幽霊になってわかったことがいくつかある。
まず、幽霊が見えるなどと言っている霊能力者を名乗る人達は、ほぼ信用しなくていい。
基本的には嘘をついていて、見えもしないのに見えると言ってその場にいる人を怖がらせて騙している。騙すこと自体に快感を得ているか、もしくはそこからまた別のルートで騙してお金を回収するシステムを持っているかのどちらかで、どう転んでも騙す側のメリットしかない。
ただ、一定数何かが見えている人もいる。
他の人には見えない何か。
それは人型なのか、ぼんやりとした何かなのか。とにかくその人にだけ見える何かがある場合がある。
しかし、それは幽霊ではないと断言できる。幽霊がそう言っているのだから信じてほしい。
本当に何かが見えている、その状況の正体は幻覚だ。
そもそも、見えるというのは可視光線が眼球に入って網膜に映し出され、それが電気信号になって脳に届けられて初めて見える状態になる。つまり、見ているのは光なわけで、物体そのものを見ているわけではないわけだ。
では、光が脳に伝わる間、どこかで何かしらのバグがあった場合どうだろう。
網膜が光を一部認識できない、もしくは見えると意識するその瞬間に何か別の情報が混じってしまった場合、伝達の誤作動が誤作動であると認識できなければ、そこに不可解な何かがあると理解してしまってもおかしくはない。
この場合は誰かを騙そうとしているわけではない。何故なら本人にとってそこには本当に何かがあるのだから。
人間の認識なんて所詮その程度のものなのだから、あまり信用しない方がいいと思うのだが、それができない。自分の視覚をバグだと認めるのは勇気のいることだから。
騙す意図がなくても、そういった理由で有りもしないものが有ると認識してしまう人もいるという訳だ。
他にもわかったことがある。
幽霊は夜しか行動できないイメージがあると思うが、全くそんなことはなく、昼間も普通に動けるし、むしろ夜は寝ている。
その辺りは普通の人と同じで、むしろ健康的な生活を送っているとも言える。
あと衝撃的だった事実で言えば、幽霊は人には全く干渉できない、ということだ。
幽霊から人に触れたり声をかけたりすることはできない。もちろんこの逆もできない。
幽霊は幽霊にだけ干渉できて、それ以外のアクションは不可能なのだ。そのような状況に強制的に置かれてしまうのが幽霊というものである。
これは予想外だった。幽霊になったら誰かを守ったりできると思っていたし、誰かに呪って具合を悪くしたりできるものだと思っていたからだ。
本当に残念だった。こんなことなら早く教えてほしかったのだが、幽霊からしたらその手段がないから仕方ない。
また、幽霊は気が付くと消えてしまうらしいこともわかった。
これに関しては原因まではわかっていない。昨日まで話していた仲のいい幽霊がいなくなってる、なんてことは日常茶飯事だ。
消えていく理由は不明だ。時間というわけでもないようだし、よく言われている無念だったことが解決したから成仏するといったわけでもなさそうまだ。
まぁとにかくいつ消えるかわからない恐怖と常に戦いながら幽霊生活を過ごさなければいけないのが辛いところだ。
幽霊になって良くなかったことばかりかと言われたら、実はそうでもない。
もちろん楽しいこともあって、働かなくてもいいというのは重要だろう。
人は生きるために大人になるとお金を稼ぐことになるが、生きる為にしなければならなかったことをする必要がないのは大きなメリットだ。それだけは幽霊になって良かったと言える。
ただ、まぁおすすめはしない。
自由とも言えるが、不自由さもある。
というのも、動ける範囲が極端に狭い。決められた空間から出ることができないのだ。
これも予想外だった。
幽霊になる前は行ける範囲ならどこでも歩いていけたし、乗り物を使えばある程度距離があっても移動が可能だ。
しかし、いざ幽霊になってみたらほとんど動けない。決められた場所に居続けなければならなくなり、物理的に不自由になってしまったのだ。
地縛霊という存在がいると幽霊になる前は聞いていたが、まさに幽霊とは全て地縛霊だと言えるだろう。周りにいる幽霊も同じように移動できる範囲が決められているので、まぁ大体そうなのだろうと推測できる。
さて、幽霊のデメリットがわかってもらえたところで、今日は眠ろうと思う。
いつかまた、幽霊から人に戻ることができるのだろうか。
人だったときのことを思い出す。
よく考えると、別にそんないいものではなかった。だったらずっとここにいてもいいのかも知らない。
狭いけど自分の部屋はあるし、鍵はかかっているけど部屋の中なら自由にできる。
窓は開かないが大きいし、部屋も白く清潔で心地良い。
奇声を発しても怒られない。
人を殴ったら縛り付けられるけど死ぬわけじゃない。
僕は幽霊だから。
これからもきっと幽霊だから。
死ぬまでここにいるんだろうな。