
王道RPGにはほとんど手を出してこなかったのだが、昨年はゼルダの伝説シリーズの最新作、ティアーズオブザキングダムでしばらく遊んでいた。といっても、私がやっていたのは地上に降り立ってすぐに見つけた気に入りの馬をかわいがることばかりだった。
ある日、崖の多い地域で少しだけ待っていてもらうつもりで馬を置き去りにした。なんとかいうクエストを終わらせて馬を待たせていた辺りに戻ると、その姿はなかった。これまでも草原で待機させると少し動き回ることがあったので、きっと今度もそうだろうと思いしばらくうろうろと周囲を探し回った。しかし一向に見つからない。ゲーム内時間で夜を迎え、やがて朝になった。
捜索を打ち切り、呼び戻す方法を求めて「ティアキン 馬 いない」で検索して初めて、このゲームでは馬が死ぬことがあると知った。あのまだらのかわいい青い馬は、おそらく私の不注意で死んだのだ。
Switchの前でしょぼくれている私にパートナーがどうしたのと声をかけてくれた。馬が死んだかもしれないと言うと、生き返らせることはできないのかと尋ねる。
なるほど、ゲームなのだからそういうこともできるかもしれない。気を取り直して攻略情報を調べてみると馬の神がいるらしいことがわかった。しかも、その神は最初にいくらか金を積む程度で馬を蘇らせてくれるらしい。
現在地から神がいる地域までかなりの距離があった。メインストーリーをろくに進めもせず草原を駆け回っていたのだから当然だ。しかし、ここから私の冒険がようやく定まった。マップ右上の端にいる馬の神のもとへ行き、まだらのかわいい青い馬を生き返らせてくれるようお願いすること。
旅の目的ができたので、これまでほっぽり出していたクエストも目的地までのショートカットになりそうなものはどんどんチャレンジした。
やがて馬の神マーロンのもとへ辿りついた私は1000ルピーを消費し、馬の蘇生を願った。
マーロンは神らしくご丁寧に死因まで教えてくれる。今回は不慮の事故とのことで、やはりあの崖に放置したのがよくなかったのだろう。落ちたか、ゴブリンに襲われたか。いずれにしても可哀想なことをしてしまった。
いななきとともにかえってきたまだらのかわいい青い馬は、死なせたことを恨む様子もなく変わらず私(リンク)を乗せて駆け回ってくれた。
ゼルダの行方は依然としてわからず、各地の異変もいくつかは未解決だ。でも馬がかえってきた。私を最初に乗せてくれたあの馬が。私はまたクエストを進めるのをやめてしまった。勇者のような、世界を救う稼業には全く不向きのようだった。
思えばモンハンでもモンスターをハントするより犬や猫を着飾らせたり能力を上げたりするほうが楽しかった。今後は姫を救ったり魔王を倒したり厄災を退けたりするゲームは買わないほうがいいのかもしれない、どうせまたかわいい動物に誑かされて世界そっちのけになるに決まっている。救われることのない世界を増やすくらいなら、はじめから手を出すべきではない。
だとしても、勇者と呼ばれる人へのあこがれのようなものはこの先もぼんやりと持ち続けるのだと思う。その責務を全うできる素養がないからこそ。
ぽっきりと折れた剣をまだ握るこんなに遠いハッピーエンド
(置き場0号掲載 『勇者の剣』より)