270kmを互いに

神丘 風│短歌
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公開:2024/6/3

先月、フォロイーの家へ遊びに行った。文鳥つながりでフォローし合ってもう4、5年経つ。相互フォローになったのがどのような経緯だったかは詳しく覚えていないものの、当時からなぜだか私にとてもよくしてくれて、ある年の誕生日にはお祝いにとわが家の動物たちを描いてくれた。いつかお会いしたいですねと言いながらコロナ禍へ突入し、(まだ流行しているが)明けてしばらく経った先月、ようやく邂逅を果たした。

駅まで迎えにきてくれたフォロイーは自宅へは向かわず、まず近くの海へ連れて行ってくれた。車を降りてすぐに「ここは砂浜がきれいなんですよ」と言われて足元を見ると、細かい砂が風にさらわれて浜の表面を滑っていくところだった。足を取られそうなサイズの流木もなく、ゴミもほとんど落ちていない。地元の人や訪れるサーファーなどが整備しているらしい。

砂浜

しばらく波打ち際を歩いた。目に入るものの名前を呼んだり景色を面白がったりするだけの会話に留まったけれど、それがまた楽しかった。木苺を見つけたり、打ち上げられたフグを観察したり、真水の細い流れを眺めたりしたあと、どちらともなく踵を返して車へ戻り、フォロイーの家へ向かった。

打ち上げられたフグ
どこからか流れてきた真水が砂浜に細い流れを作って海を目指している

 

フォロイー宅ではまず私がお土産に持ってきたベーグルをふたりで食べた。地元のベーグル専門店のものだ。自分が気に入っているものを相手も気に入るとは限らないからこういうときはいつも緊張するけれど、定番も変わり種も美味しいと言われて胸を撫で下ろした。出してくれたお皿とマグ、ポットがどれもシンプルながら凝っていてすてきだった。

羊が4頭描かれたグレーの皿に載ったベーグル、グリーンのマグとポット

しばらく他愛ない話をして過ごし、不意に会話が途切れたとき、フォロイーが「会いますか?」と訊ねてくれたので一も二もなく頷く。フォロイーに会いたかったのはもちろんだけれど、私はこの家に暮らす文鳥にも会いたくて来たのだった。

 

文鳥、と呼ぶと味気ない。けれどフォロイーをフォロイーと呼んでいるので文鳥も文鳥と呼ぶことで統一しておく。文鳥はいつもタイムライン越しに見せてくれるもちもちふわふわすべすべ真っ白の姿そのままで出迎えてくれた。向こうとしては出迎えたつもりはなく、何者かが飼い主に連れられて突如現れたくらいの感覚だっただろうけれども。

警戒なのか様子見なのか、はじめは文鳥が私を遠巻きに眺めていたので私もソファに腰掛けてあまり動かず、かれの名前を呼ぶに留めていた。そのうち「少なくとも怪しいものではない」と判断したのか、近くへ寄ってきたり手に乗ったりして私を観察し出した。

指に乗ってこちらをじっと見ている白文鳥

かれらがさえずりの前に鳴らす嘴の音を私が爪で真似てみせると、最初こそ驚いた様子だったものの、徐々につられてホッピングしたり歌ったりしてくれるようになり、しばし一羽とひとりとで“セッション”に興じた。文鳥のさえずりは長さもテンポも音の高低も種類も、一羽一羽まったく異なる。かれの歌は電子音のようなひずみが特徴的だ。初めて聴く人には鳥のさえずりとは思われないだろうその声が私は以前からとてもすきだった。生で聴かせてもらえて本当に嬉しい。

 

ふと時計を見るといつの間にか15時を回っていた。自宅からここまで実は片道3時間かかるので早めに発たなければならない。帰りもフォロイーの運転で駅まで送ってもらい、別れ際に「今度はぜひわが家へ」と誘えばそれはたちまち具体的な約束になった。特別な何かをしたわけではなかったけれど、相手もまた会いたいと思ってくれたことが嬉しい。波打ち際をなんとはなしに歩いたり文鳥の歌をふたりで褒めそやしたり、そういう、何かを能動的に生み出すわけではない時間をただ共有できることは私にとって本当に重要だ。

なんと約束はそのあとすぐさま叶えられ、先日フォロイーがわが家にやってきた。もちろん片道3時間かけて、だ。まずはお土産がすばらしかったので見てほしい。

長方形の真っ赤な煎餅缶に縦書きで「日立煎餅」と書いてある。
モーター最中。モーターをかたどった最中。

どっちもかっこいい。とくに日立煎餅の缶。こんなにいい缶はとっておいて物入れにするほかない。モーター最中は本当にモーターの形をしていて、つまりモーター型の最中型がこの世に存在するということだ。知らなかった。まだまだ知らないことがたくさんある。

フォロイーは着いて早々、私のパートナーに「お会いしたかったです」と丁寧に挨拶してくれて、動物たちを順繰りに、公平に可愛がった。人見知り甚だしいわが家の文鳥がフォロイーの手に乗って甘えたのには驚いた。まあちょっと見てほしい、このうっとり顔を。

フォロイーに頬を撫でられてうっとり顔の文鳥

文鳥には文鳥と暮らしているひとがわかるのかなあ、いやいや、フォロイーのことがこの子は格別に気に入ったのかも……などと話していると、対小鳥コーデをしてきたのだと教えてくれた。その視点で眺めると納得。ネイルなし、指輪なし。トップスは柄こそあるが低コントラスト・低彩度・低明度。小鳥を怖がらせないにはこれに限る。これが見事功を奏し、わが家のインコたちも初対面のフォロイーの指にとまりおなかをつけて甘えたり、ノンストップお喋りを披露したりしたのだった。

フォロイーの指にとまってくつろぐセキセイインコ
フォロイーの指にとまってこちらを振り返るセキセイインコ

どの動物にも「やさしいねえ」と話しかけてくれたのが印象的だった。かわいいでもいい子でもなく、やさしい。わが家はとりもねこもかなり人語を解するので、どの子もおそらくなんとなくの意味をわかって聞いていたと思う。あたたかい言葉をかけてもらってありがたい。そういうひとだから人見知り文鳥もはやばやと心を開いたのだろう。

 

解散はやっぱり15時台だった。6時間が移動に充てられることを考えるとそうしょっちゅう行き来できる距離ではないけれど、また行きたいと思うし来てほしいとも思う。どちらも嬉しい1日だった。

@kamiokafu
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