数日前の酔っ払いの自分がアイスクリームを食べた。食べかけをそのまま冷凍庫に入れた。酔っ払いの衛生観念よ。
私の母は潔癖症気味だから、子供の頃から1日に何回も洋服を着替えさせられて、毎日のように菌の話をされた。
「時間が経った食べかけは食べてはだめ」「飲み物も口をつけて数時間経ったら捨てなさい」「できる限り、公共の物には手を触れないこと」「手を洗うだけじゃなく、必ず除菌」「除菌」「除菌」「除菌」
これらの言葉をシャワーのように浴びせられて育った。コロナ禍になってからは自身の普段の衛生意識がスタンダードになったように感じたらしく、誇らしげだった。
だから私も潔癖症……と言いたいところだが、全くもって違う。呪詛のように衛生観念を叩き込まれたから普通の人よりかは意識的ではあるが、食べかけも食べるし、時間が経った飲み物も飲む。
潔癖症の方はに本人なりのロジックがある。それをわざわざ崩そうとは思わないし、好きにしたらいいと思う。でも私は、のびのびと生きたほうが性に合っている。それに母も口うるさいくせに、賞味期限が切れた食べ物に関しては意外とゆるかったりして、その線引きが他の人間にはよくわからない。本人なりのルールなのだろう。
だから酔っ払いが冷凍庫に仕舞い込んだ2日前のアイスクリームも食べる。私は過去の自分は自分でありながら、別の生き物のように感じることがある。2日前のアイスクリーム。かじった跡。唾液。過去の自分と混ざり合うような気がした。それがふしぎと汚いだけのことのようには感じなかった。過去とつながる。アイスクリームについた唾液。同じ遺伝子情報。自分だから全部いっしょ。
この感覚何かで感じたことあるなと思ったら谷川電話さんの短歌だと思った。
エロティックなのに清潔な朝の日差しを感じてとても好きな短歌。
ところで菌って冷凍庫での繁殖はどうなっているのだろう。アイスクリームに賞味期限はないって言うけど。菌がついたアイスクリームは無菌室で現状維持をするのだろうか。室温に戻された瞬間、菌の繁殖が進むのかな。詳しいことはわからない。でもそのままでいい気もする。
そんなことを考えてたら小説が思いついて、酔っ払ってアイスクリームを買って食べかけを冷凍庫に入れた自分に感謝したくなった。