眠るとよく夢を見る。
私はおよそ1週間に一度の頻度で見ているので、よく見ると形容しても差し支えないだろう。夢日記を書いているせいだろうか。
ほんのごく稀に見ていて愉快な気持ちになる夢もあるが、大半は寝汗びっしょりで飛び起きたくなるような悪夢ばかりを見る。後頭部を銃でブチ抜かれる夢だったり、腹の中に石を詰められる夢だったり、赤い夕暮れの廃墟の街をひたすら化け物と歩く夢だったり、直近では自分で自分の脳みそをくり抜いてヨーグルトのパックに詰め替える夢を見た。
夢の中とはいえ、私の場合はきちんと痛みを感じるのでどれも碌なものではない。銃で撃たれたら焼け付くように痛いし、喉を切られたら逆流する血で息ができなくなって意識が遠のく。夢の中なのに。
私は夢の中で何回も死んでいる猛者なので、夢で死んだら現実でも死んじゃうんだよとかいう都市伝説に面と向かって鼻で笑う事が出来ると思う。夢日記をつけると明晰夢が見れるなんてのも嘘っぱちだ。夢を見ている時はそれが夢だと気付けないし、都合よく夢の世界を操作できないのでゲームオーバーを受け入れて死んでゆくしかない。夢で死んだら過呼吸を起こして目が覚めるだけだ。だから夢にまつわる都市伝説は、ほぼすべてが眉唾だと思う。
ただ一度だけ、幸せだと思う夢を見た事がある。夕暮れの部屋で、私と犬が一緒に寝ているだけの夢だった。犬に腕枕をする体勢で、私はベッドに横になっている。夕方5時の「まどいせん」が聞こえてきて、私達はうとうとしながらそれを遠くで聞いていた。窓から赤い夕陽差し込んでとても綺麗だ。
シーズー犬特有の柔らかくてツヤツヤの毛並みが夕日に照らされていた。「らんちゃん、あったかいね」と犬を撫でると、犬はムフンと鼻息を立ててまた眠ってしまった。
目を覚ますと私は真っ暗い自室で寝落ちしていて、何年も前に犬が死んだ事を思い出してみっともなく泣いた。
私はあれ以上に幸せな夢など、どこをひっくり返しても存在しえないのではないかと今でも思っている。
あの犬は利口で静かないい犬だった。是非とも再出演をしてほしい。