「川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない。でも清瀬は水底の石がそれぞれ違うことを知っている。川自身も知らない石が沈んでいることも。あるものは尖り、あるものはなめらかに丸く、またあるものは結晶を宿して淡く光る。」
カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることになる──
清瀬が松木や職場の人との関係を通して「当たり前」とは何かを考え少しずつ考えが変わっていくところにグッと引き込まれた。
ディスレクシアやADHD。感情移入できる人物がいた訳ではなかったけれど、私にもきっとそういう人と比べて同じように苦手なところが確かにある。自分にとっての当たり前が、他人にとっての当たり前ではない。家族や友人、大切なあの人でさえ、実は表面しか見えてないのかもしれない。川底は簡単には見えない。でも、それぞれ違うかたちがあることを、私は知っている。思い込みで人に接することをしたくない。ひとの痛みを想像すること。受け止めること。忘れたくない。忘れない。