「なあ、これほんとにあってる?」
ポッキーの先を咥えながら、目の前の男が言った。咥えたままだから話しにくいのか、ちょっとだけ舌っ足らずな言葉を発しながら、金色の瞳で見上げてくる。
「合ってる合ってる。んじゃ、先に折った方が負けな」
「んー、」
世間知らずな(?)サキュバスは、俺の言葉に疑問符を浮かべつつも、こくりと頷いて目を閉じた。尖らせた口元には、青いチョコレートがコーティングされたポッキーの先があった。
ーーーー今日は、恋人同士でチョコを食う日。
そう、俺がつぐみに伝えたのは朝の事。つぐみの寝癖を整えてる時だ。
「チョコ? なんで?」
「バレンタインだから」
「ばれんたいん」
バレンタインはサキュバスの世界には無いらしい。平仮名言葉で繰り返すつぐみに笑って、額に唇を落としてソファの上に誘った。そこで取りだしたのが、つぐみが今咥えている青いポッキーだ。
「二人で端から咥えて、途中で折れなかったら成功」
そう言って反対側を咥えた俺を見て、つぐみがキラキラした顔で頷いた。恋人は疑うことをしらない眼差しで素直に反対側を咥える。
「ん、」
カリカリと、つぐみがポッキーを齧りながら唇を近づけてくる。ああ、本当に、俺の恋人は世界一かわいい。
咥えたまま静かに笑って、俺も少しづつ齧り始める。
次第に齧る音は消えて、つぐみが目を開けたのとーーーー俺達の唇が触れたのは、同時だった。
戸惑う金色の瞳が、俺を映して揺れる。何か言いたそうに開いた唇を、思い切りキスで塞いで、舌を絡めた。
「〜〜〜っ!?!?!?」
ぽかぽかと背中を叩くつぐみに、また笑みが零れる。次第にキスは深くなって、いつの間にかチョコレートの味はすっかり消えてなくなった。それでも唇を離すのは惜しくて、散々口内を愛撫すると、つぐみの身体から力が抜けて、俺に縋り付き始める。
ああ、もう、本当に。
俺の恋人は世界で一番可愛くて、愛しい。(終)