○獲物3

文通相手が帰ってから一週間、プロポーズの返事を催促する手紙が入っていた。そろそろかなと思っていたけれど、いざ来ると返事に困る。

ポストに八つ当たりしても仕方ないのだけど、アイツだとおもって軽く蹴ってやった。

「いたい」

「そりゃそうだろ・・・」

「うお!?」

突然聞こえた声に驚いて後ろを振り返ったら、ゴーグルをつけた暗色のヤギの顔がすぐそこにあった。

「ランボ、おはよう」

頭を撫でてあげたら嬉しそうにしている。かわいいね。

「オレには挨拶してくれないのか?」

「敢えてしないのも有りかと思って・・・」

ランボ一人で来ることはないので、いるのはわかっていたけれど、自覚をしてから顔を見るのがちょっと難しくなっている。これじゃすぐにバレるだろう。

「ははっ、ビルダーがそんなにいじわるな奴とは思わなかった、また知らない一面を見たな」

素直に、好きだからと言ってしまえば楽なのに、言えないのはここにずっといたいから。口に出して、受け入れられなかったら、私は立ち直れない。そうなったら、ハイウィンドでも、サンドロックでもないまちへ行こう。ハイウィンドには、帰れない。あの人と一緒にはなりたくない。

でも、できたらあなたとこの町で暮らしたい。叶うはずもない願いを抱えるには、この恋は大きくなりすぎた。

*****

ビルダーの元に文通相手が来てからは、心配を口実にして声をかけていたが、その度に一瞬、眉間に皺を寄せて目を細めるような仕草をするようになった。その後は普通に会話をしているのだが、気になったから恋愛に詳しい奴に聞いてみるかとブルームーンへ足を運んだ。

「・・・・・・なるほど」

正直に言うのは悔しいから、ハンティングで助けた奴と交流するようになってからそんな反応をしていると言っておいた。

「ローガン、僕が言えるのは、その人のことをよく観察したらいいってことだけだよ」

「は?観察?」

まだ解っていないことに気がついたのか、オーウェンはため息をついて頭を抱えた。

「その後の会話は普通なら、怒っている訳じゃないことは解るだろう?その会話の最中に、相手の事をよく観察するんだ。そうしたら、自ずと解るよ」

そう言って、オーウェンは近くにサンドティーを置いてどこかに行ってしまった。ビルダーがオレとの会話でどんな反応をしていたか・・・?どれだけ思い出しても、よく笑うとか、楽しそうだとか、よくこんなにコロコロと表情が変わるなと思ったが・・・答えが出そうで出ないのは気持ちのいいものではないな。座って考えているより、外に出てビルダーの反応を見ようと置かれていたサンドティーを飲み干して代金を多めに置いて、店を出た。

ブルームーンを出て、いつもだれかのために町中を駆け回っているビルダーはどこにいるだろうかと思案していたら、広場の方から賑やかな声が聞こえてきた。たぶんそっちにいるだろうとマートル広場へ向かった。

広場では、ビルダーとミアンがベンチに座って話していた。役場の前のベンチだ。二人で夢中になっているし、階段から離れているとはいえ、あまり近付くと気が付かれてしまうだろうと、横の階段をそっと登っていく。階段を登っても二人の声は聞こえている。セラミックゲートの近くにある木の近くなら怪しまれることなく聞き続けられる。タイミングをはかって出ていけばいいだろう。

「今日の依頼、全部こなせるかしら?」

「まだ余裕のあるやつは後回しにして、とりあえずこれと、こっちの組み立ては私がやるから、ミアンはこっち三つできそう?」

商業ギルドの依頼の話をしているようだ。しかしよく働くものだ・・・

「うーん、そうね、大丈夫。でもビルダー、あなたは組み立てばかりだけど大丈夫なの?」

「大丈夫、部品のストックはたくさん作ってあるし、あとは品質の問題かな。何回か試したら出来るだろうから」

「もし部品が足りなくなったら言ってね、こういうのは協力が大事ってウェイも言ってたでしょう?」

「ミアンは優しいね。そうするよ、ありがとう」

「あら、今さら気が付いたの?それとも頼りないから今まで相談しなかったの?」

「えー!ミアンいじわるだなあ!」

「ふふふ!」

友達と仲良く話しているのと、オレへの反応と、どこが違うのか。それを確かめに階段を降りていく。階段側を向いて座っているミアンがオレに気が付いたが、口に指をあてて牽制した。彼女は聡い。すぐに理解してビルダーと再び話し始めた。

ビルダーはすぐ側を通るオレに気づかずミアンと楽しそうにしゃべっている。このままなら、ほぼ向かいにあるベンチに座っても気が付かないだろう。そういえばこのベンチはそこの二人がわざわざ設置したものらしい。いつのまにかこの町には、ビルダーたちが造ったものが溢れている。

ミアンはオレがベンチに座ったことに気が付いて、訝しげにしている。それでもビルダーになにも言わないのは、さっきの牽制が効いているのだろう。

「そういえば、時間に余裕がある依頼にマウンテンローズがあったけど、ミアンに余裕ある?」

「うーん、植えてあるけど・・・この期限までにはならないかもしれない」

「時間かかるからねえ、よし、組み立ての息抜きにベンドに散歩行って、足りない分取ってくることにするわ」

「それ散歩って言うの・・・?」

「私には散歩ですー」

二人できゃっきゃと騒いで、本当に楽しそうだ。会話も途切れることなくずっとしゃべっている。オレは話すのが得意じゃないのは自覚している。たまに会話が途切れて、内心焦っていたりもする。それにしても、ふざけあって喋るビルダーは、本当にいい顔をしている・・・

「・・・ビルダー、ごめんちょっと待っててくれる?」

唐突にミアンが立ち上がり、こちらに向かってきた。あ?向かってきた?

「・・・何を考えているかはしらないけれど、ビルダーを悲しませたら貴方を赦さないから」

耳打ちをして怖いことを言う。やはり敵に回す人物ではないというのが改めて解った。

「それとね、今のビルダーの表情、どうなってるか見えない?多分それがあなたの欲しい答えだと思うわ」

「なっ」

ミアンの言葉に立ち上がりそうになったのを、彼女がオレの肩を押して制した。

「私の肩越しに見てみたら解ると思う」

言われた通りにみてみると、ビルダーの視線はこちらを向いているものの、口に手を当てたり、手を組んだり、かと思えばキョロキョロあちこちを見たりと忙しない。

「ちょっと悪い」

断ってからミアンの腕に触れる。と同時にビルダーの反応を見た。これはもう、掛ったのではないだろうか。

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen