宙ぶらりん

神丘 風│短歌
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公開:2024/4/5

現職の法人では入職当初から2つの事業所を兼任してきた。覚える名前も2倍なら業務も2倍。経験者だから甘んじて受け入れたものの、正直けっこう大変だった。

事業所①では「毎日いるわけじゃないから」という理由で専任スタッフ同士の雑談や打ち合わせからさりげなく締め出されることがよくある。悪意がありそうなのは専任のうちのひとりだけだが、残るふたりに悪意がないとしたら配慮もないな、と思う。手厚く指導されなくてもそれなりにやれるし必要な打ち合わせには無理やり乗り込むので困ることはない。でも、まあ、嫌な感じは受ける。同じ温度感で仲良くする努力をするのもそれはそれで億劫なので、専任同士が団子になってキャアキャアやっているときは気配を消して事務作業を進めるか、パートタイムのスタッフとその日の振り返りをして過ごしていた。

事業所②ではなぜか重用され、来てくれてよかった、本当はフルでいてほしいなどとちやほやされた。私にはチョロいところがあるし②の開かれたコミュニケーションも気に入っていたので、ならこっち中心にしたいなあ、と冗談交じりに返していた。そのうちに②の専任スタッフのひとりが異動願を出して私が後釜に望まれ、私も望み、そこからはわりととんとん拍子で②の専任になる話が決まった。

はずだったのだが、まあいろいろあって二転三転、進退は宙ぶらりん。いつからどこでどうすればいいのかわからないまま2月が終わり、年度も納めた。

見通しが立たないことについては表向き軽く怒ってみせたりもした。ただそれは単に事を迅速に運ぶためのパフォーマンスで、実際のところ「おいおい頼むよ〜」以上の感情はない。なんせこちとら宙ぶらりんには慣れているのだ、「男・女」の欄に"うっかり"丸をし忘れること何百回でここまで生きてきたわけだから。自分の存在そのものを保留され続けるわが人生において、この春異動するかしないかなど些末なことだった。

とはいえ、決まってくれないことには利用者さんへの関わり方も決めかねる。とくに心配な人が事業所①にひとりいて、私が去ったら団子のうちの誰がこの人の話をまともに聞いてやれるだろうかと思う。その人は親への怒りや悲しみを内面化したまま大人になり、今やっと幼児期からの育ちをやり直しているところだ。具体的には支援員相手に甘えたり、反抗したり、よくない行動を取ったあと適切に謝り、きちんと許され、受容される、といったことを。特に大切な局面に来ていると私は感じている。あの3人もそう思ってくれているだろうか。私は宙ぶらりんなんか怖くないけれど、あの人が宙ぶらりんにされるのは絶対に今じゃないな、と思う。私じゃない誰かがあの人を放り出さず、手をつないでくれることを祈るばかりだ。

今日正式な辞令が出た。異動まであと1週間。悔いのないように、別れる利用者さんたちが宙ぶらりんにならないように、できる限りのことをしたい。

@kamiokafu
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