タピオカが好きだ。
流行っては廃れ、みんなから悪口を言われる。私は一度だって言ってないよ。好きなものは変わらずにずっと好きだから。飽きるとかない。好きだよ、タピオカ。
最寄りにタピオカのお店が何店舗もあったのに、コロナが終息したと言われる頃には1店舗以外なくなっていた。その中の1つのお店が大好きだった。週に1度は必ず飲んでいた気がする。容器がおしゃれで、見た目も味もこだわっていて、他とは比較にならないほど美味しかった。
台湾の方と思わしき男性が働いていたのだけど、笑顔が一切なくて会話を全くしない人だった。行動に無駄が一切ない。クッション言葉なんて存在するわけもない。私はその男性のことを心の中で「お兄さん」と呼んでいた。かなり好きだった。
そこのお店に行くと自分がダンジョン攻略の冒険者になったような気分になった。立ち寄った先のタピオカ屋の店主は、無駄を嫌い、タピオカ以外については一切話さない。カスタマイズについて聞けば簡単な単語で「甘い」「多い」「チョコレート味」なんて答えてくれるが、具体的な質問は無視をする。回答が長くなりそうなものに関しては、現物を見せて黙らせる。
何度か来店するうちに彼のことをNPCなのだと思うようになった。私が突発的な質問をしても答えてくれないし、会話らしい会話はしてくれない。(※Non Player Characterの略称。ゲーム上でプレイヤーが操作しないキャラクターを指す)
彼のことを失礼だとか無愛想と言う人もいるのだろう。でも私からしたらタピオカ屋はタピオカを出してくれさえすればいい。美味しいタピオカを提供してくれさえすれば文句はない。そりゃあ注文して「お前に出すタピオカはないが、作ってやるよ」みたいなテンションで接客されたら嫌だなと思う。だがNPCのお兄さんはただ淡々と業務をこなしているだけ。タピオカを作る手捌きには全く無駄がない。私は彼の存在を含めて、あのタピオカ屋が好きだった。
もう存在しないタピオカ屋に思いを馳せる。私ずっと好きだったんだよ。文句言われないくらい通い続けていたのに。いなくなるなんてひどいよ。
タピオカブームがまたやってきて私の街に帰ってきたら「お帰り」って言ってあげるから、いつでも帰ってきていいんだよ。ブーム関係なしに帰ってきてもいいんだよ。その時はできたらNPCのお兄さんも連れてきて。それは無理か。
タピオカ好きなんだよ、ずっと。