「絶対、無理」
これで四回目になる恋人からの否定の言葉に、俺は静かにため息を吐いた。俺の様子を見ていた男は「良いからほっといて」と言い放ち、ふて寝よろしくの勢いでベッドに寝転び毛布を被った。
「ほっとけねーからこうやって話してんだろうが。っか、まだ寝んな」
「しらな……っごほ、っ」
「あー……ったく……言ってる側から……」
被った毛布に手をかけて軽く揺すると、ふわふわした白い髪が揺れた。そして、頬を染めた恋人が顔中真っ赤にして────咳き込んだ。ヒュッと喉からか細い音が聞こえ、更に咳き込み始める。その様子を見ていた俺はまたため息を吐き、持ってきていた新しい冷えピタの封を切った。
「三十九度越えのくせにヤニ吸いてぇって喚くやつが居るか」
「あんね、お前にはわかんねーだろ……けど……っ、ヤニ切れってマジで……命に関わんの……」
「カスッカスの声で何言ってんだ。ほら、貼り終わったから寝てろ。んで、こいつは没収」
「う〜……」
高熱で瞳を潤ませている恋人は、声にならない声で呟いている。その言葉を適当に聞き流しながら、煙草を回収して男の額に冷えピタを貼ってやった。触れた肌はちょっと驚く位熱かった。薬は飲ませたが、これで下がらなければもう一度病院に連れていった方がいいかもしれない。
グズグズとごねている恋人をもう一度ベッドに寝かせ直し、氷枕とスポーツドリンクも用意しておくかと席を立つと、男の指に服の裾を掴まれた。
「? どうした? 苦しいか」
掴んできた指先を取り、ぎゅっと握りながら問いかけると半分目を閉じかけている恋人が、ううんと首を左右に振った。そして、
「……あかねちゃん切れもー……俺の命に関わるからさー……そこに、……ちゃんといてよ……」
「……」
そう言って、眠り始めてしまった。
穏やかな寝息が聞こえてくる中、俺は指先を握ったまま胸を甘く締め付けてくるこの気持ちをどうやって消化したら良いのか、頭を悩ませた。