クリスマスのセルフプレゼント、オーブントースターを古いのと交換した。古い方はひどく汚れている。最後にきれいにしていたら、裏にかすれた父の文字で1978.11.22.¥5800と書いてある。45年前…。
ひっくり返すと底には穴が開いていた。危険やん。どおりで妙に下が汚れると思った。最後にもう一度パンを焼くつもりだったがやめた。トースターはダイヤルを回しても時々反応が悪くなっていた。「疲れたよ。いい加減にして」と言っていたんだね。ごめん。
45年前の5800円はそれなりのお値段だ。今回買ったトースターの方が安い。性能も高い。45年前なら3万円くらいしたかも。45年前に思いを馳せる。
そのころからずっと迷子になっていた気がする。いつどこで何をしていても、そこは居場所ではなく通過点のように感じていた。ここではないどこかを探していた。「本当の自分」というやつだろう。浮き足立って、つかんだと思ったら失った。その繰り返し。
でも今は今に満足している。先のことも考える。でも取り組めるのは目の前にあることだけ。次の一歩を踏み出したら方向が変わるかもしれない。真っ直ぐ進めないかもしれない。だから先を急いで今を迷子になることはなくなった。
そこまで来るのに45年かかった。かかりすぎだ。その間にあった可能性を全て失ってしまった、かもしれない。でもこれがわたしで、わたしの人生で、他の人生はあり得なかった。
きれいになったトースターは年が明けたらこの家から出て行く。失敗に終わった45年間。その間ずっとそばにいたトースター。何だか笑える。
過去を抱いて前を向いて今をコツコツ生きる。できることはそれだけで、それで充分なのだ。今の自分を少しでも肯定できるなら、そこに至る過去は失敗ではなかったのだ。