猫たちと暮らすようになって何がいいかと言うと、日中、自分以外の生物の気配が感じ取れることだ。それ以前はまったくのひとりぼっちで、仕事部屋から出るとしんと静まり返った屋内をわびしく思ったものだ。ぶうんと時折意識する電子音はむしろ怖かった。家に怠惰な生活を見張られ、咎められているような罪悪感に襲われた。
今、猫たちとわたしは基本的に各々勝手に暮らしている。
時間になればとことこやって来てご飯の催促をする。また寂しくなった時もとことこやって来て、頭を撫でろと要求してくる。気が済んだらまたどこかへ行ってしまう。この距離感がわたしにはとても心地いい。人間もそうであればいいのにと思う。
時々、家のどこかで猫たちが遊んでいる音がする。微笑ましい。カリカリと爪とぎをしていたり、ガサガサとトイレの砂を掻いていたり、ドドドとオモチャを吹っ飛ばして追いかけっこをしていたり。だいたい何の音かは見当がつく。
ただ時にスーッと引き戸を開ける音がするのは何なんだろうか。確かに隙間さえあれば爪を引っかけ乍ら開けることは可能だ。が、あそこはピッタリと閉じられた引き戸だったはずだ。それをスムーズに開く音が聞こえる。
面倒くさがりのわたしは敢えて見に行くことはしない。
それを知っていてあやつら、二本足で立ち上がって、澄ました顔で引き戸の取っ手に手を掛けてスライドさせて開いているんじゃないのかな。
まだ現場を押えたことはないが、ひょっとして誰も見てないところで猫たちは人間になってるんじゃないかという疑惑がずっとある。