せたいだけなら一番役立つだろう。
爆弾を仕掛けたところから一番遠い奴に銃を向け、発砲した。そうすれば興奮したそいつがこちらに近寄ってくる。それと同時に殺気を放ち、周囲のパニッシュド・トリピオンにもオレの存在を気付かせ、電撃を放たれない距離感を保ったまま、爆弾へ誘導する。
「よし!」
一番近くにいた奴が爆弾に引っ掛かった。そのまま数体一緒に引っ掛かっている。引き寄せだけでなく爆発に巻き込まれないようそこから離れる。後ろで爆発音が聞こえた。
ハルの言った通り、やはりまだ生きている。多少体力は削られているようだから、その場で銃でとどめを刺した。他にモンスターがいないか確認して、死骸に近付く。爆発で多少殻に傷が付いているものの、これくらいなら許容範囲だろう。一番重要な尾は無事だ。持ってきた短剣を使って殻を剥がし、尾を切り落とす。尾の毒は、慎重に試験管に詰めて蓋をきっちり閉めた。素材を入れる袋は以前ビルダーに作ってもらったものだ。防水加工してあって、更にはちょっとやそっとじゃ破れないらしい。ビルダー曰く、特別に作ったらしい。
「特別か。特別って、オレにとっては浮き足立つ贈り物だったな」
そう呟いたのと同時に、ランボが鳴いた。警戒しろの合図だ!
立ち上がって周囲を確認するが、モンスターの姿は見えない。しかしランボはまだ警戒の鳴き声をあげている・・・
「ッ!上か!?」
空を見上げると、真上に太陽が来ていた。クソッ、眩しくて見えない!
「グェーッ!!」
この声は飛びこみドリか!?
こんなところにまで来ていたとは・・・上空に飛び上がっているということは、こちらに急降下してくるはずだ!
どこで拾ったか知らないが、飛びこみドリはビルダー達が遺跡で使うジェットパックを使っている。でっかい図体だからか全く飛べないらしい。その割に翼でこっちを攻撃するわ風を起こすわで避けるのが大変な厄介なモンスターだ。
上空を見上げながら、着地点を見極めようとしているが、太陽が眩しすぎて長く見ていられない。
片目を瞑って、落下してくる音を頼りに、重力爆弾を仕掛ける。あのでかい奴に引き寄せが効くとは思えないが、無いよりマシだ。爆発でジェットパックが壊れれば急降下しなくなるから楽なんだが・・・
音が近い!爆弾から離れたと同時に、仕掛けた中心に飛びこみドリが落下してきた。
「グェーッ!?」
見たこと無い装置だから戸惑っているのか、ジェットパックを使うのも忘れてどうにかして逃れようと爆弾に嘴を振り下ろしている。その間に銃で攻撃しておけばいくらか・・・
でかい音をたてて爆発したが、やはりまだ立っている。こちらへジェットパックを使って・・・壊れなかったか、クソッ・・・飛びこみドリがオレのすぐ前に降り立った。
「グェーッ!」
一鳴きして、嘴を振り下ろすのはわかっている。その隙に背負っているジェットパックに短剣で連続攻撃を叩き込む。すぐにこちらへ向き直って、翼の攻撃をしてくるが、なんとか避けた。遠ざかったついでに銃で追撃、目を狙うがそれを向こうも解っているのか、翼でガードしている!
「知恵ついてるな、お前!」
銃をしまって短剣に持ち変える。投げても戻るように改良した短剣を投げ、そこから離れたが、奴の動きが速い。ジェットパックを使ってこちらに突っ込んできた!
「っ・・・!」
なんとか避けたが、体制を崩してしまった。ブースター音を頼りにもう一度避けようとしたが、避けきれない!
「ぐあっ!」
直撃は避けた、しかしこれでは・・・考えている暇はない、ジェットパックのチャージをしている間に、指笛を吹いてランボを呼ぶ。なんとか乗ってそこを全速力で離れた。しばらくは追ってきたものの、諦めたのか砂漠のどこかへ消えていった。
やっとの事で前哨基地までランボに乗せてきてもらったものの、中に入って休むのが精一杯だ。基地には多少の薬はあるが、これでは足りない。
「さて、どうするか・・・」
開けたままの扉から、ランボがこちらをじっと見ている。じわりと服に血の染みが広がり始めている。
「・・・ランボ、行け」
その一言で、ランボは駆けていった。