これからボルダリングを始めたいひとへの想定問答集

kawarimidoll
·

ボルダリングを続けて5年半が経ちました。それなりに経験があると言って良いかと思います。

ボルダリングしました

ボルダリングジムの写真

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この記事では、なんとなく興味がある!これから始めたい!というあなたに向けて言いたいことを書き連ねます。

みんなもやってみよう!

最低限の事前知識

ボルダリングは壁に取り付けられた石(ホールド)を使って上まで登っていくスポーツで、スポーツクライミングという大きなくくりの中の一種目です。

以下に基本的な用語を示します。これらの用語は以降の記事中では説明なく使います。

  • ホールド

    • 壁に付いている石のことです。人口壁ではだいたいカラフルです。

    • 滑り止めのために細かい凹凸がついています。ぶつけたり擦ったりすると怪我しやすいです。

  • 課題

    • 登るコースのことです。壁にはいろいろなホールドがついていますが、何でも使っていいわけではありません。スタートホールドから特定のホールドのみを使用してゴールホールドへたどり着く必要があります。

    • ジムによって課題を示す方法は異なります。ホールドの色で課題がわかれていたり、番号の付いたテープが貼られたりしています。

  • 完登

    • 課題をクリアすることです。定められたホールドを使ってゴールまで辿り着けば完登です。

    • 「落とす」とも言います。「落ちる」は失敗なのに「落とす」は成功を指すのが不思議ですね。

  • グレード

    • 課題の難易度のことです。

    • 壁の角度や形状とは関係なく、総合的な難易度で決まっています。角度がきついのに簡単なものもあれば、角度が緩いのに難しいものもあります。

    • 日本では武道のような「段級グレード」が用いられます。「級」は数値が減るほど難しくなります。1級の次は初段で、「段」は数値が増えるほど難しくなります。「8級→7級→…→2級→1級→初段→2段→…」

    • 「級」は「Q」、「段」は「D」で簡易表記されることが多いです。課題のスタートに「3Q」と書いてあったら3級、「1D」と書いてあったら初段ということです。

    • ジムによって設置されている最低・最高グレードが異なりますが、だいたい簡単なものが8級くらいから始まります。最高は3段くらいです。明確な測定基準はないので、ジムのスタッフさんがフィーリングで決めています。

    • 「このグレードを全部落とさないと次のグレードに進めない」というような決まりはないので、できそうなものにはどんどん挑戦してみましょう。ただし、いきなり高難度課題に取り組むのは無謀すぎます。初心者は簡単なものから挑戦していき、ひとまずは5級を安定して落とせるようになることを目指しましょう。

どこで登れるの?

クライミングジムまたは自然の岩で登ることができますが、初心者はジムで始めるのがおすすめです(岩はそもそも現地に行くことが大変です)。近くのジムを検索しましょう。

どのジムも初めてのひとには初心者講座をやってくれるのでとりあえず行ってみましょう(レクチャーなしで登らせるのは危険すぎるため必ず説明があります)。初心者講座では、ルール(課題の見方、スタートとゴールの仕方など)と安全講習(他人が登っていたら登ってはいけない、など)をやるのが基本です。

なお、壁の形や登るコースに決まった規格はないため、ジムごとにぜんぜん雰囲気が違います。近くに複数店があれば、それぞれ見てみると良いでしょう。

持ち物は?

ジムではシューズなどをレンタルできるのが普通です。利用料さえあれば何も持たなくても始められます。汚れを気にしなければ着替えも必要ありません。

要るもの

前述の通り、最悪なくても良いのですが、以下は持っていくことをおすすめします。

  • 動きやすい服

    • 後述します。

  • 飲み物

    • 小さいボトルなどに飲み物を入れていくとよいでしょう。無補給で登り続けるのはけっこうしんどいです。

    • 筆者はゼリー飲料を1パック持っていくことが多いです。

  • ケアリーヴ

    • ホールドとの接触で小さな擦り傷ができやすいです。続けていればいずれ必ず受傷するものと想定して、応急処置できるものを持ちましょう。おすすめはケアリーヴです。ケアリーヴ最高。

    • 運動中はアドレナリンが出ていて痛みは感じづらいのですが、出血したまま運動するのはマナー違反です。早めに傷を塞ぎましょう。

  • メモA

    • 上と同じ理由で、必ず怪我するものと想定し、傷薬を持っておきましょう。メモAが人気です。

実は要らないもの

このへんは一般的には必要と言われていますが実は要らないと思います。少なくともこれから始める段階では不要でしょう。

  • クライミングシューズ

    • ジムでレンタルできるので持っていなくても登れます。筆者はボルダリングを始めてから1年間はレンタルシューズで通しました。いつ止めるかわかんないな〜と思っていたので(そう思っているものに限ってずっと続けているのが面白いですが)。

    • レンタル300円をほぼ毎週1年間、合計で15000円近く使ったので、そろそろ買ったほうが安くなるだろうと思って購入に踏み切りました。

    • そもそも価格帯が高いです。初心者向けが1万5千円程度、中上級者向けが2万円から2万5千円程度、それ以上もある…という世界です。数年前と比較して、全体が5千円ほど値上がりしてしまいました。円安つらい。

  • チョーク(滑り止め)

    • 筆者も始めたころは必須かと思っていましたが、最近は使用していません。「滑り止めがないと失敗するけど、滑り止めがあると成功する」といったギリギリの経験をしたことがない(単純に自分の身体の使い方が下手で失敗する)ので、これならあってもなくても変わんないなという結論に至りました。

    • めっちゃ手汗をかいてしまう場合は持っていても良いかもしれません。筆者は慣れるに従ってあまり手汗をかかなくなりました。

服装は?

なんでも良い!

Tシャツジーパンでフラっと来てそのまま登るようなジム常連さんもいます。

とはいえ、以下のことを気をつけると良いと思います:

  1. 汚れても良い服装にしましょう。ジムはそこら中にチョークパウダーが付いています。汚れることは覚悟しましょう。

  2. 動きやすい服装にしましょう。動きにくいと登りづらいだけでなく危険です。

  3. 膝、肘は隠れているほうが良いです。ぶつけやすいので露出していない方が安全です。布一枚の有無で傷の大きさはかなり変わります。大会の選手はタンクトップ・ショートパンツだし、古の伝説クライマーはだいたい上半身裸ですが、一般人は避けるのが無難です。

  4. ダボついたものは避けましょう。ゆるい服は壁に近づいたときにホールドにひっかかる危険があります。特に襟や裾が詰まっているものがおすすめです。

  5. 靴下は薄手のものにしましょう。厚手のものは指先の感覚が鈍るため、登りづらいだけでなく危険も伴います。クライミングブランドのものもありますが、結局は消耗品なので、100均の靴下で良いと思います。なお、ベテランクライマーは靴下の厚さも嫌って裸足でシューズを履くことがありますが、レンタルシューズの場合は靴下の使用が必須です。

  6. 髪は暴れない程度にまとめましょう。長いと邪魔なだけでなくチョークで汚れる可能性も高まります。ちなみに、インナーカラーを入れていると顔を上げたときにカラーが見えて綺麗です。

筆者は、薄手の長袖のスポーツシャツの上に半袖のシャツ、七分丈のズボンを使用しています。

長ズボンを使う場合は、ガゼットクロッチのものがおすすめです。

ボル姉さんのスタイルはクッソ強いからこそできる芸当です。一般人は動きやすい格好でいきましょう。

ちなみにわたしが直接会ったことのあるコスプレボルダラーで一番強かったのは壁の妖精ことボル姉さん

2年くらい前だったと思う

https://bsky.app/profile/kawarimidoll.bsky.social/post/3kbwceufv4y2n

また、アクセサリーはなるべく外しておきましょう。ホールドに接触すると傷だらけになりますし、接触しなくてもチョークパウダーの汚れは避けられません。落下時の衝撃で外れると思わぬ破損や怪我に繋がります。

特に指輪はホールドに接触する可能性が高いです。指輪に傷が付くのみならず、逆にホールドが破損する恐れがあります。非常に危険なので、絶対に外しましょう。

事前にやっておくべきことはある?

爪を切りましょう。

指を思いっきり握り込んでグー✊にしたときに、手のひらに爪が食い込まない程度が目安です。

長い爪が引っかかると非常に危険です。職業上の理由などで爪を短くできない場合、残念ながらボルダリングは諦めてください。

また、毛深い方は、腕脚の毛を刈っておくのがおすすめです。

すでに書いた通り、ボルダリングでは応急処置のための絆創膏や、怪我防止のためのテーピングを使う機会が多くあります。皮膚を覆うレベルで体毛があると、これらが適切に貼付できず、しかも剥がすときに無駄に痛いです。セルフ罰ゲームみたいな状態になりたくなければ、毛は処理しておくほうが良いです。

美容目的ではないので、すべてツルツルにしておく必要はありません。肘・膝の周辺より先の部分を、概ね3ミリ程度より短くなるよう、バリカンを当てておけば問題はないと思います。

失敗(落下)したら恥ずかしいです

大丈夫、みんな落ちます。

これは「始めた頃はみんな失敗します」といった一般論ではなく、ボルダリングの構造的に、みんな落ち続けるようになっています。

6級を安定してクリアできるようになったひとは5級に挑戦します。そうすると自分の実力より難易度が高いので落ちます。だんだん実力が上がり、5級を安定してクリアできるようになったひとは4級に挑戦します。そうすると自分の実力より難易度が高いので落ちます。だんだん実力が上がり、4級を安定してクリアできるようになったひとは3級に挑戦します。そうすると自分の実力より難易度が高いので落ちます。…。これがずっと続きます。

課題を完登する瞬間は一瞬ですが、それまでは何度もトライを続ける必要があります。完登できた課題を何度もやり直すことは稀で、すぐに次の課題に着手し、登れない課題に出会うとそこで再挑戦サイクルに入ります。したがって、ボルダリングは「登れていない時間」のほうが圧倒的に長いです。気にせず挑戦して落ちていきましょう。

なお、ジムではスイスイ登りまくっているひともいますが、自分の実力より少し下げたものを登っているだけです(これは低負荷・高頻度による持久力向上を目的としたトレーニングなのでサボっているわけではありません)。

やってはいけないことは?

壁上での接触、またはそれにつながる行動を取らないようにしましょう。大事故になります。

具体的には、他のクライマーが登っている・登ろうとしている場合、その課題がどういう経路かを確認し、重ならないよう注意しましょう。課題は直上へ登るとは限りません。「近くにはいないから大丈夫だろう」と思っても、上の方でぶつかる可能性があります。

ありがちな衝突事故の例

安全を期すため、周囲で登っているひとが一旦降りてから登り始めるのが無難です。不安定な壁上で衝突を回避するのは難しいので、登っていない側が注意することが求められます。

また、クライマーはいつ落ちてくるかわかりません。課題が直接重なっていなくても、「右方向へ勢いがついて落下」と「左方向へ勢いがついて落下」が同時に発生すると衝突事故になります。

初心者は自分の課題だけを注目してしまって周囲の確認を怠りがちなので、これは常に注意しておいてください。

運動神経がないのですが…。

運動神経がないと自分で思っている場合、多くは「学校体育が苦手だった」ということではないでしょうか?

学校の体育の授業では、同年代との球技やランニングがほとんどです。すなわち、「同級生と比較して」「動体視力が悪い or 足が遅い or 体が小さい」と、かなり苦手意識を持つと思います。筆者がそうでした。

ボルダリングは扱う対象(壁とホールド)が動かないので動体視力はほぼ関係しませんし、ジム利用者の年齢も性別も体型も様々です。課題が変われば必要な体捌きも大きく変わり、高身長が有利とも言い切れません。決められたホールドを使ってゴールにたどり着ければ、どれだけ時間をかけても、何回チャレンジしても、どう体を動かしても自由です。

一般的な(地面の上で行われる)多くのスポーツとは必要な能力が異なるので、これまで運動が苦手だと思っていても、意外とボルダリングにはハマるかもしれません。

握力がないのですが…。

関係ない!

手の筋力という意味では無関係とは言い切れませんが、一般的にいう握力とボルダリングに使う手の力は別です。握力自慢マッチョがボルダリングに向いているかというとそうでもありません。

ジムでは、

学生「ボルダリングに来たウェイ!」

学生「ウェ〜イ!」

学生「これを登るウェイ!」

学生「あっ!?持つところ小さい!」

学生「こんなの登れるわけないウェイ」

常連のお爺さん(ウォーミングアップで登る)

学生「ウェイ!?」

常連の小学生(飛びつきながら登る)

学生「ウェッウェ!??」

という光景もよく見られまウェイ。単純な筋力で決まるスポーツではありませんし、そもそも指先の動きは一つの要素でしかありません。むしろ、難しい課題を登れるようになるには、指先以外の全身をバランス良く使えるようになることが必須です。

このスポーツの経験者が有利!とかある?

運動神経の部分で書いた通り、球技やランニングとは必要な能力が異なるので、あまり関係ないと思います。ただ、個人的な意見では、有利そうなのは

  • ストリートワークアウト

  • ポールダンス

  • クラシックバレエ

です。「クライマーズバイブル」では、クライマーと体の使い方が一番近いのはバレリーナだと書かれています。

正直、これらの競技はそれほどメジャーではないと思います。少なくとも学校の体育では行われないと思いますし、筆者はどれも経験がありません。ということで、特に経験を気にする必要はないと思います。

この知識があると有利!とかある?

必須といえるものは特にありませんが、以下の知識があると覚えが良いんじゃないかな〜と思います。

  • 古典物理学

    • 結局、クライミングは物理です。高校物理(ニュートンの法則、摩擦の式、力学的エネルギー保存則)がわかれば「なぜ落ちないか」「なぜ落ちたか」が説明できるはずです。

  • 解剖学(美術解剖学)

    • どこに筋肉があるか?どこに脂肪があるか?がわかっていると、体の動かし方やバランスの取り方を考えるうえで助けになるのではないかと思います。

ボルダリングしていると痩せますか?

おそらく…むりです。

よく「痩せそ〜〜」と言われますが、実際は(特にボルダリング初心者は):

  • 前腕・指先に集中しがちで、大きな筋肉を使えない

  • 壁の上にいられるのは30秒ほど

  • パワーを出せるのは1日に20トライくらいが限界

  • 筋肉痛で1週間くらいの休憩期間が必要

です。したがって、「ボルダリングで痩せますか?」という質問は、「週に10分くらいの握力トレーニングをしたら痩せますか?」と聞いているようなものです。無理でしょうね。

しかし、数あるスポーツの中で最も「重力を体感できる」ものだと思うので、減量のモチベーションにはなると思います。

ちなみに慣れてくると大きな筋肉を使えるようになり、筋肉痛も持ち越さなくなるので、有酸素運動をできるようになります。こうなると痩せられるかもしれません。

なお、握力のところで書いた通り、全身をうまく使えるかが上達の秘訣なので、太っていたら不利というわけでもありません。いま太っているという理由で挑戦を諦めるのはもったいないですよ。

どんなところが楽しいですか?

「高いところに登る」というのには本能的な爽快感があります。もっとも、高所が好きかは個人差がありそうですが。ただ、「これをクリアできた!」という実感が積み上がっていくのは万人が共感できる面白さだと思います。一手進んだ、この高さまでいけた、という体験は、誰の目にも明らかな達成感があります。

また、どれほど登る経験を重ねても「落下」という切迫した身体的な恐怖は消えません。これは、ほかのあらゆる漠然とした不安を消し飛ばす効果があると思います。緊張感のあるトライの途中で仕事のこととか老後のこととかを考える余裕はありません。

総じて、本能的・身体的に「生きてる感覚」が得られることに気持ちよさを感じています。デスクワークでぼんやりとした不安を抱えているひとには是非おすすめしたいです。そんなの目前の落下の恐怖と比べたら大したことないんですよ。たまには生存本能に自身を委ねましょう。

みんなもやってみよう!