君は僕にお願いをするのが好きな人だったね。
迎えに来て。もっと優しくして。もっと近くにいて。帰らないで。これ食べて。子守唄歌って。教えて。忘れないで。
僕は君のお願いを叶えたくて、いつも頑張っていたよね。
迎えにも行った。優しい言葉を使った。君に触れていた。朝まで過ごした。嫌いなものでも食べた。真夜中でもずっと歌った。君が知らないことは僕が調べて教えた。そして、君のことを今でも忘れていない。
君だって僕が頑張っていることを知ってたよね。君のためなら何でもするってわかっていたよね。
だから、君は僕に無理なお願いをしてきたんだね。
僕に変わってほしくて。
僕が君だけのために生きていてほしくなかったからなんだよね。
嬉しいよ。
でも、僕は君のお願いを聞くのが大好きだったんだ。僕を頼ってくれているのが心地よかったんだ。
君は僕にお願いをしたね。
空を緑にしてよ。
考えたんだよ、たくさん。どうやったら空を緑にできるのかって。
日中は青くて、夜になると黒い。太陽光と大気が空の色を作っているって知ったんだ。
夜が黒いのは光がないからで、日中が青いのは光が大気によって一定の周波数が以上が拡散しているから。
それを僕に制御なんてできない。僕が困ってるのを見て、君は楽しそうだったね。
僕が妥協して空を青くしたときは、ずいぶんと驚いていたね。
メガネ型の液晶モニターを作って、AIで感知された空を緑色に色彩変化させる。実際に緑にはなっていないけど、一応緑に見える。
君は渋々納得してくれたよね。見たら空が緑なんだから。
その次のお願いにも正直困らされたな。
十年後も今の姿でいたい。
困ったよね。だって十年も経てば老化するし変化してしまう。
今の姿でいたいということは、老化もせず進化もせず退化もしないで十年経過したい、ということだろう。
この話をする君は子供みたいに笑っていたね。
僕だって頑張ったよ。君のためにできることは何だろうって。
だからまず、時間について考えてみたんだよ。十年って時間はどういうことなんだろうって。
時間っていうのは不変的なものではなかったんだね。勉強して知ったよ。
観測する場所によって時間の進み方が変わるなんて考えたこともなかったよね。僕の十年が誰かの一日だってことがあり得るなんて想像できなかったな。
でも、実際そうなら僕にも君にやってあげられそうなことがあるんじゃないかって希望が生まれたよ。
だから僕は作ったんだよ。疑似的なタイムマシンを。
重力が強いと時間は早く進む。ブラックホールみたいな超重力場を外から観察するとゆっくり動いているように見えるらしい。
だから、強制的に強い重力を与える機械を作ったんだ。
これも君のお願いをちゃんと叶えられているかわからないけど、次の日にその機械から出たら望み通り十年経っていたでしょ。
君はびっくりしていたみたいだけど、お願いしたのは君なんだから、僕は喜んでほしいんだよ。
驚きより先に喜びを表現してほしいんだよ。
喜んでほしくて僕は頑張っているんだから。
そんな君は、また僕にお願いをしたね。
ずっと一緒にいたい。
最初は簡単だと思っていたんだ。僕だって君と一緒にいたいんだから、ずっと寄り添えばいいだけ。
でも、本当にそうなのかなって思っちゃったんだ。
ずっとっていつまで?
僕が死ぬまで? 君が死ぬまで? 死んでも尚一緒にいたいの? 未来永劫?
そもそも一緒にいるってどういう状態?
そばにいること? 触れ合っていること? 重なり合うこと? 一体になること?
究極のずっと一緒って何だろう。そのことを、それこそずっと考えていたんだ。
それでようやく答えが出た。
だから僕と君は今ここにいる。
君はいつもそういう顔をするね。
嬉しくないの?
楽しいはずだよ。
これは君が望んだことだから。
これも妥協しちゃったけど、ずっと一緒だってことには変わりないよね。
でも、これが最後だからね。
これからは一緒なんだから、願いは叶えられないよ。
最後のとっておきだから。
ほら、怖かったら目を閉じて。
僕を信じて。
僕に任せて。
僕と混ざり合おうよ。