「死は存在しない」田坂広志

河﨑健一郎の静網メモ
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公開:2023/12/11

 タイトルを見て、「そんなアホな」「またタイトル詐欺ですか」と思われると思います。あまりにも唐突ですよね。

 ところが、 読み進めるとわかりますが、著者は大真面目でこのテーマについて書いています。田坂広志という名前だけでピンとくる人もいるかもしれませんが、著者は有名な経済人で、経営学者でもあり、菅直人内閣では内閣官房参与として政策立案にも関わった政策人でもあります。日本総研という国内資本系で日本第二位のコンサルティング会社の代表をやっていたことで記憶している人もいるかもれません。

 キャリアのスタートは東大で原子力工学を学んだという田坂氏が、「死は存在しない」という結論(といってもあくまで「仮説」として提示されている)に到達するには、まず「生」とは何か、という問いからスタートすることになります。

 現代物理学の世界では「過去」「現在」「未来」が「同時に」存在していると理解されていることから語りが始まります。アインシュタインの「時空連続体」の概念です。

 更に、「我々の脳の中で起こっている情報プロセスは量子的プロセスである」というロジャー・ペンローズ(理論物理学者)の「量子脳理論」を敷衍していくと、「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる「過去」「現在」「未来」の膨大な情報が存在する場が存在し、「生」とは、この「ゼロ・ポイント・フィールド」の情報が量子論的に展開される過程なのではないか、という理解が示されます。

 すでに何を言っているのかチンプンカンプンだと思いますが、読んでいるときは不思議な説得力を持って納得させられそうになるところが本書の持つ妖しい魅力です。

 ここではこれ以上詳しく本書の内容について述べませんが、非常に刺激的な読書体験になることは請け合います。こういう一冊との出会いがあると、読書をますます止められないなと感じてしまいます。

 本書の後半で引用されているヘーゲルの一節を孫引きして本稿を終えます。

 「世界の歴史とは、世界精神が、『自分とは何か』を、問い続ける過程である」

@kappamark
のちの自分のために、思考の断片を一旦メモしておく場所としてお借りしています。 外に向けて発表するために整えたりする前の素材段階のメモです。