あの日の光景

kotori
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未だに病院では入院の面会に制限が掛かっている。手術の立ち会いもできない。病院によって対応はいろいろだろうが、少なくともわたしの家族がお世話になっている病院はそうだ。

でも電車に乗るともうほとんどの人がマスクを着けていない。連休は行楽地で人が溢れかえっていた。

改めてあれは何だったんだろうと思う。

わたしは多くの人と対面で仕事をしている。もっとも厳しい状況ではさすがにしばらく閉鎖を余儀なくされたが、こういう時こそ利用したいと言う声が寄せられさまざまな工夫をこらして再び開館した。

正直、仕事をするのはとても怖かった。利用者に感染させる恐怖がもっともだったが、それとは別に逆に自分がうつされた時はどうしたらいいのかと思った。たった一枚のアクリル板の他には、誰も何も守ってくれない。仕事の間は業務に夢中なので忘れているが、ひとりになった時に恐怖に襲われ震えた。

病気自体への怖さ以上に、しがらみや思惑や気遣い、不安、恐怖がのしかかり、とうとう流行病とはまったく違う別の病に倒れた。

丁度連休の最中だった。休日診療をしている病院に連れて行ってもらう車の中から、今まで見た事のない街の風景に驚いた。いつもはおびただしい外国人観光客で溢れかえっているターミナルがほぼ無人だった。修学旅行生も地元の人も誰もいない。走っている車もほどんどない。街全体が異様に静かで死に絶えているようだった。

あの日の光景は忘れられない。

@kina
願うのは静かな暮らし