えぇ、よくいらっしゃるんですよ、あなたのような方。心霊ですか? そういうのが好きな方が来てお話を聞かせてくれませんかって。でも、私はあまりそういった話は知らなくてですね、話すこともないんですよ。ただまぁ少し変わった神社ではありますから、そのお話をしていつも皆様には帰ってもらっているんです。
ここは上梨神社といって、まぁ大昔からある神社です。上梨は神無しからきてまして、ここが出来てから今まで神様がいたことがないんです。不思議ですよね。
神社というものには必ずと言っていいほど神様がいます。神社によって様々ですが、何らかしらの神様を祀ってるんですね。
でもここは、ずっと神様がいないんです。いたことがないんです。では何故建てられたのか。不思議ですよね。
本来、ここには神様が祀られるはずでした。そりゃそうですよ、神社なんですから。でも、神に来ていただけなかったんです。理由はわかりません。それこそ、神のみぞ知る、です。
私達は代々、ここに神様が来ていただけるまで、ずっとここを守っています。寂しいですよ、もちろん。神様はいないのですから。でも、やらねばならない、そんな気持ちは忘れられないんです。
よくここには老婆の幽霊がいるだの神隠しだの、うめき声が聞こえるだの這いずる音が聞こえるだの。とにかく変な話があるみたいですね。ずっとここにいる私がそんなことはないと言っているのに、おかしな話です。
それにしても、あれですね。あなた、瞳が大きいですね。えぇ、綺麗ですよ。言われません? 達磨みたいに大きな瞳ですね。
あぁ、申し訳ありません。お客様に来ていただいているのにお茶も出さずに。どうぞ。ここらの名産のお茶なんです。すごく後味が深く、香りもいいと評判なんですよ。遠慮なさらずに。どうですか? 美味しいですよね。よかった。
話を戻しますが、神様に入っていただく器なんです、この神社は。ただ待っているだけです。いつかきっと来ていただける神様を。えぇ、今この瞬間に来ていただけるかもしれませんので、気は抜けませんよ。いつでもお出迎えできるよう準備は整っておりますから。
ここ最近は近所の方も来ないですね。だって、お祈りしたって神様がいないんですから。そりゃ来ませんよ、誰も。人が来たのだって、あなたで半年振りですよ。すみませんね、寂しいもんですから、長々と話してしまって。
それにしても美しい瞳をしていますね。あぁ、そうですか。申し訳ございません、あなた様が神様でしたか。
そんな、謙遜なさらずに。大丈夫です、今度こそ大丈夫ですから。
ほら、先程のお茶が効いてきましたよね。筋肉の動きを一時的に制限する効能があるんです。
これから神様を祀らないと。儀式をして祀らないと。
安心してください。儀式は何度も練習済みですから。
今日までに来たまがい物の神と名乗るやつらで。
神だと偽って、なんなんですかね、あの人達は。
神様なら儀式を乗り越えるはずなのに。
腕を切り取られても脚を切り取られても頭髪をすべて抜かれても舌を抜かれても耳を引き千切られても鼻を拡張されても皮膚を剥がされても切り口に塩を塗り込まれても眼球を取り除かれても顎の骨を砕かれても筋肉を動物に齧られても。
神様なら生きていられますから。安心してください。
ただ、私もまぁこの年ですから。力もありませんし器用に切断できないかもしれません。
でもきっとやり遂げますから。どれだけ時間がかかっても。
あぁ、やっと会えましたね。本当にお待ちしておりました。