昨日から、ちあきなおみ「黄昏のビギン」にハマって繰り返し聴いている。とてもエモーショナルな印象のある曲だけど、歌詞だけを見るとそうでもなくてむしろ落ち着いている。歌詞の内容は雨上がりの夕暮れの街で恋人とキスを交わした時の情景を思い出して語っているという形式で、キスの際に語り手の目に映ったもの(天気、街の様子など)や相手の唇の感触などの記憶を1つずつ描写していくのだが、あくまで淡々とした客観的な情景描写が続くのみで、心理描写は一つもない(どんな気持ちだったとか、どうしたいと思ったとか)。その代わり演奏と歌唱がとても品のある感じに煌びやかで、感情豊かになされているので、歌を聴いていると語り手の心が幸せな気持ちで満たされている感じが伝わってくる。大事なことはあえて言葉にしないというまるで俳句みたいな表現の仕方だと思った。
楽器の音と声が美しくて、それを何回も聴きたくて繰り返し聴いているうちに歌詞も覚えてしまって……という流れの中に今いる。永六輔が作詞をしているのも昨日はじめて知った。私は「上を向いて歩こう」の歌詞も好きなので、今度永六輔の詩や書いた本を読んでみたい。今日図書館に行ったので借りてくればよかった。
この曲は全部通して聴いたことは今までなかったけれど、何となく知っていた。何で知っているのか思い返してみたところ、おそらく幼少の頃に見ていたテレビのロードショーを録画したVHSビデオテープにこの曲を使用したCMが入っていたから、ビデオを何度も見ているうちに曲を憶えたんじゃないかと思った。両親がファンでよく聴いていたとかではないので、たぶんそうだろう。
しかし、ちあきなおみの歌は声がだんだんと抜けて消えていく時の表現が美しくて、聴いていると思わず溜息が出る。
以下は『虎に翼』の感想。
今日の『虎に翼』とてもよかった。徴兵されていた轟が戦地から帰って来て花岡の死を新聞で知り、ヤケ酒を煽って酔いつぶれたところに空襲を生き延びたよねが現れて……という話。
正直なところ、私は花岡が寅子との関係を築くことを諦めた件について、よねと轟が花岡を詰めるシーンにあんまりピンと来ていなかった。そのあと寅子の妊娠が発覚した際によねが怒りを露わにした描写も。でも今日の話で腑に落ちた。あのシーンがないと今日の話が活きてこなかっただろうと思う。
轟があんなに飲んだくれていたのに花岡の死亡記事が載った新聞を手放したり破り捨てたりせずにずっと握りしめているところ、花岡に対して抱いていた恋愛感情が轟の中にまだ確かにありつつも持て余してしまっている様子を、セリフを補完するような形で視覚的に表現していて良かった。ベンチのシーンで一瞬入る回想のおかげで轟は花岡と法廷で会うことを望みにしていたのに相手は死んでいなくなってしまったから、先の予定なんて本当に何にも無くなってしまっていたんだろうなというのもよくわかった。よねさん最高だったし、最後の「帰るぞ」というセリフの温かさよ。
『ぼっち・ざ・ろっく!』もそうだったけど、吉田恵里香さんの脚本は、ひとりの初めてのバイトのあとの虹夏からの「ぼっちちゃん、またね」とか、『虎に翼』だと初めて裁判の傍聴に行って帰り際に諍いが生じたあとに寅子がよねに向けていった「また明日、学校で会いましょうね」とか、今日の「帰るぞ」とか、そういうセリフがすごく良い。相手との関係に安心することができる瞬間が描かれているというか。私は自分がこういう言葉をかけてもらえるととても安心するので。キャラクターが言われていると素直によかったねと嬉しくなる。ぼざろは演奏シーンももちろんすごいけど、私はキャラクター同士のやりとりを通じて描き出されている空間がとても好きでいる。
そういえば『虎に翼』でもう1ヵ所、先週の金曜日のエピソードでいいなと思ったところがある。一仕事が終わった後にライアンがみんなのいる前で寅子にハグしようとしたところで、寅子が「なんですか?!」と驚いてさっと脇に飛び退いてハグを拒否するシーンがあった。あの描写はすごく良いと思った。どこがいいって、他人からいきなり同意なく体に触れられることの気持ち悪さったらないから、ああいう感じで嫌だと態度で表してもいいんだということが描かれていたところがよかった。その後のライアンもしつこくなかったし、今日の最後の場面でも彼は飲みの誘いを断られてもやっぱりしつこくなかったのでよかった。しかし、演じている俳優は以前参政党の集会に応援にいって演説しているというニュースを読んだことがあるので、そこははっきり嫌だなと思っている。
話を戻す。今作の製作陣は作品の意図がなるべく視聴者全員に伝わるようにあらゆる手を尽くそうとしているなと感じていて、私はそこに好感を持っている。
それにしても、よねと轟の二人が法律事務所をやるだなんて最高の展開だった。このバディの話をスピンオフのドラマにして平日の夜に1話15分で放送してくれ。