しずかなインターネット

日記やエッセイにちょうどいい
文章書き散らしサービス

ログイン

『幽冥の岸』を読んだ - 2026/09/18

kiritachibana
·
公開:2026/9/18

 前作から七年、本当に出るのかァ……? と思っているうちにこの日がやってきて本当に新刊の、そして多分最後の十二国記『幽冥の岸』が手元にやってきた。

 まあ読むよね読みますよね、それはね、すぐにね!

「戦城南」

 去思の名前が出てきてさすがに覚えていたけど、短章は覚えていなかった。黄昏の岸〜までは、多分どこにどんなセリフがあったかまで覚えているけれど、丕緒の鳥からは、明らかに毛色が変わっているというか、あえて主要な登場人物にスポットライトが当たらなくなっている感じがする。

 戴という国の行く末を描くことに焦点が当たっていて、世の中の理不尽さが余すことなく語られているというか。

 もちろん、現実の世界においては完璧な正義などなくて、虐げられた人が虐げる側に回る。裏切った人間たちにも切実な理由があったかもしれない。それはそう、なんだけど、あまりにも辛い。こんな世の中だからこそ直視しなければならない現実なのかもしれないけれど、最後のわずかな救いだけではしんどいなあと思ってしまった。けれども、これが戴の現実なのだよなあと。

「異邦の客」

 妖魔が跋扈する黄海の中、黄朱の里で育った聡明な少女が、閉じ込められた環境の中で自分が井の中の蛙であったことを知り、さらに彼女を庇護していた人たちも彼女を閉じ込めていたことを、異邦の客である二人から指摘されて自覚する。そうして、彼女が世界をさらに知る道へと続いていく。希望に満ちていてとてもいい……!

 戴のあれほどの荒廃と犠牲がなければ、これで納得できたんですけどね!!!!!

 巌趙の人の良さを知るにつけ、生死不明のまま何も語られなかったことや(おそらくは殿をつとめて戦死したのだろうけど)、好奇心旺盛な少女が妖魔を前にしてあれほど恐怖を感じながらも、冒頭で語られていたように命の重みを意識しないまま壮大な天に対する挑戦をし、あの惨事を引き起こしたというのはやっぱりどう考えても納得がいかないというかこう……。結局はあくなき好奇心によって戴を完膚なきまでに沈めかけた、という結論になってしまうのかな。救いがない。

 少なくとも『図南の翼』、『華胥の幽夢』まで、このシリーズって明確な悪意を持っただけの登場人物ってほとんどいなかった気がする。みんなそれなりに己の行動に責任を取ろうとしているか、取ろうと決意するようになるというか。

 あ、風の万里の昇紘とか黄昏の天官みたいなやつもいたか……。

 とはいえあの斡由でさえも、他責思考強めだったけど、あれはあれなりに荒れた雁でそこそこ頑張って州侯を務めようとしていたし、時代が時代ならそこそこいい感じの官吏になったんじゃないかなという感じもするし、「華胥」の彼も彼なりに才の行く末を案じていた(けどまあやり方は完全に間違えてる)、月渓と芳の先王なんてもうまさにやるせない関係だし……。

 わりと頑張ってるけどなんかちょっと上手くいかなくて道を誤ってしまう人が多くて、読み終えた後にも希望が持てるお話が多かったのだけれど、白銀は世の中って辛いよね……ままならないよね……をとにかく突きつけられた気がする。

 「裏切られてもいいんだ」という答えにたどり着いた陽子に励まされ、「戴が滅びるとしたら、私のせいだからです」という李斎の圧倒的当事者意識のおかげで若干社畜マインド刷り込まれましたよ! みたいな人間としては、もう少し希望のある物語であってほしかったかなあというのもあり。

 黄海の植物とか妖魔との対峙とか犬狼真君のくだりとかは楽しく懐かしく読んだ。里木、一本だけかと思ってたけど、大綱で語られたのと同じ十二本なんだねえ。黄海のなかに十二の国があるのと同じような感じがするから、それは天でも確かに議論を呼んでそう。

 ともあれ枯れたことをきっかけに黄朱の里で天の仕組みに対する釈義が盛んになっちゃったのかなあ。

「夢の結び」

 かぼちゃ!!! 南瓜大夫じゃん!! なんかめちゃくちゃ嬉しくなってしまった。そうだよねーいくら女仙に小馬鹿にされてても、蓬山にちゃんとたどり着くくらいだから、胆力も運もある人だったんだよね、と図南を読んだ後なら思えるわけでして。まあ鵬翼効果もあったのかもだけど。

 英章が何をしてたのか知れたのはよかったなという反面、南瓜大夫こと草さんの人柄が良すぎて悪いことが起きないか、最後まではらはらしてしまった。

 そういえば、異邦で白雉の足だけでは仙籍を削ることができない(偽王が悪用することができない)っていうの初めて知った気がするけど、これで潜伏してた英章や李斎たちの仙籍が削られることがなかった説明がつくんだなあと。

 あれ、でも月渓は祥瓊の仙籍削除してたよね? と思ったけど「附票によって仙籍に入った者」だからか。小野先生さすが隙がないぜ……!

 英章も白玉ちゃんを気に入ってそうだから、数年後にちょっかいかけるけど本人は草さん一筋で、絆された草さんに嫁にもらってほしい。健気で聡明な女の子が頑張って救われるだけじゃなくてさらに運命をばっちり切り開いていくの、本当に良かった。このお話でようやくちょっと救われた気がする。

「幽冥の岸」

 そして表題作。白銀直後の帯特典で読んでるはずだけど耶利の視点だったの完全に忘れてた。あと膝枕も!!!

 天の仕組みに対する疑問はもうそりゃもうごもっともとなってしまうけれど、まあでも使令の浄化に時間がかかった理由や最後に張り切って使令下しにいくぞ!! という意気込みが感じられたのはよかった。慶で気が緩んだ李斎の様子や、自分のために泣くことを「許す」といった景麒とその時の泰麒の心情を思うと、結局ぼろぼろ泣いちゃった。

 陽子にとって慶を背負うことが罰だという認識はちょっとショックな感じもしたけれど、良い王になっていつかそれが重荷だけでなくなる日がくるといいなあ。

 やっぱり阿選や琅燦の行く末や、墨幟だけでなく、もっと主要人物たちのその後を知りたかったなあと思わなくもないけれど、時の流れも鑑みるとこれ以上は望むべくもなかったのだろうなと。

 ホワイトハートやコバルトで書かれていていた作品、本当に素晴らしいものも多いけど、薄く引き伸ばされてようやく完結する、とか作者が本当はこんなの書きたくなかった、という言説もちらほら目にするので、十二国記はきちんと最後まで決着がついて、きれいに幕を引いてくれたのでよかったなーと。寂しいけど!!

 もう何回読んだかわからないくらい読み返したシリーズでした。また読もうかな!!