ジャスミンに言われ、民兵団の詰所にある牢屋へと足を運ぶと、一緒に逮捕されたミゲルとヤンがジャスティスとアンスールに尋問されていた。
ミゲルの方は、燃え尽きたように罪を認めているけれど、ヤンはジャスティスの問いかけに全てを否認している。何をしたかなんて、みんなに知られているのに、まだ抵抗するなんて。
「あなたを友達だと思っていたのに!」
「そうよ!言ってやりなさい!」
階段の上からバージェスとダンビの声が聞こえる。彼らが声を掛けるのは、多分あの人だろう。
「あなたは、もう友達じゃありません!絶交です!」
「あーそうかい、オレはな、すべてを賭けてすべて失ったんだ。だからな、「友達」ってもんを何人か失っただけで、たったそれだけで落ち込んでないように見えても許してくれ」
「どんな人も光の力には及ばない。あなたのように、心の底に深い闇を持っていたとしても・・・」
「そんなクソみたいな話、オレが信じると思うか?」
「あなたが光を信じなくても、光はあなたを信じているんです!」
「オエッ、拷問されるなんてきいてないぜ?」
ペンが吐く真似をして、不快なものを見るような目付きでバージェスをみた。
「・・・・・・さよなら、ペン・・・」
そう言って、バージェスはダンビに背中を撫でられながら階段を降りていった。
バージェス、君はやりたくないことをやらされて、ペンに苛められていたように見えたけれど、それでも君はペンを失うことを悲しむのかい?どこまで君は善なのだろう。あんな風に泣くのを堪えて、それでも勇気を振り絞って言った「絶交」の言葉に、ひとつも表情を変えず聞いていられるアンタはもう、なにを言っても無駄なんだろう。
バージェスとダンビが詰所のドアを閉める音がしたと同時に、私はペンの方を振り返った。
「・・・やあ、ペン」
「・・・ああ」
「・・・君と過ごした日は、私にとってかけがえのないものだったよ。でも、あなたは愛してくれてなかったんだね。ただの暇潰しだった。恋愛の「れ」の字も知らない私を見て楽しかった?」
「あー、オレのことを一つ教えてやろう、細腕っ子。オレは間違いを犯さない、何があろうともな。町のみんなにあだ名をつけて回ってる訳じゃない、それについては、あんたが「特別」だったのさ。だがな、オレは愛よりも故郷を選んだ。デュボスの騎士の責務はそれほど大きいんだよ」
「じゃあ・・・」
「・・・そう言って欲しかったんだろう・・・?」
ああ、君は、私の小さな希望を打ち砕いた。
「・・・細腕っ子、あんたが今日ここに来て、オレを責めている。なかなかズシッと来たな、まあ、オレの心はとっくに死んでいるからな、生きているときにそう言われたら、それに感動していただろうな・・・・・・弟子が師匠を越えた・・・」
「・・・・・・」
きみの心が生きていた頃っていつなんだろう。初めて会った広場では生きていたの?私が告白したときはもう死んでいたの?それともこの町に来たときから既に死んでいたの?
まだどうにかして話をしたい、でももう終わったんだ。君との関係もこれで終わり。きみの言葉が、私にとっての枯れた枝。
「じゃあね、ペン」
「さらば、ビルダー。楽しかった・・・」
いつもと違う挨拶に、またしても突きつけられる現実。なんとか正気を保って、詰所を出たが、そのままメインストリートを歩く気にもなれず、ヤモリ駅に向かって走り出した。
向こうに乗り物に乗らず行く人なんて、私ともう一人のビルダーくらいしかいない。だから、我慢することなんてないんだ。
「うあああああああああああ!」
大きな声と一緒に出てくる涙。ああ、ちゃんと泣けるんだと、流れる涙も拭うこともせずそのまま体力の続く限り走った。
へとへとになって座り込んだのは、難破船の危険な遺跡の近くにあるヤクメルステーションだった。側に立っていたり座っていたら、バスの人が来てしまう。泣きながら走って、もう体力がない。なんとか移動して難破船の向かい側の岩影にへたり込んだ。
ジャスミンの「ペンはわたしのお母さんを狙った」と言われて、あの人は犯罪者なのだと理解していたつもりでいた。牢屋で涙を堪えて、ペンに「絶交だ」と告げた勇気あるバージェス。
それを聞いて、そして見て、決別しなければと決意したはずだったのに、手錠をかけられたデュボスの制服を着たペンを見た瞬間に、その決意は砂のように脆く崩れさった。
こんな風に悲しむことは、なんて苦しいことなんだろう。心がないと言ったあの人は、こんなに苦しむことはないのだろうか。
「心を殺す術も教えて欲しかったな、師匠って言うんだったらさ・・・」
そう呟いた声も、砂漠の夜の風に消えていった。
続く