去年の夏に今の家に引っ越してきた。
猫のためを思って決めたメゾネット。2階建て。日当たりがよくて、窓がたくさんあって猫が退屈しない。太りやすいブリショーの姉弟のために絶対に階段がある家にしようと思っていた。本当に運動量が増えて全く太らなくなったから大正解。
お気に入りの家だ。ただ前の家には必ずあった洗面所(脱衣所)と独立洗面台が消えた。そんな些末なことなんですか、猫が楽しいのが一番。そう思ってそこまで気にしてない。
2階建てだから1階に庭がある。猫の額ほどの、ガーデニングを楽しむには十分な小さな庭。
引っ越して来た時、管理会社が雑草を抜いてくれいたのだけど、管理はなかなか大変そうに思えた。雑草抜かなきゃいけないらしい。億劫だな、ああ億劫だなーーそんな気持ちで現在まで来てしまった。庭の雑草とはいうと、ボーボーである。ボボボーボ・ボーボボ。こちらの頭がおかしくなっちゃいそうなくらい生えてる。
まだこの家に越して1年は経ってないけれど、四季の変化による雑草の変遷は目まぐるしい。夏に雑草が目を見張るほどの成長を見せつけた頃は、“抜かなきゃどうなってしまうんだこの家は”と思った。けれど、私の予想に反して秋には雑草の成長はぴたりと止まった。元気がなくなっていく。冬に向かうにつれて、その様子は顕著だった。
あんなに夏は元気だったのに冬には見る影もないくらいに、元気をなくしている。別人みたい。まるで自分みたいだと思った。冬は雑草に声援を送っていた。負けないでがんばれよ。私の声は届くことなく、真冬になる頃には多くの雑草が枯れてしまった。なんだか寂しい気持ちになった。
私も早く終わってくれ、助けてくれーーそんな気持ちで泣きながら冬を乗り越えた。雑草も寒さで千切れそうな思いだっただろう。
冬は終わった。春を感じて、庭先に目をやると、冬の様子が嘘だったみたいに雑草は芽吹いていた。方々から様々な雑草が急成長していた。まるで冬が嘘だったみたい。本当に自分みたいだ。春になってよかったね。雑草に声をかけたくなった。春ってすばらしいよね。青々と成長する雑草に、春のよろこびを感じた。
2階のベランダからそれぞれのお家の庭が見える。みんなそれなりに雑草を飼い慣らしている。雑草の管理って大変なんだよ。雑草どころか木を植えている猛者を発見してびっくりした。隣のお宅の庭に目をやる。隣のお庭、タンポポだらけだ……!!かわいくて羨ましかった。私の庭は何だかよくわからない雑草だらけで、雑草のプリンセス・タンポポは不在だ。隣の庭との距離なんて目と鼻の先だ。私はタンポポがこちらまで飛んでくることを願った。
先日、私の庭にもタンポポが生えた。うれしくてガッツポーズをした。隣から種を飛ばして、うちの庭までやってきたんだね。愛おしい。タンポポの綿毛。ふわふわしていて大好き。ずっと家にいていいんだよ。
もう雑草を抜く気なんて毛頭ない。だって生えすぎ草って感じ。草どころか大草原。
雑草といえど植物。命がそばにあるのって少しだけ愛着がわく。よくよく考えたら私がここまで雑草を抜くのが嫌なのって、命を刈り取る感覚があるからなんだよね。ギュッと手に力を入れることで消えていく命。消えていく感じ。感じたくないな。できることなら遠慮させてほしい。
だから私の庭は雑草がボーボー。
雑草抜くのはお金を払って誰かにお願いしたいのが本音だ。私がやるべきだろうか、やるべきなんだろうな。わかっているけれど、もう少し時間がほしい。春夏は諦めたから、秋になったらもう一度考えようと思う。
タンポポって蒲公英(ほこうえい)って書くのもすてきだよね。恩田陸さんの『蒲公英草紙:常野物語』好きだった。