朝起きたら、紅白で星野源が歌う曲が「地獄でなぜ悪い」ではなくなっていた。
選曲変更の理由としては、性加害を行っていた映画監督の映画の主題歌だったことから、性的加害を想起させること、被害者の当事者がいること、二次的被害を生みかねないことが理由だった。
私は当時この映画を観ているから実感もあるし、性加害の事件も認識している。それでも……と思うのは、見苦しいだろうか?
苦しい時にこの曲を聴いて何度も励まされた。どれだけ苦しくてもこの楽しい地獄を生きていこうと思った。純粋にこの曲が心から好きだから紅白で聴きたかった。
そもそもこの選曲は、今年の紅白の「あなたへの歌」というテーマに基づいてNHKの担当者が星野源にオファーされたものだ。この楽曲に込められた思いやメッセージを様々な思いをもつ人たちに届けるためだった。
それぞれの地獄で生きる人たちに届く曲が現在進行形で苦しんでいる誰かを傷つけかねないというのなら、理解するべきなのだろう。理由としては、十分わかる。
わかることと納得することは違う。理解することはできても、どこか裏切られたような気持ちになっている。
この曲を歌うと知った時、まるで自分の存在が認められたような、苦しみを背負う知らない誰かと繋がるようなそんな喜びを感じた。紅白でこの曲が流れる少しの時間だけひとりぼっちだった世界が広がるような気がした。そんな時間を想像してワクワクした。
その時間は来ない。
星野源の声明はとてもいいものだったし、選曲を「ばらばら」にすることは彼なりの表明だと思う。
喜んだ分だけ、ショックが大きい。世界はやっぱり本物の地獄だし、世界はひとつにはなれないんだ。わかっていたけど、改めてそう感じた。