It's the only neat thing to do.

最近、英語で文章を読んだりニュースを聞いたりという時間を意識して取るようにしている。勉強目的で始めたことだが、同じ情報であっても、日本語で理解するときと英語で理解するときで受ける印象が異なることもあり、ともすると硬くなりつつある脳みそをほぐすのにちょうどよい機会となっている気がする。

そんな中、単に意味を伝えるというだけではなくて、語感というか、余韻というか、言葉そのものの美しさのようなものを伝える表現に目が向くようになってきた。

"This is for the best."

という表現は、直訳すると「これが最善である」ということになるかと思うが、使う文脈や言い方によっては、そこに大いなる余韻が生じる。

例えばこの言葉が中島みゆきの歌詞に出てきたならば、そこには「これでよかったのよ」と噛みしめるように呟く女性の情景が浮かぶだろう。たった5単語の短い文章にすぎないが、背後に膨大なドラマを読み取ることができる。

こう考えてきて、ふと思い出したのが、「たった一つの冴えたやり方」という本のタイトルだ。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの手による著名なSF作品で、宇宙空間でエイリアンと不思議な出会いをした少女の、エイリアンとの交友を描いた短編なのだが、穏やかで牧歌的に進行する前半から一転する物語の後半、悲劇的な自己犠牲に至る語りが進行するコントラストが見事なのだ。

そして何より、物語の余韻を一言で見事に表現した「たった一つの冴えたやり方」というタイトルが秀逸だと言わざるを得ない。この物語はまさに「たった一つの冴えたやり方」の物語なのだ。

さて、この本の原題はどのような英語なのだろう。調べたところ、"The Only Neat Thing to Do" だった。

neatという言葉には「きちんとした、手際の良い」といった意味に加え、「素敵な、素晴らしい」という語感があるらしい。

英語でこのタイトルを読んだときに受ける余韻がどれほどのものか。うーん、正直、そこまでグッと来る感じがしないのは、ぼくの英語力の問題だろうか。

それにしても、"The Only Neat Thing to Do" を、「たった一つの冴えたやり方」と訳した浅倉久志はつくづく良い仕事したよな、というのが本日の感想である。

@kappamark
のちの自分のために、思考の断片を一旦メモしておく場所としてお借りしています。 外に向けて発表するために整えたりする前の素材段階のメモです。