あれは多分、小学校の低学年の頃だった。その日は休日で、時刻は昼過ぎといったところだったと思う。父も母もリビングのソファでうとうとしており、私は両親のすぐそばで、つけっぱなしになっていたテレビを見ていた。そのとき放送されていたのは恐らくサスペンスドラマで、どうやら記憶喪失の女性が主人公のようだった。
主人公は目覚めると見ず知らずの屋敷にいた。おまけに酷い怪我をしており、車椅子なしでは身動きが取れないという状況である。しかし彼女は自分の身に起きたことを何ひとつ覚えていない。
「近くで倒れてはったさかい、保護したんやで。怪我が治るまでここで過ごさはったらええわ」「なんぼなんでもそんなん悪いわ」「かまへんかまへん」
という会話があったかどうかは定かでないが、その後主人公が屋敷をうろうろしていた場面をなんとなく覚えているので、おそらく屋敷の人間と主人公の間でそんな感じのやり取りが交わされたのだろう。
ある日、主人公は「決して入ってはいけない」と言われていた部屋に興味本位で入ってしまう。いや、入ってはいけないなんて言われてなかったかもしれないし興味本位などではなかった気もするが、ともかくある部屋に入り、衝撃的な写真を目にしてしまう。そこに写っていたのは夫婦と思しき一組の男女で、それがまさかの屋敷の主人と自分だったのだ。
混乱して部屋を飛び出す主人公。しかし階段の近くまで来たところで、何者かに車椅子ごと階下へと突き落とされてしまう。などと書きながらこの場面は写真の部屋の場面とは連続していなかった気もしているが、この次に覚えているのがなぜか庭の土を掘り返している主人公の姿である。掘り返した土の中からは、なんと人間の手が出現する。仰天する主人公。腰を抜かす小学生の私。しかしそこで目覚めた母の「なに見てんの!」という言葉とともにチャンネルが変えられてしまい、結末はわからずじまいとなった。
あそこに埋まっていた人物が誰なのか、あの日以来ずっと気になっているが、これからも大人しく埋まっていてほしい気もする。