わたしの部屋にひな人形を置くスペースはないけれど、お雛様とお内裏様だけでも出しておこうという母の考えにより、部屋のどこかしらの空きスペースにひな人形の場所がつくられる。ことしは背の高い棚のうえだった。
どうしてほぼ1ヶ月おくれでひな人形のはなしをしているかというと、出すには出すけれど片付けるタイミングを失って毎年ゴールデンウイークごろまでは外の空気に当たっているひな人形を、ことしはこねこがかじってしまったからだ。お雛様が持っていた拍子木にあざやかな糸が巻き付けられた備品が枕元に置かれていたのを見て、わたしはぶったまげて眠気がいっぺんに飛んだ。紐と木の板なんていう最悪のコンボを飲み込んでしまっていなかったのが不幸中の幸いだったけれど、どうやらいたずらっ子なこねこはお内裏様の持っていた木の板はガジガジにかじってしまったようで、誤飲疑いで朝から病院に駆け込んだ。
結果はよっぽど大丈夫なので様子見を指示されて帰宅。病院の待合室で、会うひと会うひとからかわいいかわいいと褒められていたこねこは、さいごにちょっと顔をあげてかわいらしくひと声鳴いてみせていた。
帰宅してからもこねこは元気に部屋中を走り回り、ひな人形の場所だった棚のうえで、のんびりと毛づくろいをしたりうとうとと目を細めたりしている。ごめんねお雛様とお内裏様、あなたたちをちょっとかじってしまったこねこは、ことしからうちで暮らすことになった子です。また来年も会うことになると思いますが、そのときはふたりを棚の中に飾るなどなにかしらの対策をとるので、どうかわたしの成長を見守ってくれたように、こねこのことも見守ってくれるとうれしいです。
これはひな人形をあぎあぎとかじり、病院でたくさんの褒めをもらい、棚のうえをわが庭と言わんばかりにくつろいでいるこねこです。