薄すぎる少女の胸に口付ける一ぷくの絵の如き醜悪
踏み出さなければ傷つかずに済むと立ち竦み老いさらばへてゆく
赤い草たばねて飾る冬祭り 草は南の原産と知る
四十過ぎて美しい叔母声殺し泣く肩そつと抱いてもよいか
花止めば秋はひそかに死に凭れ涙の堰にその手を伸ばす
百年の旅を続ける雲もまた故郷のブナにただいまを言ふ
盆栽に僕の名をつけ切り落とす義父の復讐 妻は笑へり
捨てどきを失つた古通帳をめくるアルバム持たぬ身のわれ
自殺した子の怨霊に怯えつつ魔除け画鋲を捨て帰る夢
昨日より六十秒も早く日が昇つたことをよろこび二度寝
みつともなく人前で声震はすは恥を己に与ふがために
万人に通ずる口説き文句あり「君はどうやらみんなと違う」
丸いものばかり集めた部屋で泣く世界で一番可哀い女
何にでもなれる細胞からこんな有様になっちまった俺ら
やわらかい心・尊い・世界観、莫迦の好みし言葉三選
「おのれこそ大衆」と背に刻みたる大男買ひたるエロフィギュア
ボソボソと話し働き飯を食ひしづかに眠る聖デクノボー
清らかな非言及あり穢れなき不謹慎あり、言葉無くとも