河童を待っていた

kisato
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あれは小学低学年の頃、夏の出来事だったのだろう。国道は危ないので平行に沿った田舎道の舗装されていない真っ直ぐな長い距離の道が通学路を歩いていた。周囲にはあまり家がない。学校から家までは約3キロ。現在GoogleMAPで見てみるとぎっしり家が建っている

大きな寺や美術家の立派な家がポツンと建ってて目立っていた。美術家の庭には冬のある日、雪像が立っていてビックリした事がある。美術館などで見かけるような石像、ギリシャ系の実物大の雪像は迫力があった。美術家かどうかはわからないけどきっと美術家、アーティスト。いったいどんな人が住んでいたのだろう。只者ではないと思う。

道の半ばに結構大きな竹林があった。

その竹林の前で同じくらいの年頃の男の子や女の子が何人かいた。もしかしたら同じクラスだったのかもしれないけどわからない。見知った顔はいなかった。たまたま近くに居合わせたんだろう。その中の男の子のひとりが河童が出るという話をした。

みんな竹林のすぐ側の道の端っこに河童に見つからないように1列に横に並んで座って竹林の方を見つめた。

男の子は竹林の方を見ながら目を逸らさず河童のことを話す。おれは見たんだと。どんななのか興味深々で聞く。

河童は背が高くほっそりしててものすごく早く走っていくのだそう。一瞬でシュッと音も立てずに走ってくから目を逸らさないで見てないと見逃してしまうんだと。

みんな息をひそめてじっと見ていた。見逃さないようになるべく目をつぶらないように見開いて竹林の中を見つめ続けた。さわさわと竹林が風に揺られるたびドキッとして河童かなとキョロキョロした。

いったいどのくらいそこにいたんだろう。しばらくそうやってある地点で諦めて帰宅したんだろう。

じっとみんなで見つめていたあの瞬間を今でも時々思い出す。楽しい時間だったんだなと。あの時のみんなも思い出すことあるのかな。誰も疑うという空気がなかった。疑うことを考える事の無い年頃だったのか。みんな真剣だった。その時見えなくてもいつか見るかもしれないと思ってたんだと思う。

それからその竹林を通るたびに竹林の中を歩きながら見つめていた。ふっと河童を一瞬見たような気さえしたけど見ることはなかった。

あんな風に信じて期待してドキドキしながら待つことなんてもう出来なくなってしまってることに気づく。楽しかったね。