土曜日は街のスタンディングに参加してきた。天気は曇りだった。前回は開催場所から道路を挟んで反対側の交差点に1人で立っていた方がいたのだけれど、今回は参加していなかった。それでどうしようかといくぶん迷って、この日は自分がその場所に立つことにした。そこに立つまでは緊張したけれど、立ってみると街の人々の余りの黙殺っぷりに緊張どころか気持ちが萎えてしまい、すぐに慣れてしまった。そしてなんて政治的に保守的な土地なんだろうと空恐ろしい気持ちになった。
それでもしばらく経ち続けていると、自分より若い人が笑顔でグータッチをしてきてくれたり、外国の方から声をかけられて一緒に写真を撮ったりもした。他にもプラカードを見て「ガザって何?」と連れ合いに訊ねている人もいたし、また別のグループで「ガザってあれだろ、太田ステファニーの……」と冷笑気味に言った後に太田ステファニーさんが文学賞の会見で発した言葉をすらすらと暗唱して熱烈なファンぶりを隠しきれていない人もいた。チラシを受け取ってくれたらよかったのに。
一方で、スタンディングの主催の方(女性)に文句を言ってきた年配の男性もいた。その人は主催の方との何度かのやりとりのあとに主催の方が自分の意見に賛同しないとみるやいなや声を荒げ始めた(パレスチナ人が殺されるのは無念だが、日本がイスラエルを支持するアメリカを敵に回すと海外の脅威から守ってもらえなくなって我々日本人の命が危なくなる。だから君たちがやっていることは我々の命を危険に晒すことと同じだ。すぐにやめたまえ、といった旨の主張だった)。
私はその時たまたま反対の交差点から戻ってきたところで二人の近くにいて、その様子を見張っていたので、相手が激昂したところで「大丈夫ですか?」と主催の方に声をかけにいって隣に立って、それからプラカードを掲げつつ、絡んできた相手と目を合わせないようにしながら相手の方に顔を向けつづけた(サングラスをしていた)。最初は火に油を注ぐようなことになるんじゃないかと恐ろしかったけれど、そうはならなかった。むしろ私が入ってきたことで相手の気勢が削がれた様子が見て取れた。それから相手はだんだんとトーンダウンしていき、やがてごにょごにょと何ごとかを口ごもりながら去って行った。なるほど、男性表象が関わってくるとこんな感じになるのかと思った。
今まで絡んできた人は一様に年配の男性で、若年女性表象の方が一人で行動しているところを狙ってきていた。今回の人も同じだった。たぶんあたまから女性をナメてかかっているのでそういうことができるのだろう。で、思い通りにいかないと癇癪を起す。男性表象が関わってくると気まずくなって離れていくようだが、でもこれは絡んでくるようなタイプの外国人相手には通用しないように思う(そういう場合は複数人で囲むのが適切な方法らしいが、まだ実践したことはない)。
とりあえず、土曜日の件については私は自分の若年層男性表象を利用することができたのが良い経験になったと思った。今度のスタンディングの時に他の男性表象の参加者の方に、他の参加者が一人でいるところに何者かがいちゃもんをつけてきたらこういう風にしてみてくださいと伝えてみる。
街角でプラカを持って立ちながら、超保守的な熊本の人々の様子を目の当たりにしていると、もし今後自分が徴兵されるようなことがあったとしたら、男だけの集まりの中で私は誰かから「こいつはあの時あの場所でスタンディングに参加していたぞ」と吹聴されてハラスメントの標的になるんだろうなとか、わかったような口をきく輩が「こんな状況(戦争)で反対だなんだとごちゃごちゃいったところでどうにもならないんだから、(国から)言われたことをてきぱきとやってさっさと終わらせたほうが、面倒ごとから早く解放されてよくない?」みたいなことを宣ったりするんだろうなとか、そういう嫌な妄想が思い浮かんでくる。他にも、今こうしてスタンディングをしていることで自分はあとあと大変なことになるんだろうかとか、不利な立場に追い込まれるんだろうかとか、色々気になってくる(自分のことばっかりだ)。でも今この状況で虐殺反対と言わなかったらこの先何があっても何も言わないだろうなと思うし、黙って中立を保とうとしてもあっという間に同調圧力に呑まれて加害者の側に回ることになると思う。先のことはわからないが、今ガザで起きている虐殺に反対であることは変わりないし、今は声を上げることはできるので、私は声を上げることにしよう、と、そんなことを考えつつ、小まめに水分補給を挟みながらスタンディングに参加している。早く停戦してくれ。虐殺をやめろ。G7のバカ。
スタンディングのあとに橙書店でジンジャーエールを飲んで一休みした。その後本を読みながら過ごしていたところ、不意に声をかけられて、振り返るとスタンディングの主催の方々がお店に来ていた。お疲れ様ですとお互いに言って、それからお茶をしながら話をした。私はまさかここで再会するとは思っていなかったので、いきなり声をかけられた時に頭が真っ白になって、その後も上手く話せなかった。次またそういう機会があったら上述した誰かが絡まれた時の対処法などについて話をしたい。
その後は薬園町のタケシマ文庫に行き古本を何冊か買って帰宅した。ずっと欲しかったSF小説の単行本が買えたので嬉しかった。その翌日の日曜日は一日中寝て過ごした。
