世田谷の新緑が綺麗だというので、用賀駅からプロムナードを歩いて砧公園へ。寒くもないが、暑くもないというちょうどよい季節のおかげもあって、果たして素晴らしい散歩となった。
その勢いもあって東京農大のあたりから千歳船橋に向かって更に散歩を続けていると、豆を焙煎する品の良い香りが漂ってきた。ちょうど手持ちの豆が切れていたこともあり、覗いてみた。
店主は先客の注文した豆を慎重に焼き上げており、声をかけてよいのか戸惑う。この手の店の店主はこだわりが強いことが多く、対応を間違えないように細心の注意を払う。夫婦で端のほうに恐縮しながら座っていると、焼きの合間に丁寧に説明をしてくれた。
240グラムの生豆を焙煎してくれて、焼き上がりの分量は焼き方によって異なるが、おおよそ200グラムくらいが取れるらしい。
1000円くらいの豆から、5000円を超えるものまで幅広く取り揃えていたのだが、例によって情報量が多すぎてなんとも決めきれない。
直感的に2種類、ブラジルのカフェスイート1480円と、ブルーマウンテン・ナンバーワン3980円!をお願いする。いずれもシティという中煎りがオススメというので、そのようにしてもらう。
で、帰宅後、さっそくこの超高級豆、ブルーマウンテンNo.1を淹れてみた。
封を切りったところでまず、立ち上る豆の香りにうっとりとしてしまった。先ほど焙煎したばかりということもあってか、ちょっと麦を焼いたような芳醇な香りが一面に広がる。
手挽きで引いて粉にして、ドリッパーにセットし、細口のポットで少しずつお湯を注いでいくと、ぷくぷくぷくっと豆の欠片が立ち上がって、作りたてのパンのように膨らんだ。
これは、これまでと違う。至高の一杯に近づけるかもしれない。そんな予感がした。
淹れた珈琲に鼻を近づけてみる。くんくん。あれ、ほとんど香りがしない。あれれれ。さきほどの芳醇な香りはどこへ行ってしまったのか。
不審に思いつつ、いざ実飲。
とても穏やかでバランスの取れた味だった。雑味がなく、苦みも酸味もさほどなく、スッと飲みやすい。意外と言えば意外だし、成る程、といえば成る程である。
少し時間が経って冷め始めてからは、味わいが更に増したように感じた。
してみると、豆の段階で放っていた豊かな香りは、味わいの中に溶け込んでいるのかもしれない。
うーん、大枚はたいて購入した豆だから、脳が美味しく感じてしまっている可能性も大いにある。あるのだが、その可能性を留保したうえで、現時点でのマイベスト珈琲の称号をこの一杯に捧げたいと思う。