素の声が低い人間が何故音程の高い楽曲ばかり歌うのか

kiri
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公開:2023/12/30

最近掲題のようなことを問われなるほどと思ったので言語化してみる。これにはいくつか論点がありそうだ。

1. 高い声が出るのが偉い的な印象がままありがち

まず一般論として、高音が出るイコール歌唱が上手い、すごいというような(誤った)印象はありがちではある。しかし、歌唱がよく聞こえるのに重要なのは響きの品質やコントロール、それらを用いた表現力の話であるし単に高い声を出すだけなら大体どうとでもなる。歌唱はびっくり人間大賞ではないので聞くに堪えない質の高音が出たからと言ってうまさと関係がないことは発声の機構に関心がある人間にとっては概ね常識的な認識であろうと思う。

関係がないと言うか、正確に言うと低音域から始まる全ての音域について質の高いコントロールで発声ができていればその人にとって無理のない範囲の高音も自然と出るようになるということであって、なので例えば「高い声を出せるようにするために発声練習する」というのは基本的に良くない(動機としてはなんら問題はないが、目的意識としては間違っている)ことだし、そもそも私達(生来の日本語話者の?)現代人は天然のままならほぼ全ての場合低音域の時点で発声品質が悪いと思った方がいいという認識で私はいる。

話がずれた。しばしば90年代JPOPによって形成されたと言われがちの高音=偉いという風潮により分不相応に音程の高い曲に手を出しがちなことはあるだろうが、私の場合は上記の通りあまりそれは無い、と思う。ただ、私は自身の高音の品質がまだまだ完全に終わっているという認識なので、無理をしていると言えばしているし、他人に聞くに堪えない声を聞かせているという自覚はある。

2. 歌唱に対する認識がスポーツやある種の探求に近い

1とやや矛盾した話になるが、一方で、当然普段の喋り声のレンジと外れた音域については喉頭周辺(の機構によって生じた響きについての体感)に対するより繊細なコントロールが求められるのは当然なので、単純化すれば「高音が出る=歌唱が上手」は間違ってはいないとも言える。あくまで「(よくコントロールされた)高音が出る(ry」ではあるし、それは低音でも同じ話なわけだが(単に、そんな低音を用いた楽曲がポップスではそこまで流通しないだけ)。

その意味で、私は厳密に言うと純粋に歌唱が好きというよりも発声の機構に関心がある、それが最も如実に現れる領域が歌唱であるという方が近いため、イージーに実行できることよりもチャレンジが多い方が退屈でないということはあると思う。もっとも、それを言うなら一番チャレンジングなのはおそらく低~中音域で終止する楽曲を念仏にならず豊かな響きと表現力で聞かせることな気もしているが。

逆に言うと、私にとって歌唱というものはそれが飲み会からの延長であろうと(というか、99%そういう場でしか歌唱などしないわけだが)でかい声で叫んでストレス発散、というものではなく神経を使ったアクティビティをしているという認識ではある。そのため、本当は深酒をしている時はあまりカラオケには行きたくないのが本音ではある。

3. 流通している楽曲が高音を要するものしかない

これはシンプルな話だが、私は曲展開が素直なものよりもひねりがあったり複雑なものを好みがちなので、アラフィフのいい年にも関わらず、自分の年代に刺さる古さのものよりも(それはそれとして大事な記憶ではあるが)最近の(言い方は悪いが)ガチャガチャして妙に凝った造りの楽曲の方がより好奇心が刺激される。で、最近の楽曲は基本的に軒並み高音が要求されがちではある。

4. そもそも私にとって「高音域でない楽曲」など存在しない

もっとシンプルな話として、私の音域は多分大抵の人の丸一オクターブほど低く、世間に流通するあらゆるポップスについて「これは一切のストレス・無理なくのびのび歌える」という楽曲があまり存在しない。例えば「天体観測」でも高く感じる・無理しないと歌えない(これについては、瞬発的な高さと言うよりも自分にとって一番いやらしい高さを少ないブレスで連発させられるという曲の構造の問題が大きいが)。もちろん低音域でメジャーな曲のあれやこれやがあるにはあるが、出せればなんの曲でもいいとはならない程度には音楽が好きで美意識もあるためとり得る選択肢とはならない。ただ、結局それらの楽曲も大抵最高音がE4~F4ぐらいであり、その範囲はもう私にとってどちらにしても天然ではいられず「発声」をちゃんとしなければ苦しい領域なので結局大して変わらん、という話になる。

つまり私にとってあらゆる楽曲はどうせきっちり「発声」しなければ歌唱できないものでありその高さがF4だろうがC5だろうが結局大変なので、であれば高さを問わず自分の好きな曲を選びます、その結果3の話と相まって音域が高止まりしがちというだけだと思う。

5. キー下げれば?

はい

とはいえ、私は音楽の才能に乏しく音感が悪いので無理。そもそも、ぶっちゃけ原キーで無理して逆に聞き苦しいとか愚の骨頂なので相対音感バキバキの人は普通にどんどんキー下げて歌唱すればいいと思う。

@kiri
エンジニアリングマネージャー @ IVRy