突然目の前に迫ってきた海。思わず落ちると思った。目の奥にはこのまま突っ込んで落ちるイメージが展開する。
防潮壁が続いて突然海への入り口がぽっかり開いていたのだ。海に呑まれるような気がした。
怖くて近づけない。
恐る恐る岸壁に近づいていくといい香りがして思わず息を吸い込んだ。海の香りが心地いい。海の香りってこんなにいい香りだったっけ?
たぶん冬だからだ。いわゆる記憶にある潮の香りは夏。もっと野生的。潮の香りと言いたくなる香りと海の香りと言いたい香りの違い。潮の香りには生き物が含まれ海の香りはもっと小さな植物的なイメージ。
いい香りだなと胸の奥に吸い込んだらさっきまでの怖さが小さくなった。
しばらくずっとここにいたくなった。