紙を排せないDXの末路

Kazukiya
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2022年。とある会社にコールセンターのスタッフとして3ヶ月ほど勤めていたときの話です。

このコールセンターでは病院でコロナだと診断された人たちからの電話を受け、『名前』や『住所』、『病院名』などを聞き取り、DBに保存するための業務が割り当てられました。

業務自体はそれほど難しくはないのですが、デジタル化を中途半端に取り入れた結果、業務量が大幅に増加しました。以下では、その具体例を紹介します。

まず、電話を受けたら相手の名前や住所などをExcelに打ち込みます。

打ち込み終わったら、それを紙に書きます。もう一度言います。それを紙に書きます。もちろん、内容は全部同じです。

続いて、自分でExcelに入力した内容と紙に書き写した内容が正しいかを自分で確認します。

間違いがなければ、Excelに入力した情報をDBに保存し、紙を確認係に提出します。

確認係はExcelとDBと紙の3つがすべて同じ内容になっているかを確認します。もしExcelの内容と書き写した紙の内容が違っていた場合、どちらが合っているかを聞きに行きます。どちらかを書き忘れた場合も聞きに行きます。文字が汚い場合も聞きに行きます。

なお、ダブルチェックのために、確認係は2人体制です。

確認が完了すると、確認係はExcelシートに印を付けます。これは2人目の確認係も同じように行います。

さらに、確認シートの入力漏れを防ぐために、確認係または上司が毎時間自らの手で再確認を行います。この確認係が確認する印はありません。

次に、確認係はExcelに登録された患者に順番に番号を付け、その番号を紙の端に記入します。これは、受電終了後にExcelでの患者登録数と紙の枚数が一致しているかを確認するためです。

最終的に、紙はクリアファイルに保管され、全ての業務が完了した後に上司に提出されます。

以上が、受けた電話の情報をDBに保存するさいの一連の流れです。

いかがですか?

僕は地獄だと思いました。

とくに、Excelの内容を紙に書き写して、それを自分で間違ってないかを確認するのはキツかったです。掘った穴を自分で埋めている気分でした。

確認しないでおざなりにやってもいいのですが、抜けがあったときに確認係が申し訳無さそうに「これはどっちが正しいですか?」と聞きに来ることになるので、それもまたキツいのです。

なので僕は上の人に紙は無くせないのか聞きました。回答はこうでした。

「紙を無くしてしまうと、Excelに書き忘れたらそれでおしまい。それにExcelが万が一消えたとき紙があればもとに戻せる」

というものでした。

つまり、紙とExcelどちらにも書くようにしておけばどちらか書き忘れてもどちらかが残っているから大丈夫ということです。

たしかに、どちらにも書くようにしておけば1つに絞るよりも入力漏れは多少は減るのかもしれませんし、いきなりExcelのデータが消失したときに紙があれば元に戻せるのかもしれません。

ですがそれによってかかる労力は膨大で、合理的な判断といえるのかは微妙なところです。

結局改善はされないまま、僕はそこを辞めました。それからどうなっているのかはわかりません。

ただ、僕の中で中途半端なDXはこうなるのだなと感慨深かったです。ちなみにこの会社の中途半端なDXは他にもあります。

まず、ここでは勤怠をハンコで管理しています。令和で、です。なので就業後に上の人のところにスタッフが勤怠管理の紙にハンコを押してもらうため長蛇の列を作ります。

で、それとは別にExcelで勤怠管理シートがあります。ここにも勤怠を入力しないといけません。

なんでこうなっているのか聞いたところ、もっと上の人がハンコじゃなきゃダメだと言っているので体裁を整えるために紙を使い、実際の給与の計算とかはExcelの勤怠で行っているそうです。

ちなみに上の人は、締め日に僕たちスタッフの勤怠管理の紙を一枚一枚写真を撮り、pdfにしてからもっと上の人に送っているそうです。

こうした紙とデジタルの両軸で仕事がどんどん非効率化し、上の人たちは夜遅くまで居残り、デスクにはいつもモンスターが置かれています。

そして上の人たちはそんな仕事量をこなしている自分は偉いのだと勘違いしてしまい、スタッフにどんどん厳しくなりました。

『携帯を持ち込んではいけない』『ネットサーフィンをしてはいけない』『お菓子を食べてはいけない』『隣の人と喋ってはいけない』

皮肉なことに、彼らは電話応対の専門家ではないし、各スタッフの電話応対を一つ一つ確認し指摘する余裕もありません。

そのため、コールセンターであるにも関わらず、電話応対のルールが一切定めらておらず(もちろんマニュアルはあります)、身近で目立つ怠惰な行為を禁止するのです。

そんなブラック会社が、『友達紹介キャンペーン』のポスターを壁に貼り付けて正社員の募集をかけてるのを見たときは、さすがに闇が深すぎて笑いました。

というわけで、ここに静かに供養しておきます。

P.S.

これを書いていて思い出したのですが、スタッフはみんなエンジニア志望で新卒でこの会社に入り(なのでみんな20代の若い人たちばかりです)、このコールセンターに配属されたそうです(直接聞いたand小耳に挟んだ)。

みんな、この先にエンジニアとして仕事ができると思って耐えているのだと言ってました。現に何人かは僕が3か月働いている間にどこかの企業に渡っていきました。ただ、エンジニアの業務をしているのかはわかりません。

今思えば完全に旧Twitterで見かけるSESの手法ですね、、、繋がりました。

ちなみに僕も職種は違いますが同じ穴のムジナでした。今思うとおかしな世界だったと思います。