冬も近づいたある日の帰り道。
ふと気がつくと、西の空は美しい夕焼けに包まれていた。
地平はオレンジ色に輝き、雲は柔らかな薔薇色で空を彩っている。
東の方角に目をやると、ラベンダー色に染まった空には、白金の月。
けれど、それらの光景にはまるで気づいていないかのように、少し前を行く君は俯きがちに歩いている。
夕日を浴びて鮮やかな栗色に染まった長い髪は、歩みにあわせて緩やかに波打つ。
……すべてがうつくしい、と思った。
刻々と色を変え、表情を変えていく空も、雲も、遥か高みにあって凛と光を放つ月も、それらの下で、口を閉ざし、顔を俯け、ただ静かに歩き続ける君も。
このまま、時が止まってしまえばいいのに。
僕らの歩く道が永遠に続いていれば良いのに。
そうすれば、僕はこうして、美しい景色の中でずっと君を見ていられる。
……たとえ、君の心の中に僕がいなかったとしても。
(2010/11/18)