昨年の12月から週一回、映画を観るようになった。きっかけは思いがけないことだった。
12月の初めに友人が或る大学に併設されているギャラリーに誘ってくれた。現代美術の展覧会で、今までならさして興味を持たなかったのだけど、久しぶりに友人に会いたかったのと、たまにはこういったものを見るのもいいかもしれない、と思ったのだった。
3人の作家のインスタレーションはとても興味深くて面白かった。見終わって友人とキャンパスを散策した。友人が「展示中」と書かれた小さなポスターを見つけた。そこは図書館だった。
大学の図書館なんて何十年ぶりだったろう。町から書店がどんどん消え、最寄りの小さな図書館もたまに行く程度だ。何列にも並ぶ背の高い書架の間をゆっくりと歩く懐かしい感覚。机に向かう学生たち。その大学の学部ならではの本もたくさんあって、友人と一緒に小声で興奮した。
さらに興奮したのは別の階にあった視聴覚資料の棚を見つけたときだった。CDやビデオ、DVDがずらっと並んでいる。こんなものが見放題だなんて。視聴ブースの豪華なこと。なんて贅沢なの。思い出したのは入館手続きで職員の方に言われた言葉だった。確か、1日だけですか?とか何とか…。
受付に戻ると、誰でも1年間の入館パスが作れるという。ここに通おう。即決だった。その場で職員さんが写真を撮ってくれて、ささやかな身分証明証ができあがった。
もう長いこと定期的に行く場所といえば母と自分の通院や介護施設。楽しみや興味のためにどこかに行くのは年に数回の特別なイベントになっていた。ここで週に一度、必ず映画を一本見て本を読もう。そんな時間をルーティンとして持っても良い。新しい行きつけの場所が今のわたしには必要だ。
乗り継ぎで利用するスクールバスの窓からは母がお世話になった介護施設が見える。その小さな窓の明かりの中にかつて母がいた。帰りはちょうど夕食時で、フロアでは懐かしいスタッフの皆さんが忙しく入所者の世話をしているはずだ。あの窓から母は季節の移り変わりを眺めていた。その景色の中を今わたしは走っている。
母がお世話になるまで、この地域はわたしにとって超アウェイだった。以前なら通おうなんて思わなかったはずだ。これも母を介護したご縁、プレゼントなのかもしれない。