私の名前はあるるちゃん。中学二年生。先週の金曜日、学校の帰り道で「魔法少女にならない?」って誘われちゃったんだ。魔法少女のことよく知らないし私なんかでいいのかなって勝手に不安になっちゃったから答えは少し待ってもらってる。今度他の魔法少女仲間が何してるか見せてくれるみたい。すごく楽しみ。でもこのことはお母さんにもお父さんにも内緒なんだ。やっぱり魔法少女活動って大人には見せられないのかな。
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最近、うちの娘が夜家を出てるみたいなんです。なんか悪いことしてないか不安で。日中見ていても普段と変わらないし、友達関係も以前と変わりないみたいで。毎日ではないんですよ。ときどき、ふわっと出ていくんです。一応私達親には隠れて出ていってるつもりみたいで、本当こっそり出ていきます。一度聞いたんですよ。どこ行ってるのって。そしたらニコニコしながら「内緒」とか言って部屋に戻っちゃったんです。あの様子だとやましいことじゃないとは思うんですが。
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私の名前はあるるちゃん。高校三年生の一八歳。中学生の時スカウトされて魔法少女をやってます。魔法少女のことを少しだけ教えます。みんな使い魔って知ってる? 魔法少女にはアドバイスをくれる使い魔っていう存在が欠かせないんだけど、どんな姿を想像するかな? 大抵は動物をモチーフにしたデザインでフワフワしていて浮いてたりするでしょ。でも実際はそんなことないんだよね。私の場合はリュウっていう見た目は四十代のおじさんなんだけど、それは仮の姿なんだって。やっぱり社会に馴染まないと生活しにくいからそうしてるみたい。今日も夜から悪魔を退治しに行きますよ。ところで、何で魔法男子じゃなくて魔法少女なのか知ってますか? 私達が退治する悪魔は人に取り付くの。それも疲れた男性ばかりに。男性は悪魔に取り憑かれやすいから魔法使いにするのはリスクが伴うんだって。だから悪魔に取り憑かれない女の子ばかりがスカウトされるんだよ。また一つ賢くなりましたね。それじゃあ行かないと。
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やっぱりうちの娘がおかしいんです。相変わらず夜出かけてるみたいなんですけど、バイトも何もしてないのにカバンとか持ってるものが変なんです。私でも知ってるようなブランド物を持ってたりして。もちろん聞きましたよ。そんなものどうしたのって。そしたらね「内緒なのごめんね」と言って話を終わらせちゃうんです。やましいことをしてるならなんか適当な嘘をつきそうなものなんですけど、そう言われちゃうと……。何かは言えないけど悪いことをしていない自覚はあるみたいで、それ以上聞けないんです。主人にも話したんですけどあまり娘に興味がないみたいで。変なことしてなきゃいいんですけど。あと、ちょっと気になることがあるんです。娘がいないとき部屋に入ったことがあるんですけど、なんか子供っぽい物がたくさんあるというか、高校三年生らしくないんです。魔法のステッキみたいなものとか大事そうに置いてあって。いや、別にいいんですけど、なんかそういうのってもう卒業してるものだと思っていたので。たしかに見た目もなんか子供っぽいというか、中学生くらいからあまり変わらないというか。もちろん成長はしてるんですよ。でも今どきの高校生ってもう少し大人っぽく着飾るような、そういう時期じゃないですか。大人に憧れるというか。でもそんなことなくて、ずっと中学生くらいの状態を保とうとしてるというか。まぁ、それは娘が大人になることに興味がないだけかもしれないので、個性ですかね。
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私の名前はあるる。二九歳の独身です。これでも魔法少女って言っていいのかな。魔女というにはまだ若い気もするけど、少女って齢でもない。それはわかってるよ。とにかく、悪魔を退治してをお金を稼いでいる魔法を使う二九歳女性。最近は若い魔法少女に馬鹿にされてるのがわかるようになった。もしかしたら私も昔は先輩魔法少女達にそんな気持ちを抱いていたのかもしれない。魔法少女は年齢を重ねると悪魔祓いの能力が低下していく。若い方が有利なんだ。私達年長組はそれを補うために知識と経験を活かしてうまいこと立ち回らないといけない。今はまだなんとかなってるけど、はっきり言ってもう限界です。この世界でこれ以上やっていくのには限界がある。もちろん私より年上でまだまだ現役の先輩もいるけど、どんどん辞めていってる。私ももう無理かもしれない。あぁ、なんでこんなことしちゃったかな。自分を削って、何が悪魔祓いだよ。青春をすべて犠牲にした結果、私に何が残ったんだろう。同い年の男の子に恋したり、手を繋いで帰ったり。普通の女の子みたいなことしたかった。今の私にそんなことをする権利はないんだろうな。最近は夜眠れなくなってしまった。夜、あの男から連絡が来ないか、寝ていて電話を取れなかったらいよいよ終わらせられるのではないか。そんな不安感でいっぱいになって眠れないんだ。この生活が終わるのはいい。でも、終わらせ方は大事だ。アニメの最終回だってハッピーに終わるでしょ。
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私、見てしまったんです。夜、うちの娘出ていったとき後ろをつけたこともあるんですけど、いつもどこかで見失ってしまってたんです。でも、ようやく見てしまったんです。びっくりしてしまいました。娘があんなことをしていたなんて。娘はずっと戦っていたんです。何と戦っていたのか……。そうですね。強いて言うなら自分とです。傷つきながら戦ってたんです。その姿を見て涙が出ました。親にも言えず孤独に戦ってたんです。本当に文字通り戦ってました。肌が浅黒くて口が大きくて裸で角と羽が生えている怪物です。娘は大事に持っていたあの魔法のステッキを掲げて「キュアハートフルフラッシュ」と叫びながら、その凶悪な怪物と必死に戦っていました。ボロボロになりながらようやく怪物を倒して、娘は嬉しそうでした。私達の生活は、娘に守られていたんですね。