思い出が物価高の攻撃力を上げてきた

きなこ
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公開:2024/10/18

出先で、学生時代にバイトしていたパン屋のパンを売っているのを見つけた。そういえば病院の売店や物産館とかにも卸してたもんね、懐かしいなぁと手を伸ばして、そのあまりの小ささに衝撃を受けた。

秋限定の、栗あんぱん。記憶の中では手のひらを広げたサイズだったのに、完全に手の中サイズだ。いや、バイトしていたのはもう20年近くも前だし、材料費高騰とか色々あるしあの時と同じなはずはないんだけれど、ああでも形はあの時と同じなのに、こんなに小さく……と店先で物価高に改めて打ちひしがれた。

もともと朝型なのと、通学経路上にあるということで、人生初のアルバイトに選んだ個人経営のパン屋の早朝バイト。特に食パンがおいしいと近所でも有名な店で、夏になると、普段流れている有線放送の音楽が甲子園のラジオ中継に変わる店だった。

時給は安かったけれど、シフトが比較的自由だったこと、同じ時間帯に入るパートさんたちが優しかったこと、あと原付で出勤する時の朝の空気の冷たさが心地よくて、途中他のバイトと掛け持ちもしたけれど、卒業までの4年間、週3、4日のアルバイトを続けることができた。

早朝手当という名目で、学生バイトは朝ご飯用に好きなパンを2つ、もしくはサンドイッチを1つ持って帰って良いことになっていて、1限の講義が始まる前、誰もいない古い学部棟の教室でパンを食べる。その時間も私は好きだった。特に秋の、窓の外のイチョウの葉が色づいていくのを静かな教室で眺めるのが、そしてその雰囲気に浸って一人ほくそ笑みながら食べる栗あんぱんが好きだった。

その栗あんぱんが、こんなに小さく……物価高は身にしみているつもりだったけれど、思い出がよりダメージをより深くすることもあるんだなぁ。と思いながら、せっかくなので購入。家に帰っておやつに食べてみたけれど、早朝の労働と誰もいない教室と、イチョウの木がないからか、どこか物足りない味な気がした。