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上司がおみやげをくれた。そうだ、昨年の新婚旅行で季節はずれの台風に阻まれて行けなかった離島に今度こそ行くんだと云っていたっけ。
3月の日記のどこかに書いたけれど、毎年バレンタインデーの時期にロイズの生チョコを取り寄せるのがわが家のお決まりになっている。上司の行く先にそのロイズの飛地のようなものがあると知っていたので、それをリクエストしてあった。
ロイズ石垣島。北海道のメーカーであるロイズのスタッフが石垣島を訪れた際、その豊かな食文化と自然に感銘を受けたことから誕生したそうな。行ったことがないからかその感銘にあまりピンとこない。秋田育ちのおれには、関西より先なんてとてつもなく遠い国のように思われる。でも、そのくらい遠い土地の、北海道とは似ても似つかない文化を目の当たりにして「これは」と思ったんだろうな。それはなんとなく想像がつく。
黒糖の風味が、なめらかなチョコレートにしっかりと練り込まれていた。悪くない。でもシンプルなミルクのほうがすきかな。チョコレートってじつはあんまり包容力がないのに、いろいろなものを任されて気の毒だな、と勝手に思っている。※個人の感想です
パッケージがよかった。琉球染物「紅型」風のタッチでシーサーや花笠、さとうきびなどが描かれている。倭人が失わせてしまった国の文化が現在まで残っていて、(おそらく)心ある人たちの手によってこうした品に使われていることは前向きに捉えたい。

俵万智『オレがマリオ』の舞台としても気になっている石垣島、いつか行ってみたいなあ。
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くもり。施設外就労の現場へ引率。今回の作業内容はお寺の境内と墓地の清掃だった。ちょうど見頃を迎えた枝垂れ桜を横目にせっせと片付けながら、「もうみんなでぱーっとお花見に行っちゃおうか」とぼやいてみせると、「いいねえ、お弁当はどうします?」と手を止めずに冗談にはのってきてくれる人、「だめだよ神丘さん、そんなこと言っちゃ」と窘めてくれる人、発話は苦手だけれどくすくす笑いで参加してくれる人、反応はさまざま。だめかあ、と笑っておれも作業に戻った。
とはいえ、お花見をさせてあげたいのは事実だった。おれだったら仕事終わりにふらっと夜桜見物でもなんでもすきなようにできるけれど、利用者さんのほとんどがそうではない。グループホームの門限がある人、電車の乗り方を知らない人、行ったはいいが帰り道がわからなくなる人。これもさまざまだ。
こうして枯れた供花を束ねるばかりじゃなくて、ただただ桜に見とれるような時間がだれにだって必要だと思う。どうにかしてねじ込めないかな。ごみ袋をぎゅうぎゅうつぶしながら奏上の言葉を考え始めた。
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くもり。さっそくお花見について上司に訊いてみた。同じことを考えていたらしく、週末のレクリエーションのあとに晴れていたら連れて行こうかという話になった。
この日はマンション清掃の現場への引率だった。利用者さんが手慣れていて放っておいてもどんどん進むので、おれは巡回くらいしかすることがない。
ここはそこそこ高い建物で、最上階まで行くとちょっと見晴らしがいい。あれは桜の木だったんだねえ、冬にはちっともわからなかったね、なんておしゃべりをしながら掃き掃除のサポートをしていたら、血相を変えた別の利用者さんが階段を急いで上がってきた。駆け上がるとご迷惑になると言ったのを覚えていてくれたのか、抜き足差し足で。
「あ、あ、あの、あれが」漫画だったら大汗が飛び散っているに違いない形相で訴えてくる。「あれが! 黒い彗星が!」シャアみたいに呼ぶな。
生きてるやつ? と訊ねると「いや、こと切れてる」とのこと。じゃあゴム手袋もしていることだし拾ってごみ袋にひょいと……と促すと首を横にぶんぶん振られた。箒でちりとりに、と隣の利用者さんに話しかけようとしたら目を逸らされた。仕方ない。おれに虫耐性があってよかったね。
現場に降りてみるとたしかにちょっと怯むようなサイズのご遺体がご丁寧に仰向けで転がっていた。ああ、これは怖かったろうね。使い捨てのゴム手袋で拾ってそのまま手袋を裏返しに外し、ぎゅっと縛ったうえでごみ袋に捨てる。そうしてくれと懇願されたからだ。
帰所後、「絹さやくらいのGがいたって?」と先輩に声をかけられた。今日の職場のお弁当に添えられているのを見て「ちょうどこのくらい」と言ったらしい。食べ物に喩えるのはやめてくれ。
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晴れ。ビニールボールバレーをしに朝から事業所総出で地域の体育館へ。おれは身体障害などであまり機敏に動くのは難しい人たちの班で風船バレーを主導した。輪になって座り、みんなでトスを上げ続けるルールだ。床に落ちるまでのトスの回数は200回を超えた。
もちろんネットを張って打ち合うチームもいて、風船バレーチームは途中からその応援にも加わった。昨年開催時よりもルールがわかってきた人が目立った。1年に1度でも継続って大事なんだな。
お昼のあとはみんなで桜並木を散歩した。お花見と呼ぶにはささやかだけれど、日頃いっしょにがんばっている仲間たちと、たまの運動のあとに桜を眺めるというのは思いのほか楽しいことだったようで、にこにこ顔でいっぱいだった。桜の開花時期が読めない以上、事前に計画するのはむずかしいけれど、来年以降もこうしてどこかに組み込めるといいな。
夜は夜でこのあたりではよく知られた名所へパートナーとふたりで出かけた。土日は雨予報だったので、それならとちょっと急いだ。満開ではなかったものの、かえって賑わいすぎていなくてよかった。

帰り道にあるラーメン屋さんに寄った。少し肌寒かったので、あつあつのスープがとてもありがたかった。
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くもり。あれれ?
いつものガソリンスタンドで洗車全メニュー半額の幟を発見してとっさに寄る。半額ならいちばん高いメニューにしちゃおう、と普段の洗車と同額くらいになっている高級コースをぽちり。ボタンを押した瞬間はよくわかっていなかったんだけど、高級ということはやることが多いということで、やることが多いということは時間がかかるということなんだねえ。最初こそアトラクションのようでおもしろがっていたけれど、当然ほぼ同じ動きの繰り返しなので飽きてきた。本でも持ってくればよかったな、と思い始めた頃にようやく終了。
買い占めはよくないけど、よく使うものは少し多めに補充しておこうかな……と思い、ホームセンターへ。ごみ袋やチャック付きの保存袋などをうんうん悩みながら買う。便乗値上げか原料不足を見込んでかは知らないけど値上げしていた。戦争反対。トンチキ大統領にちょこざい総理大臣め。
ついでに今使っているごみ箱の位置や使い勝手がまだしっくりこないので、工夫してみようと売り場を眺めながらあれこれ考える。冷凍庫の容量が不足しがちなのでセカンド冷凍庫についても検討する。うーん、むずかしい。いったん家を空っぽにしたくなってきた。そういうわけにもいかないし、制約がある中で何かひらめいたらそっちのほうがうれしいから頭をひねる。あとから合流したパートナーに相談したら、ごみ箱に関してはたちまち案が出てきて決まった。やっぱり人と話すに限る。
せっかく晴れていることだし、とまた夜桜見物に繰り出した。穴場の駐車場に停めて少し歩く。地域猫がいたので挨拶すると嫌がられた。ごめんて。桜は前日よりも開花が進み、シートを広げて酒盛りをしている人も多かった。
40分くらいで満足して離脱し、ジモティーでお約束したものを引き取りに行った。汚れてはいたけれど、実用にまったく問題ない品を無料でもらえた。新品で買ったら4,000円くらいかかるはずだったので本当に助かった。向こうも不用品を無料で回収してもらえてありがたかったそうで、なかなかいい使い方ができた! とうれしい気持ちで帰途についた。
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晴れ。あれれれれ?
雨降らないじゃん! というわけで、急遽サンドイッチを持って幸手の権現堂へ。桜は人並みにすきだと思っていたけれど、毎年春になるとこうして何度でもお花見に出かけるということは相当すきなんだろうな、と他人事のように振り返る。
権現堂に近づくにつれ混み方がすさまじくなってきてちょっと後悔しながら停められる場所を探す。途中でおれが降りて徒歩で探しに行ってみると、運よく1台分が空いた。いそいで連絡したらあまりの混み具合に電波もごちゃごちゃしていたらしくLINEの送受信がはちゃめちゃになっておもしろかった。

ランドセルを背負った子どもとその親がたくさんいた。そうか、入学式には散ってしまうもんねえ、親御さんたちよく今ここで撮ろうと思ったね、いい思い出になるね、ファインプレーだ、とふたりで感心した。
桜の下は満員だったので、サンドイッチは池の前で食べた。おそらくビオトープとして整備された場所で、花の盛りでないときはここに野鳥目当てのカメラマンが多く来る。

同じ場所に、片方が片方に夢中であることがだだ漏れの学生カップル(推定)がいた。わが家はカップルには見えていないんだろうな、と思ったけれど、最近はそれをどうとも感じなくなってきた。カップルに見えないカップルなんてマジョリティにもたくさんいるし、そもそも必ず2人1組である必要もない。
でもなぜか、きっとこの桜の下にひと組くらいはうちと同じような2人組がいる、と確信してもいた。そういう仲間にインターネットを1ミリも介さずに出会える春がいつか来るだろうか。おれたちはその春に間に合うだろうか。
間に合いたいなあ、と桜を背に笑うパートナーを撮りながら祈った。
